音楽レーベル「4AD」に学ぶ、世界観のつくりかた
4ADという音楽レーベルが好きです。
なぜ好きかというと、所属アーティストの音楽性、アートワークの独自性、レーベルとしてのスタンスなどに魅力を感じているからです。そのため、4ADから作品がリリースされるたびにチェックするほど、信頼感と期待感を抱いているレーベルです。
そんな4ADは他の音楽レーベルと比べても、多くの人が一定の共通した世界観を思い浮かべるレーベルだと思います。そこで今回のnoteでは、なぜ4ADがこれほどまでに世界観を構築できているのかを自分なりに整理して、ブランディングという観点でまとめていきたいと思います。
4ADが好きな方はもちろん、ブランディングに携わっている方の参考になれば幸いです。
4ADの世界観を堪能できるプレイリストを用意しましたので、聴きながらお読みいただけると嬉しいです。
4ADのここがすごい
4ADは1979年にイギリスで設立され、現在も運営中の老舗の音楽レーベルです。40年以上の歴史があり、数多くのアーティストが作品をリリースしているため、日本でも世代を超えて、根強い人気を誇っているレーベルです。
そんな4ADを語る上で外せない「ここがすごい」というポイントを紹介します。
1:らしさを感じる多様な音楽性
設立当初は、4AD創業者の趣味が反映されていたこともあり、Dead Can Dance、Bauhaus、Cocteau Twinsといった、ゴシック調で退廃的な音楽性を志向するアーティストを中心に抱えていました。そのため、4ADといえば、「耽美的・幽玄的・幻想的・退廃的なサウンド」といったイメージをもたれるようになりました。
その後、時代の変化とともに、所属するアーティストも多様になり、音楽的ジャンルの幅も広がりをみせていきました。しかしそういった中でも、耽美的で退廃的な4ADらしいサウンドは、どのアーティストの根底にも受け継がれていることを感じ取ることができます。
2:ビジュアルの一貫性
音楽性と同時に語られる4ADのもう一つの特徴が、アルバムのジャケットに代表されるビジュアルの一貫性です。デザイナーとしてはここが最大の関心事でもあります。
これらのジャケットの多くは、ヴォーン・オリヴァーというグラフィックデザイナーが手がけました。4ADからオファーをもらったオリヴァーは、1980年にフォトグラファーのナイジェル・グリアソンと「23 Envelope」というデザインチームを結成し、グリアソンが脱退する1988年までにレーベルカラーを印象付ける数多くのアートワークをデザインしました。
特定のアーティストのアートワークを一人のデザイナーが専任することはみられますが、レーベルのほぼ全てを一人のデザイナーに託すのは極めて稀なことでしょう。
その後、オリヴァーは「v23」というデザインチームとして、2010年代まで4ADの多くのジャケットを手がけました。オリヴァー亡き後も、4ADらしいアートワークは引き継がれていると思います。
3:美意識が根付いたレーベル哲学
4ADはニッチで実験的な音楽性も志向しながらも、時代の空気をキャッチする大衆性も持ち、商業的にも成功を収めているレーベルです。
The Nationalというグラミー賞を受賞したアーティストがいる一方で、決して商業主義にならずに、貪欲に先進的で新進気鋭のアーティストを発掘する姿勢も併せもっています。
その姿勢を貫いた長期的な経営をすることで、時代を超えて多様なアーティストが所属しているにも関わらず、音楽性やアートワークに至るまで、4ADの美意識や美学を、各アーティストから少なからず感じ取ることができます。
つまり4ADは、「聴覚と視覚でレーベルカラーをイメージづけ、それを徹底して貫くことで世界観を確立したレーベル」だと思います。
世界観という言葉
4ADの話は一旦置いておいて、度々出てきた「世界観」という言葉。みなさんは「世界観」と聞くと、どんなことが思い浮かびますか?世界観という言葉は色々な場面で出てくるワードですが、なんだか便利でよく使っちゃいますよね。でも意外と人によって解釈が別れる、抽象的なビックワードだと思います。
文脈によっては、ブランドが社会に対してありたい姿を指している時もあれば、ビジュアルが醸し出す視覚的な雰囲気を指していることや、フィクション作品の物語の舞台設定を指していることもります。また、これ以外の要素を指している時もあり、これらすべてを含んでいる時もあります。
このように、世界観の定義に正解はないと思いますが、いったんこのnoteでは、自分の解釈で定義づけると下記のようになります。
「世界観とは、機能的価値・情緒的価値・感覚的価値で得られた体験を通して、個人の脳内に浮かぶブランドイメージ」
といったところでしょうか。
図にすると、このようなイメージです。
要は、ブランドが触れる「全ての接点の体験」が蓄積されて世界観が醸成される。それがブランドにとっての印象になり、ユーザーのブランドに対する関係性に影響を与える。ということだと思います。
それぞれの価値について簡単に説明します。
機能的価値
ブランドやプロダクトの機能(品質、性能、技術、価格など)を通して提供できる価値。情緒的価値
ブランドやプロダクトの印象(企業理念、ブランドストーリー、ブランドイメージ、ブランドに対する感情など)を通して提供できる価値。感覚的価値
ブランドやプロダクトの感覚を通して提供できる価値。
情緒的価値と近い部分もありますが、それよりも時間軸は短く、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を通して、一瞬で人を惹きつける力みたいなイメージです。
昨今は、機能がコモディティ化し、他社との差別化が難しくなってきたため、機能的価値よりも情緒的価値がブランドを成功に導くために必要な要素と言われています。しかし、消費も早く、選択肢の多いこの時代に、深いことを説明しなくても短期的にスパッと一瞬で、感覚に伝わる力も必要ではないかと、今回のnoteを書いている時に思い、機能的価値と情緒的価値を繋ぐ、またはどちらかと非常に近い価値としてこの感覚的価値(←勝手に命名)を定義づけてみました。
4ADにおける世界観とは
この3つの価値に、あくまで自分が思う4ADのポイントを当てはめていくと下記のようなものがあると思います。ここに先述した「4ADのここがすごい」であげたものが一部リンクしてきます。
機能的価値
・らしさを感じる多様な音楽性(=ここがすごい①)
※音楽=一般的には感覚的なのですが、音楽レーベルとしては音楽自体が商品=機能なので、無理やりな気もしますが、ここにまとめました。
・歴史を生かした独自編集版のリリース
※歴代の4ADの曲を現在のアーティストがカバーした編集版など、企画性のある作品をリリースしたりしています。
・所属アーティストのラインナップ
・独自スタジオLiveの配信
・Webコンテンツの充実 など
情緒的価値
・美意識が根付いたレーベル哲学(=ここがすごい③)
・誰もが共通して浮かぶイメージ
・歴史から得られる信頼感や期待感 など
感覚的価値
・ビジュアルの一貫性(=ここがすごい②)
・Webサイトのデザイン
・アーティストの写真 など
これらの要素が個人の脳内で一体となって、4ADの世界観が形成されていると思います。
BXデザイナーとして学べること
・ブランドの軸をつくり一貫させる
これはビジュアルトーンの一貫性といった外見はもちろんですが、ブランドとしての姿勢や行動といった内面の部分も一貫させることが大事です。そうすることによってブランドに触れた人に、ブレのない体験や記憶が蓄積し、強固な世界観が創出されるからです。
・ブランドの軸を据えながら変化する
一定の軸ができたら、変えてもいい部分と変えてはいけない部分を明確にすることで、時代の変化に合わせて柔軟に対応できるブランドになることができると思います。これが、まだ軸ができていない時点で、またはできていても長期的に一貫しきれていない時期に、あれこれ柔軟に対応すると、ブランドの外から見ている人にとっては、イメージが定着しづらく、なかなか脳内で世界観が創出されない状況になってしまいます。
このように継続と変化を繰り返して、世の中の動きに対応しながら、世界観を構築していくことで、強いブランドをつくりあげていくことができるのではないかと思いました。
最後になりますが、ユーザベースのB2B SaaS事業のデザイン組織「DESIGN BASE」のサイトもチェックしていただけると嬉しいです。
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