短編「闇中」(二人芝居)

タイトルは「あんちゅう」と読みます。

2018年執筆。


「闇中」  

  ・住人:
  ・業者:


鳥の鳴き声がうるさく聞こえる。
光のない真っ暗な部屋の中。

住人「うるせーな!隣の部屋の奴どんだけインコ飼ってんだよ。そろそろ注意してやらなきゃ。にしてもよく下の大家さん怒んねえよな」

ぶつぶつ文句を言いながら電気のリモコンを探す。

住人「あれ、電気、電気」

電気のリモコンを探し続けるが見つからない。
壁をつたい、何とか電気のスイッチを入れる。
しかしつかない。

住人「あれ、あれ。なんだ停電か?」

仕方なくカーテンを開けてみる。
しかし真っ暗なままスマホを探す。

住人「へいSiri、電気業者に電話」
業者「はい、電気業者です!」
住人「あの、家の電気がつかないんですよ」
業者「原因は?」
住人「いや、わからないんですよ」
業者「そうですか」
住人「・・・いや、そうですかじゃなくて」
業者「はい」
住人「直してもらいたいんですよ」
業者「かしこまりました」

業者、電話を切る

住人「え?」
  「へいSiri、電気業者に電話」
業者「はい、電気業者です!」
住人「あの、さっき電話した者なんですが」
業者「さっき?」
住人「はい」
業者「殺気?」
住人「いや、そんなつもりはないですけど」
  「10秒くらい前に」
業者「10秒くらい前?何してましたっけ?」
住人「電話!」
業者「電話ね。で、本日はどうされましたか?」
住人「電気がつかないんです」
業者「原因は?」
住人「だから、わからないんですよ」
業者「そうですか」
住人「くそっ。だから、直してもらいたいんですよ」
業者「それでしたらトイレ業者の方に」
住人「便器じゃねえよ、電気」
業者「だって今くそって」
住人「その糞じゃねえよ」
  「とにかく直してもらいたいんですよ」
業者「かしこまりました」

業者、電話を切る

住人「あっ」
  「電気業者に電話」
業者「はい、電気業者です!」
住人「なんで切っちゃうの?」
業者「え?」
住人「なんで、直してもらいたいんですよ、って言った後すぐ切っちゃうの?」
業者「すみません・・・どちら様ですか?」
住人「そこから?いやわかるだろ!」
  「電気がつかないんです」
業者「電気がつかない?そりゃ大変だ」
住人「なんでそんな新鮮なリアクションがとれるんだよ」
業者「それでしたらすぐに伺います」
住人「おう、頼むよ」
業者「かしこまりました」

業者、電話を切る

住人「・・・電気業者に電話」
業者「はい、電気業者です!」
住人「あの、ずっと電話をしているものなんですが」
業者「あ、先ほどの。今すぐ伺いますので」
住人「どこに?」
業者「どこって、そりゃあ」
住人「家、知ってるの?」
業者「・・・」

業者、電話を切る

住人「あ!」
  「電気業者に電話!」
業者「はい、電気業者です!」
住人「お前、よくそのテンションで出れたな?」
業者「あ、先ほどの」
  「メンチは食わない」
住人「電気がつかない!」
  「なんだよ、メンチは食わないって」
業者「メンチカツは食べないってことですよ」
住人「いや、食べるよ」
業者「食べるんですか?」
住人「なんなら昨日食べたよ」
業者「あ、奇遇ですね。僕もなんですよ」
  「知ってます?マンションの一階にあるお肉屋さんのメンチ」
住人「知ってる知ってる。うまいよね」
業者「あそこのメンチは一味違いますよね」
  「なんでもあのお店のメンチは相当こだわってるらしいですからね」
住人「あの厚さ、肉汁。80円のクオリティとは思えんよ」
業者「まさに庶民の味方って感じですよね」
住人「本当、本当」
業者「なんだか食べたくなってきますよね」
住人「だな。お腹鳴ってるよ」

二人、謎の盛り上がりをみせる。

業者「あ、すみません。ちょっとキャッチ入っちゃったみたいで」
住人「おっけー」
業者「じゃあ、また」

業者、電話を切る

住人「・・・ってちょっと待て!」
  「業者に電話」
  「業者に電話・・・業者に・・・」
  「ギョウザじゃなくて」
  「電気!」
  「メンチじゃない、電気業者に電話!」
業者「はい、電気業者でした!」
住人「じゃあ今なんだよ!」
業者「メンチ・ギョウザです」
住人「さっきの聞いてた?」
業者「ちょっと肉引いてきます」

業者、電話を切る

住人「電気業者に電話」
業者「はい、センチメンタルです」
住人「何があったの」
業者「昨日、家の電気が止まったんです」
住人「一緒だ」
業者「でも、隣の部屋から電気をもらったので解決しました。ありがとうございました」

業者、電話を切る

住人「電気業者に電話」
業者「ただいま、電話に出ることが」
住人「できてるよね?」

業者、電話を切る

住人「電気業者に電話」
業者「こちらデルタ1。異常なしオーバー」

業者、電話を切る

住人「電気業者に電話」
業者「ネタ切れです」
住人「そろそろいいかな?」
業者「はい」
住人「電気がつかないので、直してください」
業者「かしこまりました」
住人「そこで切らないで」
業者「おっと危ない危ない」
住人「なに、反射なの?」
業者「自分、不器用なもんで」
住人「で、早く来てもらえるかな?」
業者「どこに?」
住人「うちに」
業者「かしこまりました」

業者、電話を切る

住人「あっ」
  「電気業者に電話」
業者「はい、電気業者です!」
住人「場所言うから、切らないで」
業者「そうですね。忘れちゃいました。てへ」
住人「おたくの会社のビルの向かいにマンションがあるでしょ。そこの402号室だから。早く来て」
業者「向かいのマンションの402」
  「あの10階建ての?」
住人「そう」
業者「1階がお肉屋さんの?」
住人「そう」
業者「3階に大家さんが住んでる?」
住人「そう、詳しいね」
業者「僕、隣の401号室なんですよ」
住人「お前か!毎日昼ごろにインコが大量に鳴いてる」
業者「すみません」
住人「なんだよ、毎日うるさいんだよ」
業者「すみません」
住人「・・・てことは電気がつかない原因って」
業者「すみません!」
住人「なにが隣の部屋から電気もらっただよ。盗電じゃねーか」
業者「東電」
住人「いいから、さっさと来い」
業者「はい!」

業者、住人宅へ向かう。
チャイムを押す。

住人「開いてるから、入ってきて」
業者「はーい」
住人「あれ、一人?」
業者「はい、まだ独身です」
住人「そういうことじゃなくて、普通こういうのって二人くらいで分担するんじゃないの?」
業者「自分不器用なもんで」
住人「それは文太」
業者「にしても真っ暗ですね。失礼しまーす」

業者、懐中電灯をつける。

住人「いいから、早くして」
業者「とりあえずメーター見てきますね」

業者、去る。

住人「まったく。まさか電気業者が盗電とは思わなかったぜ」
業者「あの~」
住人「うわ、びっくりした。なに?」
業者「こんなこと言うのもなんなんですけど」
住人「なに?」
業者「ちょっと盗電されたくらいでつかなくなることってないと思うんですよ」
住人「よく言えたな」
業者「だから断ったでしょ」
住人「じゃあなんでつかないんだよ」
業者「なんですか、クレームですか」
住人「最初から言ってただろ」
業者「なんですか、逆切れですか」
住人「それはおまえだろ」
  「あんたさっきから無礼か?失礼だろ」
  「ちょっともう一回見てこいよ」

業者、去る

住人「まったく、盗電の分際で」

部屋の電気がつく

業者「あの~」
住人「うわ、びっくりした。なに?」
業者「原因わかりましたよ」
住人「なんだった?」
業者「ブレーカー」
住人「へ?無礼だなんて言われる筋合いないけど」
業者「誰も言ってないでしょ。ブレーカー、落ちてましたよ」
住人「なんだよ。ブレーカーかよ。まったく。業者呼ぶ必要なかったわ」
業者「やってもらってその態度。あんた無礼か!?」
住人「それはおまえだよ」
業者「お礼は?」
住人「ん、ありがとう」
業者「はい、それじゃあ」
住人「え、ちょっと待ってよ」
業者「なんですか?」
住人「早く電気つけてよ」
業者「え、もうついてますけど」



住人「え・・・?」
  

  暗転





世界が暗いのは電気のせいではありませんでした。

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