【ショートショート】『人生/協奏/狂騒/競争曲』
【TVの人気者、あの佐古田教授が、まさかの痴漢容疑で逮捕!】
その衝撃的なニュースは、風に飛ばされてきたスポーツ新聞という形で、文字通り、俺の目に飛び込んできた!
そんなバカな..
まさか..サコタに限って..
俺は自分の目を疑って、その飛ばされてきたスポーツ新聞を拾い上げ、食い入る様に見つめた。
本当なのか?佐古田..
【本人は容疑を否認している】のか..
今年で46歳になる佐古田と俺は高校時代、自他共に認める良きライバル、好敵手だった。
全ての教科で他の生徒達の追随を許さぬほど、抜群の成績だった俺達二人は、勉学、スポーツにおいて熾烈な争いを繰り返していた。
そして、それだけには飽き足らず、当時のクラスのマドンナG子を巡って激しく争った。
俺はその戦いで佐古田に勝利してG子を手に入れた。
それを見せつける為に、奴の目の前でイチャイチャとちちくりあったりした事もある。
俺の頭の中はG子の事で一杯になっていき、学業どころではなくなっていった。
その結果、当然の様に俺の成績は急降下した..
それに反比例する様に、佐古田の成績は今まで以上に上昇していき、いつの間にかG子は俺の腕をすり抜け、佐古田の腕に抱かれていた。
その勝利の女神を手に入れた佐古田は学校を卒業後、G子と結婚して、そのまま出世街道をまっしぐらに進んで行く事になる。
甘いルックスで徐々に世間から注目される様になった佐古田は、テレビにも出演するようになり、切れのいい語り口で大学教授兼コメンテーターとして、お茶の間でその姿を見ない日はないと言われる程の人気者になっていった。
一方の俺は...
俺が最後に佐古田に会ったのは、今から10年前に開かれた高校の同窓会の時だ。
俺に気を使っての事なのか、そこに佐古田の妻であるG子の姿はなかった。
若きイケメン大学教授として、少しずつTVに出演する様になっていた佐古田だが、落ちぶれた俺に対しても驕ることはなく、かつてのライバル時代と変わらぬ調子で接してくれた。
その時、佐古田が俺の目を見ながら言ってくれた力強い言葉は、今も忘れていない!
『渋谷!お前は、絶対、このまま終わる様な奴じゃない!それはライバルの、この俺が一番よく解っている!渋谷!俺と同じ土俵に上がってこい!そこで勝負しようぜ!』
そう言って、俺に爽やかな笑顔を向けた。
その佐古田がまさか、こんな事に…
順風満帆だと思われていた佐古田に、まさかこんな落とし穴が待ち受けていたとは、誰が予想しただろうか?
よし、佐古田!待ってろよ!今、行くぞ!
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「もしもし、警察ですか?…なんかいつも駅で寝てるオジサンに、いきなりお尻触られたんですけど…はい…えっ、しょうがない?それは、ちょっと失礼じゃないですか?…はい…はい…今も隣に居ますよ!なんか【俺を訴えろ】とか【サコタと同じ土俵に上がって、どっちが刑を軽く出来るか勝負するんだ!】とかって、意味わかんないんですけど…はい、えっ、関わらない方がいい?だって、お尻触られたんですよ!.…ああ、そうですか、はい…判りました。はい、じゃあいいです。はい、もういいです!はい」
監督、脚本/ミックジャギー/出演 佐古田役.松岡縦造、渋谷役.佐村河内せめる、女性.ダしノガし明美
【了】