好意が踏み台、脱出劇!

「たぶん見回りのやつだ」

 彼の視線の先には、ぼんやりと明かりが見える。たぶんランプか何かを手に持って歩いているのだろう。

「どうして、貴方まで隠れてるの?」

 私自身に後ろめたいことがあったから考えが及ばなかったが、この男もかなり怪しい。この国の兵士と同じ服を着ているものの、今は他の兵士から隠れている。

「もしかして、貴方も……泥棒?」
「ば……」

 彼は自分の声の大きさを気にして、自ら口を押さえた。

「ばか言うなよ。俺は泥棒じゃねぇって!」

 ジト目で睨むと、彼は目をそらした。ますます怪しい。

「ここにいたら、見つかるのは時間の問題だな。……おまえ、ソレ持ってとっとと門の外に出ろ。――歩けるか?」
「うん、なんとか」

 さっきよりはだいぶ足が動く。これなら門の外に出ることはできる。その後のことはここを無事に脱出できてから考えよう。
 私たちは身をかがめながら、城壁の近くまですり寄った。しかし、ここには木がない。これでは入って来た時の方法は使えない。

「俺が馬になるから、おまえは俺を踏み台にして向こう側に飛べ」
「でも、貴方は? それじゃあ貴方だけ出られなくて、捕まっちゃうよ」
「……おまえ、俺の話聞いてなかっただろ。俺は泥棒じゃねぇから捕まらねぇよ」

 あきれた様子で言う彼。しかし、私も食い下がる。

「仮にそうじゃなかったとしても、勝手に安らぎ草を渡した罰とか……」
「仮にってなんだよ、仮にって! 泥棒じゃないって言ってるだろ。まぁ、罰せられることはないだろうし……なんとかなるだろ。とにかく、今やばいのはおまえだけだ。早く行け!」

 彼はそう言うと、すばやく地に伏せた。さっきよりも近くに明かりが見えて、私は慌てて彼の上に立った。
 しかし――

「全然届かないよ……」

 腕を伸ばしても、背伸びしても、軽くジャンプをしてさえも、高さが全く足りない。

「分かってる。おまえ、俺の肩の方に足をかけられるか?」
「え、こう?」

 私は肩に足を置いた。

「そうだ。バランス崩すなよ!」

 足首をすごい力で掴まれたかと思うと、みるみる体が持ち上がっていく。彼は私を肩に担いだまま立ち上がったのだ。

「俺の頭を踏み台にしても良いから、なんとしても壁を越えろ」
「……分かった」

 一瞬躊躇したものの……時間がない。
 私は遠慮なしに、彼の頭を踏みつけ、無事に城壁の上に飛び移った。

「……ホントに踏み台にしやがった」

 と、頭を押さえる彼。

「ありがとう、これで無事に出られる。じゃあ次は貴方の番だ」

 私は手を差し伸べたが、彼はそれを取らず――代わりに首を横に振った。

「俺はいい。……母さんの病気、治るといいな」

 ニコッと笑う彼。笑顔を見たのはその時が初めてだった。しかし、それは一瞬のことで、すぐに真剣なものに戻る。

「行け!」
「うん、ありがとう」

 すでに他の兵士が数メートル先まで来ているのが分かって、私はうなずいた。
 今度は足を滑らせないように気をつけながら、そっとジャンプした。なるべく身体に負担をかけないように、降りた……つもりだったけど、やっぱり痛い。

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