錦秋十月大歌舞伎

今月の人気は夜の部の仁左衛門玉三郎だろうが、私が出かけたのは、歌六丈が二つの芝居に出演している昼の部

平家女護島「俊寛」は掬之助が初役でつとめる
俊寛といえば吉右衛門という印象が私には強いが、菊之助が岳父をどう繋げ、どう進めるか興味があった

そのことについて述べる前に、いくつか
平家物語では、俊寛が熊野権現を拝さないことに、帰還できないことへの理由を込めているように読んだが、歌舞伎ではそのあたりは考えないほうが、その後の人間物語に集中できるということなのかな

むしろ、成経・千鳥、俊寛・東屋という重なる恋に焦点の一つを当てているということなのだろう

さて、俊寛の中身というより殻のことにはなるが、俊寛が義太夫狂言ということで、太夫三味線に注目した　竹本葵大夫の声が渋くていい、また、三味線の作り出す場が芝居を盛り上げていくのは明らかだ
文楽では太夫三味線人形遣いの三業がメインなことを踏まえ、さらに歌舞伎における黒衣と能における後見とを比べてみた時に、以下のことを考えた

能ではシテ、ワキ、ツレ、アイなどに加え、囃子方、地謡、後見らがいずれも舞台にいて、面をつけているものを除けば、みな顔を晒している
これをもって、能が場を見せているのに対し、人形浄瑠璃は三業を見せ、歌舞伎は役者を見せるという形になっているのではないか
そういう視点の分析も面白そうだ

歌舞伎については女形というものの活用が今では虚構の強調、コレは舞台ですよとの強調により、かえって、舞台の意味を再検討させる力にもなっている気がする

帰洛船が近づいてくる様子をセリフを用いて、次々と遠→近感を作っていく様子はとても興味深い

セリフと言えば瀬尾の言葉を基康がひっくり返して用いる「慈悲も情けも見ぬふり…」あたりは定番ながら見応え、聞き応え

ところで、俊寛への赦免状の包み紙に書かれる「上」はなんだろう
重盛から俊寛に宛ててなら「下」のような気もするのだが

さて、冒頭の問いへの思考として
菊之助がラストシーンで見えなくなった帰洛船の方向を見る、静かな無表情と僅かに変わる表情に込められた万感には強い印象を受けた
ここは、「思い切っても凡夫心」との義太夫が入った後だが、というより、帰洛船ではなく弘誓の船を見ているとの解釈での演技に見えた
吉右衛門に比べまだまだ感はあるものの、このあたりは菊之助の力にも思える

音菊曽我彩
まずは美しさという芝居で歌舞伎ならでは
菊五郎が年齢にも関わらず、舞台でのしっかりは流石だった