短編「カエル」(二人芝居)
2018年執筆
2人芝居用
登場人物
・1:
・2:
「カエル」
銃声が3発鳴る
明転
1上手
2下手
2「『カエル』という言葉にはたくさんの用途があります」
「漢字を一文字代えるだけでまったく意味を変えることができます」
「この中には、タイトルを見て」
1「ゲコゲコ」
2「の『蛙』を思い浮かべた人も多いでしょう」
「カタカナの『カエル』は」
1「ゲコゲコ」
2「の『蛙』であると、反射的に脳が処理をしてしまうのです」
「つまり無意識のうちにカタカナの『カエル』イコール『蛙』に置き換えるのです」
「でも、難しいのはひらがなのときです」
1「旦那!例のやつ!」
2「はいはい。きれいな緑でございますよ」
1「きれいな緑だね。さすが旦那」
「どれくらいなの?」
2「10gございます」
1「よし、じゃあ現金で」
2「『買える』人」
1「じゃあ、あまり長居は無用だ」
「俺はここいらで。また頼むよ」
2「『帰る』人」
1「はぁ、(たばこを吸うような動き)このまま土に」
2「『還る』人」
1「・・・」
2「おーい」
1「・・・」
2「おーい」
1「・・・」
2「ここで残念なお知らせです」
「彼が、お亡くなりになりました」
1「復活!」
1・2「生き『返る』!」
2「こういうことばかりを考えていると、つい自分の世界にトリップしてしまい、人づきあいが悪くなってしまいます」
2、フードをかぶり物書きを始める。
1、はける。
2の立ち姿はまるで文豪のよう。
雨が降ってくる。
2、傘をさして雨宿りができるところを探す。
カエルが鳴き出す。
ひとり分の狭いスペースを見つけ、雨宿りをする。
2「屋根がある。ラッキー」
2、雨とカエルから詩を歌いだす
2「カエル鳴き、緑にはまり、とんでゆく」
「身構える、目の前の敵、ガマガエル」
「かまえる、ガマガエル、ふふっ」
1、フードをかぶり血相を変えて走ってくる。
雨宿りをしようとするができない。
2、くすくすと笑っている
1、2を見ている
1「あれ、コバヤシ?」
2「かまえる、ガマガエル、ふふっ」
1「コバヤシ!」
2「おう、ガマガエル」
1「は?ガマガエルじゃねぇよ、カマタだよ」
2「そうだカマタだ」
1「なにしてんの?」
2「帰る、カエル、買える」
1「は?」
2「帰る、カエル、買える」
1「カエル?うわ、気持ちわりい」
「俺苦手なんだよね。一匹でも無理だわ」
2「帰る、カエル、買える」
1「あ、帰るところか。じゃあ暇か?」
2「忙しい」
1「用事でもあんの?」
2「用事はない」
1「ヒマじゃん」
2「忙しい」
1「用事ないんだろ?」
2「つまようじはある」(ストローを出す)
1「ストローじゃん」
2「今日はよくツッコムね」
1「ヒマなんでしょ?」
2「ヒマではないよ」
1「じゃあ、何してるの?」
2「帰る、カエル、買える」
1「ヒマだね」
2「帰ってきました」
1「合コン」
2「え?」
1「合コン、1人足らないんだよ」
2「代わりを探してくれ」
1「また代わりかよ」
「毎回毎回、お前は変わってるよな」
2「行きっぱなしのお前からしたらな」
1「行ったことないなんて変わってる」
2「行ったことはあるよ」
「でも俺すぐ帰ってくるし」
1「欲しくないのかよ?」
2「まぁ、少しは」
1「だろ?自分を変えるチャンスだぞ」
2「でもハマりたくないもん」
「何回も行くとさ、耐性ついちゃうじゃん」
1「ばかやろー!」
アッパーする。
かなり興奮している。
カエルの鳴き声が消える。
2「アッパー!?」
1「そんな消極的でどうするよ!俺たち仲
間だろ?」
「一緒に行こうぜ!」
2「なんでそんな興奮してるんだよ」
くしゃみをする
2「なんでそんなびしょ濡れなの?」
1「雨だからだよ」
2「雨宿りすればいいじゃん」
1「お前のせいでできねえんだよ」
2「だってここひとり分のスペースしかないから」
1「仲間が目の前で雨に打たれてるのによくそんな冷静でいられるよな」
2「ごめん、気づかなかった」
1「とりあえず貸してくれ」
2「え?」
1「それ」(傘を指す)
2「はい」(ストローを貸す)
1「違うよ、傘だよ。傘を差すの」
2「傘指してるじゃん」
1「指すじゃなくて差す!字が違うだろ」
「めんどくさいな、早く」
傘を差す。
2「ねえ」
1「・・・」
2「ねえ」
1「・・・」
2「無視すんなよ」
1「トークダウンです」
2「なんだそれ」
1「なに?」
2「あのさ」
1「ん?」
2「帰れないんだけど」
1「ふっ」
2「え?」
1「かかったな」
「俺が傘を差している以上、お前はもう帰れない」
2「返してよ」
1「いやだね」
2「返してよ」
1「いやだね」
2「代わりに場所変わるから」
1「・・・いいだろう」
1と2、場所を入れ替わる。
しかし傘は1が持ったままなので2は装備0の状態で雨に打たれる。
2「あぁ、状況が変わらない。むしろ悪くなった」
1「ふっ」
2「返してよ」
1「いやだね」
2「寒いよ」
1「我慢しろ」
2「仲間が目の前で雨に打たれてるのによくそんな冷静でいられるよな」
1「ごめん、気づかなかった」
2「確信犯でしょ!」
「返してよ」
1「どうしようかな」
2「返してよ(泣)」
1「なんだい、泣くほどのことかね?」
2「返してよ」
1「この傘は、俺のだ!」
2「じゃあ、その傘を、下さい!」
1「お前は完全に依存している」
2「傘をぉ、下さい~」
1「もっと媚びろ!下手に出ろ!そして敬え!」
2「傘をぉ、下さい~!!」
2のみじめな姿を見て笑う。
1のケータイが鳴る。
画面を見て相手の名前を確認する。血 の気が引く。出ない。
2「出ないんですかぁ?」
1「あ、うん」
ケータイ、切れる。
1「・・・」
2「どうしたんですかぁ」
1「いや、なんでも」
再び携帯が鳴る。
考えた挙句1は電話に出る。
1「もしもし。・・・はい、はい。いや、どうかそれだけは」
「はい、はい・・・」
切る。
2「どなたですかぁ?」
1「いや・・・」
「あの、合コンの相手だよ。雨だから中止にしようって」
2「中止にすれば?」
1「いや、それはできない」
2「え?」
1「ん・・・ん・・・」
2「ど、どうしたんですかぁ?」
1「あ、帰ってきた」
2「え?」
1「いや、なんでもない」
2「大丈夫ですか?」
1「とにかく、行こう」
2「え、なに急に。どうしたんですか?」
1「いいから。早くいかないと」
2「いやでも、傘1本しかないのに」
1「じゃあ返すよ」
2「あぁ、僕の傘。おかえり。大丈夫だったかい?ごめんなさみしい思いをさせて。もう大丈夫だよ」
「やい!もうお前の誘いには乗らねえからな!」
「代わりを探しな!」
1「うるせぇ!行くぞ」
1の豹変ぶりに驚く。
2「ちょっと、なんだよ。なんでそんな焦ってんだよ」
1「あぁ?」
2「せ、せめて雨やむまで待とうよ」
1「うるせぇ、もう止んでんだろ」
2「止んでねえよ
1「だってほら(濡れてないことをアピール)」
2「いやそこ屋根あるから」
1「あ?」
屋根を確認する。
なにやらいら立ちを隠せない様子
2「な、なぁ、大丈夫・・・」
1「うわぁぁぁぁぁぁ」
2「どうした!?」
1「カエル、カエルがいっぱい!」
2「は?」
カエルを探すがいない。
2「カエルなんかいないぞ!」
1「うわぁぁぁ」
1にサス明かり
2、ストップモーション
おびただしい数のカエルの鳴き声が気持ち悪いほど大きく聞こえる
1「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
とにかく怯え慄き逃げ惑う
2「おい、しっかりしろ!」
全明転
1「はぁ、はぁ・・・」
2「大丈夫か!?」
1「あ、あぁ・・・」
2「・・・お前さ」
1「え?」
2「足洗ったんじゃねぇのかよ?」
1「何が?」
2「お前・・・」
ケータイが鳴る。
出る。
雨が強くなる。
1「はい、はい・・・はい」
ケータイを落とす。
2「カマタ?」
1「お前の代わり、探しておくよ」
2「え?」
1「だから・・・」
「俺の代わりに死んでくれ」
暗転
銃声が3発鳴る
完
二人が何の話をしているのか。
時折出てくるワードが鍵です。