ドライブ 阿蘇へ
今期の仕事ももろもろ重要なものが終わったので、25(木)26(金)と有休を取ってドライブに出かけた。今回は阿蘇。本当はこのタイミングで呉→出雲大社というドライブを2泊3日でしたかったのだけど、体力に不安があり阿蘇に変更した。体力に不安があると言っても、病気をしているわけではない。在宅勤務が続きなんとなく弱っている。そのことに気づいて、1月終わりあたりから体を鍛えているけど、ハードなドライブはもう少し先に、と思った。足がつったりして危険なので。阿蘇であれば一泊二日で、総運転時間も7時間くらいで収まるだろう。
こういった一泊二日の軽いドライブでは、これまで久住に行っていた。ガンジーホテルというとても素敵な宿があった。料理が最高においしく(特に和食を選択した場合の朝ごはんが最高だ)、お部屋も貸し切りの露天風呂も最高だ。その宿の部屋の窓からは、阿蘇の外輪山がいつも遠く見えていた。今回はあの外輪山の内側に行くのだ。ちなみにこのガンジーホテルは、恐らく新コロナの影響でずっと「休業中」となっている。これが本当に「休業」であればいいなと思っている。本当は廃業なのだけど、そう表記している、とかではなくて。
25日朝、10時くらいに家を出発した。まずは道のりから1時間くらいのところにある道の駅小石原へ。よく行くところだ。平日だというのに人が多い。だが三密が発生するような状況ではない。ここに来たときにはいつも唐揚げ定食を食べるのだが、今回はどこか未知の店で昼ごはんを食べたいと思い食べなかった。陶器の小石原焼きが有名なところなので、陶器売り場を冷やかす。買ったことは一度しかない。今回も一通り陶器を眺めて店を出る。さて、どこで昼ごはんを食べようか。何を食べたいか。晩ごはんはすでに宿で食べる「焼き肉コース」と決まっている。その場合の理想的な昼ごはんとは?
小石原から阿蘇までの道のりをiPhoneのGoogle Mapで表示させる。現在地からの道のりをなぞりながら、飲食店が表示されるたびにタップして様子を見てみる。田舎を通る道のりだから、ポツンポツンとしかお店はない。一軒のラーメン屋が目についたのでそこに行ってみることにした。昼ラーメン、夜焼き肉。なんだか罰当たりなことをしているような気がした。
そのラーメン屋に行ってみると、お店は閉まっていた。情報上は営業時間内だったが、どうやら「たまに」営業しているお店のようだった。この時点では、昼はどうしてもラーメンを食べたいという気持ちになっていた。しかし阿蘇への道のり上にラーメン屋はもうない。ほんの少しだけ迂回して、日田市をかすめることにした。選んだのはよく知らないがチェーン店のとんこつラーメン屋。「○○店」と地域の名前がついていたからそうだと思う。普通のとんこつラーメンと半チャーハンのセットを頼んだ。
ラーメンは、スープの色がえらく白い。福岡では見かけない白さだ。これは塩とんこつというものだろうか。食べてみるとわりとコクがあり、おいしかった。チェーン店はだいたいそのような気がするんだけど、最初のひとくちがおいしい。少しずつ飽きてくる。半チャーハンはしっとり系のものでおいしかった。ときどき味わうことのできるこのしっとりしたチャーハン、どうやって作るのだろう。家でも作りたい。ラーメン屋の近くでたい焼きを売っていたので、こしあんのものを1つ買う。お腹いっぱいだったので、このあとの道のりのどこかで休憩したときに食べよう。
少しゆっくりしていると案外時間が過ぎていた。チェックイン時間は15時にしていたが、このまままっすぐ宿に向かったとしても15時半になってしまう。ホテルを予約するときによく「チェックイン時間をすぎるときはご連絡ください」というような記載を見かけるが、必要なんだろうか? いつもわりときっちりと時間通りにチェックインする。どうしても必要なものであれば、宿側から連絡してくるだろう。宿までの道のりに1つ経由地を設定する。あまり回り道にならない阿蘇の展望台だ。
なにか一瞬、Google Mapの挙動がおかしくなった気がしたが、やはり気がつくと経由地をすっ飛ばして阿蘇外輪山の内側に入っていた。もうこのまままっすぐにお宿まで行って、まずは荷物を置こう。
宿につくと、ちょうど同じタイミングで家族みたいな集団もついていた。駐車場で一緒になる。若い夫婦と二人の子供、そしておじいさんおばあさんという感じだった。受付には少し年配の女性がいて、堅苦しくなく丁寧な対応だった。鍵をもらい自分の部屋に入る。和室の部屋だ。窓の外には塀に囲まれた庭があり、露天風呂がついている。一通り部屋のなかと風呂をチェックした。良い宿だ。
少し部屋で休憩して再びクルマで出かけた。とにかくまずは阿蘇を一望したいという思い。一番近い展望ポイントを目的地に設定した。最初の右折左折を間違えたからなのか、Google Mapがとんでもない道のりを提示した。恐らく5年くらい前からだと思うが、Google Mapはショートカットができるならとんでもなく細い道でも道のりに選ぶ。このとき走った道は、僕のクルマ人生のなかでもっと細く、険しい道だった。無事でよかった。
恐らく外輪山の上を走るような道を10分、20分と走る。展望ポイント1つ目でクルマを停めた。初めて見る外輪山からの阿蘇。遠く黒い山が今でも活動を続けている山だろうか。でもそこより少し左側の山の向こう側から、白い煙が見えた。右上の青い空にはかわいい半月が浮かんでいた。真ん中に黒い山、左に噴煙が見える山、右上に月がある構図で写真を撮った。よく見れば、噴煙も月も写っている阿蘇の写真。その後2つ目の展望ポイントを目指していたが、ナビがおかしくなった。このままだらだらと走っていると夕食の時間に遅れそうだったので宿に帰ることにした。
夕食。焼肉コース。夕食処は一つ一つ個室となっていた。個室の入り口には部屋の名前が書いてある。○○部屋の個室、というわけだ。中に入るとすでにいくつかの料理が並んでいた。中央には肉や野菜を焼く用の、なんと言えばいいんだろう、コンロでもないし炭火でもロースターでもない、アレがあった。轟々と燃えさかるアレが。飲み物には生ビールを頼んだ。部屋の冷蔵庫に瓶ビールが置いてあり、生ビールを頼むかどうか迷った。部屋付きの露天風呂に浸かり、風呂上がりに瓶ビールをコップに注いで…… とても魅力的。ここで生ビールを飲んでよいものか? いやいや、生ビールを飲んで、部屋でも瓶ビールを飲めばいいじゃない。そういえば勤める会社では中途採用の社員が入ってくると、新入社員紹介的なページがアップされる。ある年、20代中盤の女性の紹介ページで「瓶ビールをつまみに生ビールが飲める」とあって、すごいなあと思った。「箸割らず」とも書かれていたか。飲み会で酒だけでOKというわけ。最後まで料理には手を付けない。
ちょっとした小鉢数種類、馬刺しをつまみながら生ビールを飲んでいると、川魚っぽい姿焼きが出てきた。おしながきを見てみるとヤマメと書いてある。やった。焼肉コースだがヤマメの塩焼きが出てきた。ヤマメかアユの塩焼きは、なんとなく憧れの食べ物である。ニジマスは嫌だ。これまでの人生で食べたことがないわけではなかったが、久しぶりだ。がりがりとかじりながら生ビールを飲んだ。すぐ酔いそう。
肉以外の食べ物をあらかた食べ終わった。盛られている肉は鶏肉と牛肉。赤なんとか鶏と赤牛のカルビらしい。とりあえず鶏肉から焼いてみる。小皿には塩とタレがセットされていて、塩をつまんで焼いている鶏肉にかける。焼いたものに塩をつけて食べるのと、塩をかけて焼いたものでは味が違うのだ。たぶん。焼いた鶏肉を食べながら生ビールを飲む。鶏肉はおいしかった。鶏肉が好きすぎる。フライドチキンも唐揚げも焼き鳥も好きだ。生ビールも飲み終わった。さて。
ご飯と味噌汁と漬物が来ない。焼き肉まで全部食べ終わって、最後に漬物と味噌汁でご飯を食べるのもいいが、やはり焼き肉でご飯を食べたい。従業員が「必要があればそこのボタンでお呼びください」と言っていたが、「ごはんほしい」というのはこちら側から要求するシステムなのであろうか。たぶんそうなのであろう、ボタンを押すと「はーい」と元気な声がして、すぐに店員さんが来た。
「ごはんとか、もうください」
「とか」には漬物と味噌汁が含まれる。特に変な顔をされることもなく、ご飯漬物味噌汁がやってきた。さあカルビを焼こう。
カルビは普通のおいしさだった。タレをつけて食べ、ご飯を食べる。ときどき漬物、ときどき味噌汁。食べ終わるころにはお腹がパンパンになっていた。お昼にはラーメンとチャーハンも食べたのだったな。食後にコーヒーとデザートを頼む。こちらもコースに含まれていて、ボタンで呼ぶ。
「コーヒーとかください」
「とか」とはデザートである。
部屋に戻ると、もうずいぶんお酒が効いていた。最近はビール1杯でも結構よい気分になる。1年前はそうではなかった。酒量がぐっと減ったことによって、1杯の重みが増した感じ。もしかしたら以前は、ある意味ずっと酔っていたのかもしれない。
部屋に戻ったらすぐに風呂に入ろうと思っていたが、テレビをつけたらプレバトに見入ってしまった。黒板アートはすごかったし、俳句も面白かった。梅沢富美男さんは本当に面白いし、うまくやっているなあと思う。クレバーな人は大好きだ。
プレバトが終わると21時を回っていた。庭用のライトをつけ、露天風呂に入る。塀の外から、しなだりかかるようにソメイヨシノが咲いていて、風呂の水面には桜の花びらがいくつか浮いていた。最高の風情。思わず部屋に戻ってiPhoneを持ってきて写真を撮ろうと思ったが、そんなことはどうでもいいのだ。
持ってきた文庫本を読みながら風呂に浸かる。本を読むこともどうでもよくなり、ただ風呂に浸かる。少し息が苦しくなってきて、段差に腰掛けて腰湯状態になる。そのときにはまた本を読む。少し体が冷えてきたら本を置いてまたどっぷりと浸かる。なにも考えない。何か未来につながることでも考えたいと思ったが、何も考えなかった。そういえば昔そういう結論に達したことを思い出した。雪の中で暮らす狼はなにかを深く考えているか? 考えていないきっと。でもとても美しい。
風呂からあがったら、もう瓶ビールという気分ではなくなっていた。実はジンのミニボトルをコンビニで買って、冷蔵庫にしまってあるのだ。生ビール1杯、ジンのロック2杯でいいだろう。それ以上飲むと、そもそも明日の運転に差し支えがある。
旅先に泊まるとき、ロック用の氷が調達できるかという問題がある。一般的なホテルだと製氷機が各フロアに置いてあることも多い。前述の久住の宿は特に氷に関する情報はないのだが、フロントにお酒用の氷が欲しいと言うと、入れ物に質の良い氷を山ほど入れて持ってきてくれる。日本武道館のライブに行くときはいつも泊まる九段下の某ホテルは、氷がルームサービス扱いで800円とかだった気がする。福岡の某ホテルは「無理」であった。そのときは併設のコンビニでロックアイスを買った。何個か使って洗面所に捨てた。この宿は、部屋に設置された小さな冷蔵庫の上のほうに、氷ができる区画のようなものがあった。そこに家庭っぽい氷ができていた。ジンのミニボトルもそこに突っ込んでおいた。
キンキンに冷えたジンのロックを飲みながら夜を過ごす。何をしてただろうか。もう忘れてしまった。TwitterやInstagramは見ていた。途中でおにぎりを食べた。お夜食用としてサービスされたもの。塩が利いていておいしかった。この日は歯を磨くのを忘れた。そのまま布団に入り眠った。前日も5時間程度しか眠っていなかったが、この日も眠りは浅く、朝6時ごろに目が覚めた。
朝起きて、風呂に入った。夢の朝風呂。水面に花びらが漂う様子を写真に収めようと思ったが、花びらは流れてしまっていた。もう1週間あとだったら、散り際の桜がたくさん漂っていたのだろう。
風呂から上がって、朝食まで1時間ほどあった。着替えてクルマに乗り込む。特に目的地は設定せず適当にクルマを走らせる。来るときは素通りした阿蘇大橋の駐車場にとめて景色を眺めてみる。すごい景色だ。高所恐怖症なのでともすれば恐怖心が湧き上がってきそうだった。想像力をシャットアウトして眺める。もしあそこを渡っているとき橋が崩壊したら……。
宿に戻って朝食。まあまあ。というかガンジーホテルの朝食がすばらしすぎて、まあまあと思ってしまうだけ。あのホテルはトマトジュースからしておいしさが際立っていた。昔はテレビの食レポで芸能人が「野菜のお味が普通のとちがーう!」と言うのを「馬鹿じゃないの?」と観ていたが本当だったのだ。野菜の味からして違う宿だった。と言いつつここの朝食でも白飯を茶碗に3杯食べた。焼き魚と温泉卵で1杯、納豆と海苔で1杯、漬物その他おかずで1杯。朝に3杯も白飯を食べられる体調がうれしい。
そういえば宿到着時に駐車場で出くわしたご家族様一行であるが、夕食朝食とも食事処では一緒になった。子供の一人がずっと咳をし続けており、体が辛いのかわりと泣きわめいていた。もうひとりの子供は走り回り、お母さんらしき人も咳をしていた。おじいさんおばあさんらしき人もいる。といっても特に言いたいことはなにもない。
10時過ぎにチェックアウト。もう一度風呂に入ろうかとも思ったが、何事もそこそこが大事と思ってやめた。なぜかここ数日、何をやっても「何事もそこそこが」と思うことが多い。
テレビで阿蘇の様子を見たとき、緑の中の気持ちよさそうな道があった。持参したMacBookでGoogle Mapにアクセスし、衛星写真で探してみる。たぶんこの道だろうという道を見つけると、昨日と反対方向の展望ポイントに行くことになる。その道のりの先には道の駅もあるルートだった。その道を走る。ただし道は野焼きで煤けた景色だった。以前久住を走ったときもそうだった。僕が野原を走ると、たいてい世界は煤けている。
反対側から見ても阿蘇は雄大だった。なにしろ世界一だもんなと思った。世界一って、世界一なのだ。やはり。日本は素敵なところだけど、世界一って貴重なのだ。阿蘇は世界一なのだ。世界一は不思議な光景だった。こんなところに住む人間のすごさ。こんなところだから住むのだろうか。地球が住まわしてくれているのだろうか。でも容赦ない阿蘇カルデラ噴火が作り上げた地形がそこにはあった。ブラタモリで見たぽっこり小さな火山跡も見た。熊本地震で壊れた跡ではないか、という部分も見た。反対側の外輪山の上で何かがキラキラと光っている。僕とは反対向きを選択した人が乗るクルマだ。落ちろ。いや落ちないで。
おみやげを買うために道の駅阿蘇に寄る。わりと、なにもない。いちばん目立つのはくまモンだ。くまモンのポチ袋をいくつか買った。あと冷蔵しなくても良さそうなコーヒーゼリー、ハム、トマトジュースなど。
阿蘇から外界へ抜ける。途中このドライブ一番の絶景ポイントに立ち寄った。行きがけに気づいたのだが、それはあまりにラブストーリーは突然に現れたので、咄嗟にハンドルを切ることができなかった。駐車ポイントにクルマを停めて、外に出て眺める。地球が作り上げた巨大で長々と続く壁。それを最も実感を持って眺められる場所だと思った。すごいなあ。すごい。さらば阿蘇。
ついでに桜も見たい。ソメイヨシノがたくさん咲いている公園のような場所がよいかなと思ったが、なんとなく地図に表示された一本桜を見に行った。それほどでもない一本桜だった。でもそこから続く小道の川沿いの桜並木が案外よかった。しばらく歩くと、フライロッドを持ちつつ三脚を立てカメラを覗いている人がいた。どっちなんだと思いつつ引き返した。
昼ごはん。魚を食べたい気分だった。スシローに寄って寿司を食べた。前日から食べているものがラーメン→焼き肉→寿司である。罰当たり。近場の桜街道を時速40キロで走る。考えてみれば、一本桜も桜並木も、見た中で一番すばらしいものは近場にある。
家の庭に停めたクルマを見ると、側面が泥で結構汚れていた。日曜日未明から雨が降り、午後から上がる予定だから、そのあとに洗車をしよう。
すばらしいものは近場にある。ずいぶんと、行ったところのない場所が少なくなった。
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