21.親から逃げた直後の心境
無事に実家を出られて転居先へ向かう道中で私は泣き崩れました。
荷運び作業の最中に父親が殴り込んでくる危険性もあり、最初から最後まで張り詰めた緊迫感の中での作業だったため、緊張の糸が切れて無性に泣けてしまったのです。
もうこれからは日々の生活の中で急に降りかかってくる暴力に怯えて過ごさなくても良いのだと、明るい展望を描けるような、前向きな気持ちを持てるような、今までにはなかった希望が見えてきました。
それでも転居後すぐは、私の頭の中は真っ白でした。
親の元から逃げ出すことに成功したという、全力疾走した直後のような瞬間的な達成感を得た後は、転居に要した連日の緊張で全く思考が働きませんでした。
やっと関係を絶てたのだという実感が湧いてくるにつれて安堵が広がりましたが、それもそう長くは続きませんでした。
新たな不安が襲い掛かってきたからです。
父親の執着心がとても強く「どんな手を使ってでもお前の居場所を突き止めてやる」という気概が、その後の数々の行動から伝わってきました。
私は自分の居場所が想定外の方向から漏れてしまうことを恐れました。
頭の中では「どうしよう」という手の打ちようのない焦燥感と「心配しても仕方がない」という諦観、「何でここまでして私を苦しめようとする」という怒りや悲しみなど、様々な感情がない交ぜになります。
日常生活を送りながら、両親それぞれの優しかった側面を思い出しては泣き、数多の酷い仕打ちを思い出しては怒りに震え、感情が激しく乱高下する自身の情動に疲弊しました。
年月を経るにつれて低減していきましたが、それでも皆無にはなりません。
自身に発生する心の揺れ動きを冷静に見つめるしかないのだと思っています。
基本的に激しい揺れ動きがない時の両親への感情は、真っ白なものです。
私の中では「頼むからもう私を苦しめないでもらいたい」という思いがあるのみです。