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あなたの顔はみんなのもの

顔認証 AI についての本です。

Hill, K. (2024). Your Face Belongs to Us: A Tale of AI, a Secretive Startup, and the End of Privacy. Simon & Schuster.

Clearview AI の CEO の Hoan Ton-That の個人史と、顔認証技術の社会史が交互に語られながらやがてひとつにまとまる。村上春樹の小説みたいな書き方で、とても面白いです。

Hoan Ton-That はベトナム系のオーストラリア移民で、大学生の頃?にアメリカに移住している。IT 系のいろんなベンチャー企業を立ち上げては失敗して、みたいなことを繰り返していた。そんなときにトランプ大統領近辺の人脈もできて、オルト右翼系の1人ともみなされるようになる。

顔認証技術は当初、ホテルとかの民間サービスでの活用を考えていたが(行けばすぐおもてなしみたいな)、あまり儲からなかった。そこで 警察向けに特化したところ大当たりした。監視カメラの映像から被疑者を瞬時に見つけ出すみたいなやつですね。そういう商売の仕方自体、ちょっとどうかと思わないでもないし、Ton-That の遍歴を考えればさらに微妙な感じになる。ちなみに Google も似たようなサービスを開発していたが、わりと早めに撤退している。Google だったらそんな倫理的にリスクのあるサービスに突っ込まなくてもいい。危なっかしいところに行かざるをえないのはベンチャー系、というのは、そういう業界とはいえ、困ったことではある。

ヨーロッパでは顔認証はとにかく嫌われていて、2024年の AI act でも顔認証関係はいちばん上のリスクに分類されている。Clearview はデータの扱いもなかなかに無茶していて、SNS から自撮り画像を引っこ抜いていた。それで先日、GDPR 違反でオランダから500億円だかの制裁金を課された。

もちろんこんなの払わないのだが、だったらいっそのこと個人制裁を可能にできないかという議論まで出てきている。法的なやり方としては無理筋のようだけど、こないだテレグラムの CEO がどうもよくわからない感じで拘束されたこともあり、緊張感が出てきている。

顔認証関係はアメリカやアジア諸国ではさほど気にされておらず、規制も進んでいない。ヨーロッパだけ突出しているのはなぜか?という問題もあるけど、ゲシュタポなんかがいた歴史的な背景と、デモやストライキで写真を撮られて困った使い方をされたらたまらない、みたいな背景があるようだ。

他方、アメリカの大学生はこんな悪い遊びをしている。レイバン=メタのスマートグラスで街行く人を撮影して、個人情報を瞬時に統合するやつ。こんなことされたらたまらないけど、公開サービスだけでこれができるのもまあ、というところ。

仕事柄で気になるのはまあ、大学入試で不正使用されたら困るな、というところ。実際、今年の入試で使われた例があったが、それは画像を SNS に投げて誰かに答えてもらうというやり方だったようで、そんなのはバレますね。ChatGPT に連動なんてされたらもっと見つかりにくくなるので、怪しいメガネという時点で見抜かないといけないけど、髪に隠れたらどうすればいいのか、とか。

こんな記事もあって、現場での対応は相当に難しそうですね。
特にオチなしで終わり。