英雄だった魔法使い【ファウストについての解釈】
ファウスト・ラウィーニア。約400歳。職業:呪い屋。
彼は東の魔法使いですが、生まれは中央です。妹と母と、祖父母の家で仲睦まじく暮らしていました。最初は魔法使いだということを隠していましたが、人間のアレクに猫の怪我を魔法で治したところを見られたことをきっかけに二人は友達となり、次第に周りにも正体を明かしていくようになります。既に400年前から魔法使いに対する偏見はあったみたいなのですが、アレクはファウストに対し偏見や差別の目を向けませんでした。彼は「魔法使いと人間は手を取り合って協力していくべきだ」という思想を掲げて革命を起こし、ファウストも彼と一緒に革命を率いていきました。
彼は世界を良くするためにと北の魔法使いフィガロに師事を仰ぎます。そうして一年間修行を積みフィガロと共に帰ってきたファウストは相当な戦力になったことでしょう。しかし最後の戦い目前にしてフィガロは無言で戦線離脱、そしてアレクの周りには軍が強くなるにつれて魔法使いの不祥事を報告したりおべっかを使う人々が増え、「幼馴染の親友同士」から「何をするかわからない魔法使いの集団の頭目」になってしまいました。そして側近に唆されたアレクはファウストを処刑することにします(側近に唆されて〜…ということをファウストが知っているかどうかは微妙)。ファウストはアレクのことを信じていましたが、その思いは届かず。魔法使いたちは追放され、ファウストは火炙りの刑に処されてしまいました。
従者であったレノックスに助けられたファウストでしたが、彼の元から姿を消し、一人で東の国へと駆け込みます。嵐の谷にたどり着いた彼は全てを憎んでおり、自分や仲間を裏切った人間は一人残らず呪ってやるという思いで呪詛について学び始めました。そうして呪い屋になり、今に至ります。
その頃のファウストは自暴自棄になっており、十数年の記憶はないそうです。
呪い屋の仕事を始めたきっかけは、谷に迷い込んだ魔法使いに「呪い殺したい人間がいるから手伝ってくれないか」と言われたことでした。断る理由がなかったためその依頼を引き受け、依頼呪い屋として営業しています。しかしある程度お客さんは選ぶようです。
選ぶと言っても好き嫌いがあるというわけではなく、相手に呪詛を跳ね返されるリスクのある時や、人を呪うことで依頼人の魂がさらに傷ついてしまう場合などです。
彼は数十年前に賢者の魔法使いとして選ばれ、現在は東の国の先生役をになっています。大いなる厄災による傷は見ている夢が溢れることです。
メインストーリーから受けた印象は、「元英雄だったけど裏切られて引きこもり根暗な呪い屋となってしまった可哀想な魔法使い」という、公式HPそのままって感じでした。どちらかというと敗者・弱者側に振り分けられると思っていたんです。
でもそうじゃなかった。ファウストは自分という芯を強く持っている魔法使いでした。根っこの部分にカインやリケのような、自分を支える柱を持っているんです。中身は東の魔法使いの要素が多いですが、全ての行動に人を思いやる気持ちが込められています。集団でいることよりも一人が好きなのは、他の人を巻き込んで絶望の奈落に導いてしまうかもしれないから。不幸にしてしまった人がいる以上自分に幸せになる資格はないし、裏切った人間を恨んで許さないべきだと、本来の気質を歪めてまで思っています。
驚くべきリーダー気質を発揮することもありますが、それは自分がリーダーになりたいからではなく、間違いは正すべきだと考えているためです。ヒースクリフに魔法を教えていたのも、前の師匠がとんでもないクソ男だったため見かねて助言をしたのが始まりでしたし。
そんな彼は自分のことを一度死んだ身だと思っているのではないかと私は解釈しています。火炙りにされたその時に、彼の人生は終わっており、今は生きているというよりも生き延びてしまっているという状態だと本人は思っている。だから何にも期待しないし、何も期待しないでほしいし、世界も自分もどうでもいい(といいながら困っている人や間違ったことをしている人を見ると助けずにはいられない性格なので無視することができません)。自分も幸せになろうとな思っていない。だから自分の身を使うことも厭わない。呪い屋のコンチェルトでは問題を解決しハッピーエンドに持っていくのではなく、自らが恨みを背負うことで人間たちを守ろうとしました。正義感の強さと自己犠牲を厭わない精神、そこにかれの不器用なところも相まってこのような結末になったのでしょう。
そうなのです。彼は優しい魔法使いですが、とてつもなく不器用です。政治的な根回しや、自分以外の考えの人を理解することがとても下手くそだと思います(ひまわり参照)。また本人の考え方がかなりの博愛的とも取れることから、彼の考えもわかってもらえず、人に誤解されることも多いでしょう。対価を求めずに人を信頼し、全ての人を愛し、そして人を魅了する彼が権力者から恐れられた結果が火炙りという結果だったのかもしれません。
そんなファウストは約400年間、嵐の谷に引きこもって一人きりで暮らしていました。本人は、時間が止まってしまったという風に言いますが、そういう暮らしが合っていたのだとも私は思っています。フィガロは嵐の谷を「ファウストにあった療養所だ」と言っていますし。ただこのせいで不器用に拍車がかかった可能性はあります。ただでさえ面倒な政治関連や他人の理解が難しいのに、人との接触がほとんどなかったのですから。
ここからは孤独について話します。ファウストの孤独に対する考え方は「毒にも薬にもなる」。フィガロと比較すると(自分の整理のため書きます)、彼にとっても孤独な時間は大切なのですが、それは自分のことを客観的に見つめ、分析するための時間としてだと思います。基本的にひとりぼっちは寂しいという考えを持っています。
しかしファウストにとって、孤独は癒しなんです。そしてそれができる理由の一つは上にも書いた、自分を支える柱を持っているからなんです。
彼は人に評価されなくても、人に認められなくても、自分で自分という存在を保つことが得意です。北の魔法使いや中央の魔法使いも似たところがあると思いますが、ネロやフィガロはそれが苦手です。人により自分の存在意義が壊れてしまいそうになるのはヒースやクロエでしょうか。これはまた各キャラクターの解釈を語る時にでも話したいです。
そんなファウストですが彼の悲劇は、火炙りにした張本人のアレクによって抹消されています。その上彼は建国に協力した聖者だと謳い、中央の国ではファウストを讃える聖堂があったり、彼の誕生日が祝日になっていたり。ファウストはこの話題を出すとわかりやすく不機嫌になります。
この間違った歴史のせいで、中央の国では「魔法使いは人間に尽くすべきだ」という考えが蔓延っています。ファウストは自分のせいで生まれた(訳ではないですが、当事者である)間違った歴史によって、今の魔法使いたちをも苦しめてしまっているとも考えられます。そのことにもファウストは苦しめられているのではないでしょうか。だからと言ってそのことを直そうと思っているかというとそうではない、というか考えあぐねているのだと思います。アレクが自分のことを聖なる魔法使いとした理由を、ファウストはまだ、多分わかっていない。アレクのことを恨んでいるというより、ずっとわからないんだと思います。
また、ファウストは信じることが得意…というか、どうしても信じてしまうことをやめられない魔法使いです。ファウストはアレクに信じて欲しかった、というよりもアレクのことを信じずにはいられなかったのでしょう。今も尚、彼はアレクのことを嫌いになりきれないでいます。そして似ていることを、フィガロに対してもしている、気がする。見捨てられ、その後も姿を見せなかった師、フィガロに対してファウストは落胆し、「いい加減で嘘つきで最悪な魔法使い」だと自分にも賢者にも言い聞かせている。しかし同時にそこには尊敬と信頼したいという思いも混ざっていると思うのです。
東の魔法使いとして召喚され、魔法舎でさまざまな魔法使いに囲まれて暮らしていくうちに、ファウストはだんだんと変わってきています。先生として生徒に魔法を教えたり、新しい友達ができたり。今まで関わることの少なかったタイプかもしれませんしお互い踏み込まないけれども、確かに成り立っている友情がそこにはあります。また、アーサーと出会ったりレノやフィガロと再会することで、彼の心の中で進展があった一面もあったと私は思っています。
幸せになるつもりはなくても、どうか穏やかな生活を送ってほしいです。でも我儘が許されるなら、どうか革命のことを忘れないでほしい。あの若かりし日々を捨てないでほしい。あそこにはファウストの青春と絶望と、それだけでは言い表せないたくさんのものが詰まっているから。多分真面目な彼は、私が願わなくたって忘れないでしょうけれど。
猫の話するの忘れました。どこかでしたいです。
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