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【短編小説】コカコーラ心中

 こんな夢を見た。

 炭酸飲料は骨どころか人体を溶かしてしまうようで、近年、炭酸飲料の飲み過ぎで人が消える事案が相次いでいる。なんて恐ろしい飲み物なんだ……。飲み物というか、もうこれは兵器では?絶対に自分から進んで飲むものじゃない。
 それでも恋人の三苫裕次郎はコーラをやめられず、とうとう身体の半分をコーラに溶かした。あれほど言ったのに、と呆れつつも、こうなることは何となく分かっていた。三苫は昔から人の言うことを聞かないし、好きになったものをとことん愛する質だった。その気質のせいで三苫はコーラを手放せず、私との生活もやめられない。
 最早歩くことすらままならない溶けかけの三苫は、うちの風呂釜で生活している。風呂場にはタブレット端末とコーラ用の冷蔵庫と、二人がけのダイニングテーブルを置いて三苫の生活環境を整えた。三苫は風呂釜の中でコーラを飲みながら動画配信を観たり電子書籍を読んだりして過ごし、私が大学から帰ると一緒に夕飯を食べて一緒に身体を洗って一緒に眠る。多少の不自由はあるが、私はこの生活を気に入っている。三苫も同じ気持ちだと、満ち足りた寝顔に確信している。
 この幸福には終わりがあって、溶けていく三苫の身体がカウントダウンを刻んでいる。分かっている。三苫からコーラを取り上げさえしたらこの日常は延命できるし、コーラの為の冷蔵庫なんか置いてる場合じゃない。そもそもこんなもの飲まないでほしい。なのに三苫はまたコーラを開ける。三苫にとって、私と過ごす日常よりもその黒い水の方が尊い。或いは、こんな有様になっても尚コーラを提供し続ける私に価値を見ている?

 やがて三苫の身体はすっかり溶けて、風呂釜には三苫の身体の体積ぶんのコーラが残った。真っ黒い水面にしゅわしゅわと泡が燻っていて、ひどく美味しそうに見える。

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