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【サラリーマン生活回顧⑤】戦場に着く前に通らねばならない戦場

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千葉県の工場から東京都心のオフィスに転勤となり、いきなり洗礼を浴びるのが通勤のラッシュアワーだった。
当時は今のようなテレワークや時差出勤もないので朝9時の始業目掛けて一斉に東京のオフィス街に神奈川、千葉、埼玉方面から人が殺到する。
幸か不幸か我が家は隅っことはいえ東京都内にあったので乗車している時間は短いのだがそれ以前から乗ってくる乗客に押し戻され要領よく乗らないと数本の電車を見送ることになる。
朝の通勤時間帯は乗り切れない乗客を車内に押し込む「尻押し屋」なる学生バイトも存在し、閉まらないドアめがけて数名がホームを駆け回っていた。
どうにか乗れても車内は寿司詰めで身動きが取れず、貧血などで具合が悪くなる人も多く見られた。そんな中で企業戦士たちはなんとか隙間を見つけて日経新聞を読む。新聞は出来るだけ広げないように、上手な人は文庫本くらいの大きさまで折り畳んで器用にページを繰る。
そんな中いっぱいに広げて堂々と読んでる人がいた。
迷惑なやつだな〜と見ると我が社の常務ではないか。私の上司の鬼課長のさらに上の偉い人、この方も「鬼」と言われる強面の方で、さすが偉くなるだけあって肝が座っていらっしゃる。
ただ周囲の方は明らかに我が常務に敵意に満ちた視線を送り、中には咳払いする方や何かつぶやく方もいて一触即発の不穏な空気が流れていた。
途中駅でドアが開くとその方々は我らが常務をもみくちゃにしながら電車を降りてゆき、中には「一回ホームに降りろ」などと罵声を浴びせる方も。
普段強面の常務とはいえ公共の場所では一民間人なのだと安心する。

昭和50年代後期はまだ冷房車の導入も進んでおらず、夏などは窓全開で風を取り入れるので女性などは髪がぐしゃぐしゃになってしまうし、ダイヤが乱れた時など途中で停まってしまうと車内はサウナ状態になる。
一方冬は着膨れラッシュで普段より容積が増えるので一層混雑に拍車をかける。
車内のどこかでパチンという音が聞こえ、直後に「いい加減にしてよ!」という女性の声。相手が実際に痴漢を働いたのか冤罪なのかはわからないが、このように気丈な対応をする女性もいる反面、大概はどうすることもできない確信犯と不可抗力の狭間。
このような朝のラッシュを経て社員たちは業務を開始するわけだが、ほとんどの人が席に着くなりぐったりしている。いわば1日の体力のほとんどを通勤で使ってしまっている始業時間の光景だった。


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