こしかた
午前中から家周りを整える業者が来るとのことで、いつもと違う部屋で働くことにした。僕は今、フルリモート勤務であり、毎日家で働いている。普段過ごす自室の横の廊下に、仕事用の机を置いて働いている。業者がやってくるとその場所は作業の影響でとてもうるさくなる。
その日は、この家のなかで「座敷」と呼ばれる部屋で働いた。8畳の和室だ。床の間があり、仏壇もある。エアコンも設置してある。その呼び方が正しいのかはわからないが、僕が子供の頃からこの部屋は「座敷」と呼ばれている。
「座敷童」というものがどういうものかわからないままに書くのだが、どうもこの座敷に、座敷童はいないようだ。そのような気配は感じられない。ただしこの部屋は色々な音がする。ひゅうひゅうと風のうねる音、障子の紙が風圧でへこむ音。この部屋でじっくりと長時間過ごしたのは初めてかもしれない。僕にとっては、子供のころからあまり関連のない部屋なのだ。2つ離れた居間から、母の奇声が聞こえる。
座敷には、亡き祖父母、そのもっと前の誰か、亡き父の写真が飾ってある。この場所で仕事をしていると、みんなに見守れているような気がする。そして監視されている気もする。濡れ手に粟の素敵なお仕事をしています。
ひゅー ひゅー うー うー
風の音がする。
うー うー なあー なあー
小さな声がする。
うーうー 遺伝的にそろそろ大腸検査はするべきだ
うーうー ステレオとカメラはどうなった?
うーうー 髪はきれいなままかねえ
うーうー ミックスジュース飲みたかったわい
うーうー うーうー まぁー まぁー くだらないことだ
うーうー それが続く
注文した家具が届くまでの期間を含めて、僕は今、2ヶ月がかりで自分が過ごす部屋の整備をしている。それが終われば、僕の前に広がるのは音の世界と、空の世界、そして海と川の世界だ。もしかしたら言葉の世界もあるかもしれない。
濡れ手に粟の素敵なお仕事は好調。でもそれは、一変した世界が元の鞘におさまるころ、雲行きがおかしくなるだろう。そんな予感がしている。世界は面倒臭いが楽しいことに気づくから。そしたらさっさと逃げ出すぜ。もらうもんもらってな。
さて。お昼ご飯を食べたらロジカルとクリティカルを振りかざそうか。リリカルな明日に向かって、障壁は何もない。
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