『無言のつとめ』823(はつみ)さんインタビュー
当店(SHEEPSHEEP BOOKS)にて、7/24~8/4の期間で原画展を開催した823(はつみ)さんへのインタビューを行いました。
作品の背景や実際に本を作るプロセスから、8/10・11に行われた「「黒っぽい 灰色っぽい犬の名は 夜に消えた あの子が決めた」の脚本についてなど、多岐にわたる内容です。
823さんの作品世界を理解したい、表現したい、本を作りたい、そんな方々のヒントになればと思います。
*有料設定にしていますが、記事自体は課金なしで最後までお読みいただけます。
823さんの次回作への応援として、投げ銭的な意味合いで価格を設定しています。
どうぞよろしくお願いいたします。
20240804_823さんインタビュー
~作品について~
-構想10年とのことですが、思いついたのはいつ頃ですか?
823:小学4年生の頃です。
-その時にはすでにある程度形にはなっていましたか?
823:キャラクターや流れの構想はできていましたが、それぞれのエピソードの作り方がまだ不十分でした。それを本を出すことで完成させました。
-最初にストーリーがあって、それを漫画の形式で表現したのか、それとも最初から漫画として描こうとしたのか、どちらですか?
823:最初から漫画として構想しました。
-それまでにも何か描いたりはしていたんですか?
823:漫画的なものはなんとなく。でも、これが唯一今残ってるものですね。
-実際に作ろうと思ったきっかけは何ですか?
823:私ずっと手塚治虫が好きだっていう話をいたるところでしてるんですけど。
-私も聞きました(笑)。
823:手塚治虫の『どろろ』がきっかけです。あれを読んで、二人一組というのができて。人間とはちょっと違うところや、人間との関わり合い、それから人間としての生き方を、こういうふうに描くことができるんだ、と気づいて。それで私も描いてみようかな、と思いました。
-では、実際に書き始めて、完成までにどれくらいかかりましたか?
823:編集者の漆原さんとのやり取りも含めて、1年です。
-出版元であるジョバンニ書房の漆原さんからは、どんなアドバイスがありました?
823:漫画の見せ方としてのコマ割りやページのめぐらせ方など、テクニカルな部分とか。あと私の漫画は目線が物語のキーになっている、などを指摘してもらって、こういう点がいいので伸ばしましょうと、たくさんアドバイスをもらいました。
-漆原さんは実際に漫画を描いていた方なので、アドバイスが的確ですね。
今回の作品『無言のつとめ』では、漫画や文学・音楽など、色々なものからの影響が見られます。特に松本大洋から、絵柄だけではなく言葉遣いや間の取り方に関して影響を受けているように感じました。何か思うところはありますか?
823:松本大洋からの影響もすごい大きいんですけど、小説映画が好きで色々と読んだり観たりしていて、そこからも影響を受けてます。映画的な間が見られると、たまに言われます。
-私はこの作品を読んで、ヴィム・ベンダースの『ベルリン・天使の詩』を思い出しました。
823:観たことないので、観てみます。
-作品が出来上がった後、販売はどうするか考えてましたか?
823:せっかくISBNコードついてるから、本屋さんに置いてもらいたいと思ってて。SHEEPSHEEP BOOKSが出来る前だったんですよ、本の制作が始まったのが。だから、この店に置いてもらいたいな、ぐらいで。あとは邯鄲堂さんや、まだ行けてないんですけど米子の小吉文庫さんとか。
でもメインは文学フリマになると思ってました。手売りがメインかと思ってたんですけど、意外と本屋さんで扱ってもらっていて、すごくうれしいです。
今取り扱ってもらっている店は、SHEEPSHEEP BOOKSと邯鄲堂と瓦町の古着屋てとてとと、東京・高円寺のそぞろ書房です。
-最初にうちの店に来た時に、作品を見せてくれたじゃないですか。その時はどんな気持ちでした?
823:あの時は全然見せるつもりじゃなかった(笑)。本屋さんができたよって聞いて、行ってみようと。ちょうど漆原さんとの打ち合わせがあった日だったので、たまたま原稿持ってただけだったんです。
-そうなんだ。勇気出して見せに来てくれたのかと思ってた(笑)
823:そしたらその時の流れで見ていただいて、あ、なんかラッキーみたいな(笑)。
-僕もそれなりに本は読んでるので、影響を受けてるであろう作品はなんとなく分かるんですけど、それを自分なりに昇華してとても素晴らしい作品でした。漆原さんとは、定有堂書店の読書会でお会いしていて、地元の若い方の作品をジョバンニ書房から出るなら、販売させてもらうと思いました。
~原画展について~
-定有堂ビル2階の共有スペースをの使い方を考えていたタイミングでもあったので、ちょうどいいから原画展も頼んじゃえ!と、僕も結構軽いノリでお願いしました(笑)。
原画展にはいろんな年代の方が見られています。年配の男性が「新聞で見たけど、どこでやっとるだ?」とフラッと立ち寄ってくれたり。
お店によく来られる女性も原画展に来られていて、ずっと楽しそうにおしゃべりしているな、と思ったら…
823:あの時が初対面(笑)。SNSでお名前を見たことあるなーぐらいですね。
-暑い中、1時間くらいしゃべってましたよね(笑)。他にもそういう出会いの場面が何度かあって、私も企画した甲斐がありました。原画展はやろうと思っていましたか?
823:どこかでやりたいなとは思っていて、場所を探してたんですよ。なので原画展のお話をいただいた時も「あ、ラッキー!」で、どちらかというと「本当にいいですか?」でした。
-照明が一個しかなくて空調もないのがネックなんですよね…。それはそれとして、SHEEPSHEEP BOOKSでのはじめての展示としては、すごく良かったんじゃないかなと思います。
この作品を作り上げたことによって、なにか自分の中で変化とかありますか?
823:変化はないですね。なんだろう…「あ、できたなー」くらいです。でも、完成してよかったなと思います。ずっともやもやしてる状態ではなくなったので、良かったのかなと。
-完成したことによって消化できた?
823:消化まではいってない。消化しちゃうと多分創作意欲なくなっちゃうんで。
-なるほど。作り上げたことで、次のものを作ろう、に?
823:なりますね。作り方を覚えた。例えば金額面や体力面で、そこに何がどれぐらい必要とかそういうのが分かりました。
~脚本執筆について~
-本が完成してから割とすぐに脚本を書く作業を始めてたじゃないですか。それは同時進行?それとも本を作り終えてから?
823:作り終わってからですね。
-この作品と脚本につながりはありますか?
823:つながりは全くなくって。友達が演劇をやってて、こんな演劇があるんだよ、という話を鳥取大学の佐々木先生のところでやってくれてたんです。それを見てて、あ、脚本書きたい!ってなって。
-それまでに脚本を書いたことは?
823:書いたことはなかったです。書いてみたいなと思ってはいたんですけど、どうすればいいのか全くわかんなかったので、その気持ちは放置してました。でも佐々木先生のところで話を聞いてるときに「自分の回りに演劇やってるプロいるじゃん」って気づいたんです。
-脚本を書き上げるのにどれくらい掛かりましたか?
823:今回上演するの二本は、一日ぐらいで書き上げました。そこから楽しくなってきて、一週間で五本ぐらい書いちゃってたんですけど、「時間的にそれは無理だよ」って言われて(笑)。結局上演は二本になりました。
-漫画を描くことと脚本を書くことは、別の行為ですか?
823:自分の中では結構似てます。演じる人が違うという感覚ですね。人間にできないことを漫画にやってもらって、漫画でできないことを人間にやってもらう。
私はわりと平面的な絵を描くんですよ。凝った構図は使わないようにしてて。でもそれをやりたい時に人間に手伝ってもらってる感覚です。
-演劇だと演出家も演者もいて、自分が書いたものに他の人が関わってくるじゃないですか。そのあたりはどう捉えていますか?
823:そこが逆に面白いと思っています。自分では思いつかなかったことを演出家がやってくれる。演劇の動き方とか発声の仕方って、普通とは違うので、自分の脚本がこうなるんだ!みたいな感じで観ていました。
-次の作品も構想中とお聞きしましたが、今どれぐらいの段階ですか?
823:短編集を作っているんですが、何本描くかはまだ決まってないです。漫画の形になっているのが二本くらいなので、どのぐらい時間がかかるかは分からないです。次もジョバンニ書房で作れたらいいんですけど、金銭的な問題が…(笑)
『無言のつとめ』は、自分でバイトで稼いだお金で作りました。
-いくら掛かったか聞いてもいいですか?
823:〇〇万円です。大学一年生ぐらいからこつこつ貯めてたんです。作品を作るために、ではなくて「何かあった時の」ためにです。何か=本を作る、になりました。
-刷部数は250冊でしたっけ?
823:そうです。計算すると原価は〇〇円で卸値は〇〇円なので、儲かってはないです。
-そうか…費用を少しでも回収できるよう、仕入値を調整してあげた方が良いか…
823:いやいや、全然大丈夫です(笑)。東京で扱ってもらってる書店さんも同じような条件なので、全然問題ないです。
(おしまい)
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