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間抜けな音 【短編小説】


 俺は"超"がつく程の馬鹿だ。それも"超"がつく程の。人から聞いた事なんてすぐに忘れるし、勉強もこれっきし。集中力もないし、本も読めない、それに人から聞いた事をすぐに忘れる。どこの誰がどう見ても馬鹿って訳だ俺は。まぁ、こんな俺でも生きていけるこの世界はまだまだ余裕ってこと。馬鹿は馬鹿なりに生きていく術ってもんがあるんだなこれが。教えて欲しい?無理だね。その術ってのが何なのか忘れちまった。俺は馬鹿だからね。


 こんな馬鹿な俺だが、決定的にダメな所が3つある。1つは数が数えられない所。もう1つは自分の周りが見えてな過ぎる所。こりゃもうどうしようもねぇな。改善のしようがないよ。まぁ俺はこんな俺がけっこう好きだし、直そうともしてないんだけどね。……え?何かおかしいことでもあった?


 最近、俺が住んでいる街を歩いていると、ある噂をよく耳にするようになった。どうやらこの街にはトラックを引いて焼き芋を売る屋台があるらしい。勿論俺は焼き芋なんて買ったこと無いし、街をドライブしていてそんなトラック見たことも無い。ただ、俺は街の人が美味しそうな焼き芋をまさに食べている所をよく目にするし、あの焼き芋の屋台の有名な謳い文句、「いしや~きいも、アツアツで美味しい焼き芋だよ」、愉快なラッパの音と一緒によく耳にもする。焼き芋のあの甘い匂い、良いよなぁ。焼き芋なんてどこで売ってるんだろ。俺も焼き芋、買って食べてみたいなぁ。


 おや、そんな所でスマートフォンを覗き見てるそこのアンタ!「いしや~きいも。アツアツで美味しい焼き芋だよ。俺の焼き芋は日本一。1個買っていかない?」

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