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ゴジラを出せばなんとかなる

88歳独語強めの方の第一趾の爪が気になったので
「ゴジラみたいだな」とつぶやきながら、そのマッシブな爪をぶった切ったり削り落としたりして整えている。

ようこそ、ここはグループホーム。
リビングにて爪切りの施行に入ったばかりの僕。だがすぐに、奥のほうでのっそりと立ち上がる人影を視界にとらえる。このフロアでの最年長・93歳が、何かを思い出したように急に座席から立ち上がる。

大丈夫、危な気はなさそうだ……。そしてそのままゆっくり、ゆっくりと、こちらへ向かって歩いてくる。
こりゃまた「ゴジラみたいだな」と思いながら、僕は爪切りを続ける。

そういえば先週の水曜ウェンズデー、映画館で『ゴジラ-1.0』を観てきた。
舞台設定は終戦直後の日本。映画を観ながら——映画に集中させてくれよ!と思いつつ――随所でグループホームに居住している方々の顔が過ぎった。

「あー、あの人たちはこの時代を生き抜いてきたんだよなあ」
映画鑑賞的には雑念といえる、そのような邪魔が入ってしまったことが唯一の心残りである。なんせ映画自体はすこぶる楽しめたわけだから。

まったく悪気のないゴジラ。
騒ぎ散らすのはいつもまわり連中である。
これがわりと率直な僕の感想だ。


かつて「困ったときには、とりあえず『ゴジラ』を出しとけばいい。そうすれば物語は成立する」。そう言ったのは誰だっただろうか。


誰でもない。
誰もそんな言葉は残していない。

僕だ。
僕が今、でっちあげた言葉である。


ちょっと前に買ったデアゴスティーニの創刊号。
“東宝怪獣”コレクション 1/700スケールのゴジラフィギュア(1984)


ゴジラを出しときゃ、物語は成立するはず。

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