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ラ・ボエーム@東京芸術劇場
指揮者の井上道義氏の引退公演ということになるのだろうか
音楽については特に素人なので、そのあたりの感慨はよくわからないが、大きな節目ではあるのだろう
東京芸術劇場のコンサートホールは、新国立劇場や東京文化会館と異なり、オーケストラピットが浅いのか、オーケストラの皆さんがよく見えるのも興味深かった
プッチーニのこの作品については、青春の光と翳という印象を強く持った
その意味では、オペラファンの方にはいささか申し訳ないのだが、1975年-76年に放映されたテレビドラマ「俺たちの旅」が思い出される
男性4人、女性2人の感受性の強い若者たち、2つの恋愛の苦しさと喜びと哀しみというと、いささか、紋切り型でありそうだが、音楽と歌唱の力により、いい鑑賞の時間になった
前半はそれほどでもないのは「仕込み」の場であり、それが後半の哀しさを十分に準備している
ミミのたつきである刺繍の花が美しいが、香りを持たない「生きている花ではない」という伏線も聞いている
2時間弱の芝居でもあり、テンポが早い。すぐに恋に落ちるし、葛藤も素早い。それが悪いわけではなく、わかりやすさもあり、楽しめる
ただ、今回公演の目玉だとも思う森山開次の演出については、素人としてはいまひとつ、どのような成果があったのかはわからなかった
人の顔をイメージできる背景は、深読みができるかもしれないし、第二幕、クリスマス・イヴのパリの街中で、出演者が窓枠を持って動くことで街の喧騒や人の流れを表す演出は面白かった
しかし、おそらく森山の思い入れが深いだろう、マルチェッロを藤田嗣治風にしたことは、だから何? 的な印象を持ってしまった。プログラムに依れば、この演出によって、ラ・ボエームと日本を同じ地平に置く云々が書かれていたが、どうなんだろうか
また、希有な力を持つダンサーでもある森山らしく、黒衣っぽいダンサーが登場するのだが、これらが、どういう意図なのかも、私には十分に伝わらなかった。端的に言えば「なくてもいい」という感覚
多様なエレメントの可視化なのかもしれないが、であったとして十分に生きている印象がない
さて、高齢者に入った私としては6人の若者の物語を過去の郷愁と共に楽しむことはできたが、最も思い入れのできる役柄は、ムゼッタのパトロンであるアルチンドロということになる。
ムゼッタに惹かれ、しかし、恋愛の対象となることを諦め、金銭によってムゼッタとの関係を、しかし、ひょっとするとそこには性的なものさえないまま、しかも継続的な関係になることもないだろうと思い、結局は財布として扱われる男であるアルチンドロという点景人物、そういうことだろう。
さらに、登場すらしない、病気のミミを保護していた男性(なのだろう)にも私を重ねてもいい
苦境にあるミミを金銭的、環境的に保護し、安全を与えていたなかで、ミミは本当に愛する人のもとで死ぬために、その男性から離れる
彼がいなければ、ミミはもっと早く亡くなり、ロドルフォと会宇こともなく命を落としていたのではないだろうか
そういうものとして生きることも面白い