なぜノンコンタクトワークなのか
セミナーを主催する時、大きく気を配ることの一つがテーマだ。
自分自身が興味をもち、参加者たちのレベルを引き上げ、なおかつインストラクターの持つ智慧を深く引き出せる。それが良いテーマの条件なのだけど、これがなかなか難しい。
今年のセミナーでは何をリクエストしようか。
そう悩んでいたのだけど、DVD制作の打ち合わせの最中に「ノンコンタクトワークがいいんじゃないか」と思いついた。
システマの動画をザッピングしてるとしばしば出てくる、アヤシゲなワーク。触れることなく相手が崩れる。吹っ飛んでいく。某武術家が格闘家に挑んで一方的にボコられたのを彷彿させる、神秘系ワーク。
DVDのスタッフは「それは見栄えがしていいですねえ」と喜んでくれたのだけど、実はノンコンタクトワークを選んだ意図はちょっと違うところにある。
ノンコンタクトワークは、普遍的な原理に則っている。ミカエルはそれを誰にでも分かるプロセスに分解して教えてくれる。
2007年にロシアのモジャイスクという地方都市でミカエルとキャンプした時のことだ。寂れた教会の敷地で30人ほど、ミカエルと一緒に1週間ほどキャンプ生活を送りシステマ漬けになるというものだ。広場一面にイラクサが生えてて、ローリングする度に皮膚がかぶれるという、今思い返してもなかなかすごい環境だった。
この時、メキシコからの一団が参加してたのだけど、彼らが「触れずに倒すやつを教えてほしい」とリクエストしたのだ。
「あんな高等そうな技、おいそれと教えてくれるわけないだろう」と僕は思ったのだけど、ミカエルはさも気軽に「いいよ」と一言。
それから半日でミカエルはその場にいた全員にノンコンタクトワークを身につけさせてしまった。もちろん精度や威力という意味ではミカエルほどではないものの、その感覚と方向性を理解させたのだ。
この時に提示されたのは、わかりやすく組み立てられた習得のためのプロセスだ。ノンコンタクトワークは別に不思議なエネルギーを使うような特殊な技術ではない。誰もが普段、当たり前に使っている無意識の能力を意図的に使いこなすものだ。それを智慧と感覚でもって伝えてくれたのだ。
もちろん人里離れた森のなかでの合宿という特殊な場の力も作用したのだと思う。だからこそ短時間で皆が理解できたのだろう。
この体験を通じて僕が学んだのは、単なる「触れずに人を倒す技術」ではなかった。僕たちは「怪しい神秘系」とか「特別な人だけができるもの」とか、「自分には向いてないから」とかいろいろな理由で、本来できるはずのことを「自分にはできない」「理解できない」と決めつけてしまう。
または信じられない事柄に対して「あんなのインチキだろう」「嘘に決まっている」と疑い、決めつけてしまう。実際、僕もキャンプで教わるまではシステマの威力は実感しつつも、ノンコンタクトワークだけは眉唾ものだと思っていた。
でもちゃんと教えてもらえると、原理は明確だし、自分にもそれっぽいことができる。もちろん人間のやることだから絶対ではない。弱点もあれば限界もある。そのこともまた理解できる。
心のどこかで「できない」「理解できない」「嘘だ」「インチキだ」と決めつけて遠ざけていたものも、適切に分解すれば理解できる。それはノンコンタクトワークに限らず、あらゆる技術全般に言える。そのことをこの体験から学び、その後の人生で大きな影響を受けている。
同じような体験をシステマ仲間たちにもしてもらえるんじゃないか。そう考えたことが、ノンコンタクトワークをリクエストした一番大きな理由だ。
今、僕たちはとても幸せな時期を生きている。創始者に直接疑問をぶつけられるからだ。
だから今回のセミナーでは思い切り疑問をぶつけてほしい。
「あれってホントなんですか?」「どうやるんですか?」
その疑問を端緒にして、ミカエルは皆の理解をぐっと深めてくれるはずだ。
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