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【サラリーマン生活回顧⑥】千発のムチと1個のアメ

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異動先は体育会系の指導方針だった。
上司の命令は絶対服従、反論は時に鉄拳を持って封じられるが、これらの鬱憤はたまに開催される飲み会でシラフでない上司の激励訓示で中和され、明日からのモチベーションを保つ。
私が担当していたのはルートセールスで、担当する特約店に訪問し市況や概況をヒアリングし、在庫を置いてもらったり拡販戦略を練るといった役割なのだが、窓口担当の方も我が上司のキャラクターは理解していて、アノ人は大したもんだという評価が多いカリスマ的存在だった。
カリスマなので言葉遣いも敬語など使わない。
お客さんからの電話も「おぅ!やっとるか!」という口調だし、部下を名前で呼ぶことも滅多になく「おい」とか「こら」という二人称。着任したばかりの私などは「戦力にもならない塵」扱いであった。これは「塵でありがたく思え、塵も積もれば山になるっていうだろ」と理不尽な納得感を与えてくる。
先輩もそんな上司を崇拝しており、私と同じような扱いを受けながら成長してきたというのだが、私が失敗した時もフォローでなく上司側に立って「そうだ!課長の言う通りだ!」と詰めてくるので、成長の解釈を間違えてるんだな〜とも思う。
お客さんもやんちゃな人が多くてウチの上司同様「ですます」調でしゃべる方は少なく、アホとか馬鹿と言う二人称がスタンダード、そのうち私も「ですます」調で話す方が卑屈に見える体質となってしまった。

もちろん売ってなんぼの部署なので売り上げ実績にはこだわらねばならない。
実績やKPI取っていつまでに何トン(鉄鋼業界の数量指標はトン単位が目安)売ると言う計画が普通なのだが我が上司の指示は「気合いで売ってこい、予算ショートしやがったらぶっ飛ばす」と言うとてもわかりやすく難易度の高いミッションを与える。

大抵、1日に何度か「馬鹿野郎」「死んでしまえ」といったムチが飛んでくるのだが、定時を過ぎると「おぅ!飲みに行くぞ!」とお誘いが来る。
この誘いには絶対服従なので先輩はじめ「やった!課長が誘ってくれたぞ!」と本心とは真逆のリアクションをし、席上「昼間はお前にああ言ったが、そこを乗り切ってみんな偉くなってきたんだよ」とアメを一個ずつ与え、みんなのモチベーションが最高潮に達した宴は「帰るぞ!領収書切っとけ!」と閉幕し、あたかも上司にご馳走になったように「ご馳走様でした!」と皆頭を下げる。

叱るのも叱られるのも経費かよ


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