見出し画像

デザインのそばに「そもそも」を

プロジェクトを進めていくうえで、判断に迷いや悩みが生じたり、モチベーションが低下したりなどして、プロジェクトが円滑に進まないという経験をした方は多いのではないでしょうか。そんな時は「そもそも」と考えてみることをお勧めします。

ここでいう「そもそも」とは以下の3つのことです。

1:そもそも「なぜやるのか」
2:そもそも「課題は何か」
3:そもそも「目的は何か」

今回は、プロジェクトやデザインにおいて、「最適で前向きな意思決定」に悩んでいる方に向けて、自分が心掛けている「そもそも」という考え方をご紹介できればと思います。

それでは、3つの「そもそも」について順に掘り下げていきましょう。

1:そもそも「なぜやるのか」

誰しもが、以下のように思ったことはあるのではないでしょうか。

「この仕事は何のためにやっているのだろう...」
「誰のために役立っているのかわからない...」
「このプロジェクトやタスクが全然面白くないんですけど...」

それは、そのプロジェクトやタスクを「なぜ」自分がやらないければいけないかという、意味や理由がハッキリと分かっていないからでしょう。納得感がなく腹落ちしない状態、つまりモヤモヤを抱えたまま取り掛かっているからだと思います。

人は、自分の行動に正当な理由づけをしないと、前向きに動けない性質を持っています。言われた仕事や何となくやっている受動的な仕事は、ただのタスクと化し、やりがいや楽しみといった点が削がれていきます。

そうではなく、自分ごと化できるような内発的動機に結びつけるために、「なぜやるのか」をまず考えることは、今から取り掛かる仕事のやる意味や価値を考えることに繋がります。

そのために自分の場合は、例えばこんな風に考えることを意識しています。

・なぜこのプロジェクトをやるのだろうか
・なぜこの人はこれをやりたがっているのだろうか
・なぜこの人はこう思っているのだろうか
・なぜ自分がやるのだろうか など

大事なのは、プロジェクトやタスクが生まれた、根源的な「なぜ」を理解することだと思います。
この「なぜ」の出所は、仕事を依頼してくる「相手」の場合もあるし、自分が思いついた仕事なら、当然「自分」の場合もあります。

個人的には「Why(なぜ)の裏には誰かのWill(想い)がある」と感じており、その相手や自分のWill(想い)を理解し、その想いを可視化することがデザインの力の一つだと思います。

Why(なぜ)には、後述する「課題」とか「目的」とかも意味的には含まれますが、ここでいうものは、どちらかというと、もっとエモいもの。想い、夢、ビジョン、原体験、信念、価値観...といったその人の感情があらわになる感覚のようなものです。

なぜWhyが重要なのか
それは、人は感情で意思決定をするからです。 ロジカルに考えても、最終的には感情で意思決定をします。 Whyの理解が、自分自身の行動のエンジンとなるからです。 取りかかるプロジェクトに対して、自分が力を入れる最初の動機付けになるものだと思います。

サイモン・シネック氏による、TEDの「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」というピッチにおいても、「Whyの重要性」を彼の提唱する「ゴールデンサークル」を通して説明しています。


2:そもそも「課題は何か」

「デザインとは何か?」という問いに対して、状況や人によって様々な答えがあるとは思いますが、「デザインとは、課題解決」という答えは、広く一般的な答えの一つだと思います。また、その手前にある「課題発見」もデザイン思考の広がりとともに一般的になってきていると思います。

このように、「デザイン」は「課題」とは切り離せない関係であることは、多くのデザイナーが当たり前のこととして理解はしています。

ただ、そんなことは分かっているけど、プロジェクトが進行・複雑化していくうちに、アウトプットや手段などに夢中になってしまい、何をしたいのかよく分からないデザインになってしまうことも往々にしてあると思います。

そういう時は、たいてい「課題」を忘れています。
または、初めから「課題」が明確になっていません。

前者のように、忘れている場合は、プロジェクトの進行中に、課題の解決に向かっているかどうか、確認する癖を持つことで、課題から外れている場合は気付くことができます。
しかし、後者のように「課題」をしっかりと事前に考えていない場合は、そのプロジェクトにおいて適切な課題を見極めることをしなければいけません。

この課題を見極めるという行為は大変難しいですが、まず意識するポイントとしては、「問題を課題と捉えない」ということだと思います。

まず「問題」とは、表面的に見えて、顕在化しているただの事象にしか過ぎないことが多く、「課題」はその問題のもっと深くにある重要な気づきやポイントのことだと思います。

図にすると以下のようなイメージです。

表面にある「問題」が課題だと思わずに、また少し考えただけの「課題っぽい問題」に惑わされることなく、真の課題を見つけることが大切になってきます。

ここで問題と課題の例を一つ。

テーマ
「子育てが大変である」

そこにある問題(課題ではない)
・子供が全然言うこと聞かないこと
・いつもふざけてばかりいること
・おもちゃを片付けないこと
→表面的な事象が多い。

問題ではなく、真の課題は?
・自分に子育ての知識がないこと
→この課題を解決しようとあれこれ考える。

このように、表面的に顕在化している問題を解決しても、根本の解決にならないことは明白でしょう。

では、そんな課題はどうやって見つければいいのでしょうか?

これは非常に難しいです。
世の中には課題特定の方法が山のようにあるので、自分自身もどんなやり方がいいのかよくわかっていません。

それでも個人的に意識していることは以下の2つです。

・枠組み(フレーム)で考えること
・問いを立てること

・枠組み(フレーム)で考えること

つまり、考えるべき対象に対して、一定の「枠」をあえて用意することです。そうすると、この枠組みの中(範囲)で考えればいい、となるので思考の範囲が限定されるから、思考や発散がしやすくなるという効果があります。
ある事象に対して、自由に全方位的に考えてしまうと、思考の範囲が無限に広がってしまうので、あえて思考の範囲を「選択」して、そこだけに思考を「集中」させるということです。

枠組みの例としては、いわゆるフレームワークなどを中心に色々なものがあると思います。

・5W1H
・3C分析
・視点変換(もし○○から見たら…)
・過去〜現在〜未来
・Good/More
などなど
これらの枠組みはどれだけ引き出しとして持っているか、状況に応じて最適な枠組みを使えるか、が重要になってきます。

・問いを立てること

これは、いい答えや発想につながるための、思考の補助線として、物事に対して、疑問や批評性を持って、問いを立てるということです。

上記の、枠組みで考える、と同時並行で、勝手に脳内で行われている場合が多いですが、いろいろ考える中で浮かんできた「問い」で気になったものやもっと掘り下げたいと思えた「問い」を、テキストで書き留めるということを意識しています。

問いの例としては

・これを伝えると、ターゲットはどんな気持ちになるだろうか?
・競合他社はどんなことをしているのだろうか?
・この中で一番余計なものはなんだろうか?
・顧客が一番気にしていることってなんだろう?

このように、自由に気になったこと、思いついたことを、羅列するだけなのですが、何が切り口や突破口になるのかはわからないので、網羅的に問いを立てることが多いです。

最終的には、デザイン思考で言うところの「How Might We」のようなものに落とし込まれる場合が多いかもしれません。
How Might Weとは、「我々はどうすれば◯◯できるか」という構文で問いを考える、デザイン思考の方法の一つです。

これらの方法を使いながら、狭めた思考の範囲を掛け合わせたり、伸ばしたり、縮めたりして、グルグルいったりきたりしながら、解決すべき本当の課題を設定することを意識しています。


3:そもそも「目的は何か」

「目的」とは、課題を解決するために、成さなければならないことです。

目的はプロジェクトが進むにつれて解像度が上がっていくので、最初に見えている目的のままだと、プロジェクトのゴールイメージの解像度が高くなっていきません。

通常プロジェクトの最初は大まかな大目的があり、そこを目指していく中で、より精度の高い目的が顔を出してくるのです。最初に見えた目的で終わらずに、よりいい目的は何かを常に探し続ける姿勢が大事になってきます。

目的の例を一つ紹介します。

例として、企業の「採用サイト」を作る際の目的を考えてみます。
プロジェクトが立ち上がった際の、なぜ採用サイトを作るのか、という最初の目的は「採用のため」という大目的があります。
さらに解像度を上げて、仮に「企業の認知度がないため、採用サイトによって、インパクトをもたらす」という目的に解像度が上がったとします。
そこからさらに解像度を上げて、仮に「他社とは違う表現で、印象に残る採用サイトをつくる」という目的に最終的になったとします。
あくまで例なのでもっと解像度の高い目的設定はできると思います。
※もちろん、この目的を決める際は、前述の「課題」を意識して、その課題の解決に向かっている目的なのかを常に問うことが肝心です。

最初の大目的のまま制作を始めるのと、目的の解像度を高くしていくのとでは、プロジェクトの質、特にその先のアウトプットに大きく違いが出るのは明白ですよね。

もちろん、最初から解像度の高い目的が出てくることはまずはないので、ヒアリングやリサーチなどを通して、だんだん解像度が上がっていく場合が一般的です。なので、現状の段階で見えている目的は、現在の解像度としては最適なのか、もっと高める必要があるのかを常に考えておくことが大事だと思います。


「そもそも」の効果

では、これら3つの「そもそも(なぜ・課題・目的)」を考えることの効果はなんでしょうか。自分の答えとしてはそれぞれ以下です。

・「なぜやるのか」が分かると、自分がやるべき動機ができる。
誰かの想いが分かると、その想いのために、自分がしっかりと役目を果たさなければいけないという、「自分がやるべき動機」ができます。困難な状況や逆境の時に、乗り越える力を与えてくれ、頑張ろうと思える動機を見つけましょう。

・「課題は何か」が分かると、価値のある仕事ができる。
物事をよくするための、最も解決すべき課題を見つけ、そこをデザインによって解決することが、事業に最も効果や成果をもたらします。細かい問題を解決するのではなく(もちろんそれも大事ですが)、最も価値のあるデザインをしましょう。

・「目的は何か」が分かると、やるべきことに集中できる。
目的が曖昧だとどの方向に進めばいいのかと、悩みながらデザインをしなければいけません。そうではなく、目的が分かると向かうべき方向性が分かります。これだという目的を決めて、自分がやるべきデザインを見定めましょう。

「Willの力」と「Mustの力」
この3つの「そもそも」はプロジェクトにおいて、それぞれ別の力となって、作用すると思います。
・「なぜやるか」は、意思(Will)に関連し、
・「課題」と「目的」は、使命(Must)に関連します。

どちらの力もプロジェクトを進めていく上で必要な力なので、「そもそも」と考えることは、とても大切なのです。


デザインのそばに「そもそも」を

プロジェクトが進んでいくと、どうしても目の前のことや、アウトプット、今デザインしているものに集中してしまいがちですよね。

そうではなく、この3つの「そもそも」を、プロジェクトやデザインの進行中に定期的に思い返すことが大事なのです。
その中で、当初想定していた「そもそも」と現状がずれていたら、軌道修正を図る必要もありますし、逆に、現状に合わせて当初の「そもそも」をブラッシュアップしていく必要もあると思います。

ぜひ、皆さんもプロジェクトの途中で壁にぶつかりそうになった時は、「そもそも」を考えてみてはいかがでしょうか。

参考までに、自分の「そもそも」の知識となった書籍を紹介します。ご興味ある方はご覧いただけると幸いです。



最後までお読みいただきありがとうございました。
私たちDESIGN BASEではビジョンに共感していただけるデザイナーを募集中です。詳細は下記からご確認ください。

Cover Design: Kurumi Fujiwara

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?