部分日食

 部分日食の日。午後からずっと部屋でうとうとしていたけど、iPhoneのアラームのおかげで「食の最大」の10分前に起きることができた。福岡はよく晴れていて、"欠けた”太陽がよく見えた。画像や映像ではデフォルメされて近距離な配置とされることが多い地球と月だけど、実際は驚くほど遠い(実際行ったわけではないけど)。4人家族用の大きなこたつの端と端に置かれたビー玉と大豆くらいの距離感が本当なのだ。太陽なんて、もっともっと遠い。隣の家の敷地だ。そんな3天体が、二次元的に一直線に重なる奇跡。欠けた太陽を見ていると、太陽と月と地球の間にある、広大な宇宙空間の存在を実感することができた。真っ黒な月が、そこに浮かんでいる意義も。

 観察には日食グラスを使ったんだけど、最後にこのグラスで天体ショーを見たのは、2012年の金星の日面通過だった。かすかに見える、太陽表面にうつる極小の黒い点が素敵だった。あのときは父がまだ生きていて、父にも見せた。両方とも、僕が生きているうちはもう二度と見ることはできない。

 2012年。僕はまだあまりよろしくない環境で、前の会社で働いていた。シフト制で、有休も取りにくかったように思う。それでも鹿児島まで旅行して、九州新幹線に初めて乗って、金環日食を観に行ったのだった。結果天気が悪く、桜島さえ見えなかった。あの会社では、そのあとまだ3年近く働いた。金星の日面通過は、金環食の数カ月後だったと思う。

 ずっと続いていて、今はこうなんだ。今とのあいだには、もっと思い出深いことがたくさんあるけど、ある日のことを鮮明に思い出せれば、それからのことが愛おしく大切に感じられる。

 今日は母に部分日食を見せた。ほぼ1秒だけみて「三日月みたいー」と言って家に戻っていった。

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