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慣性なんてぶっとばせ②

僕は最近、量子力学の総ざらいにはまっています。「え、何でそんなことをしてるの?」と思われるかもしれませんが、じつは僕は経営学以前には物理学を大学で専攻していたのです。量子分野は専門分野だったのです。

こんなことを再びやりはじめるなんて、もちろん、今年の初めには考えてもいませんでした。しかし、状況は流動的なのです。ジャングルの奥地では、思いも寄らなかった作戦変更が行われる場合だってあります。

さて、個人のライフプランですらこんなふうに状況に応じて刻々と変化していくのに、組織の計画が変わらない訳なんてありませんよね。今回のお話はそういうタイプのものになります。

そういえば、以前も似たようなコラムを書いてましたね。

個人のライフプランを描くこの話とか:

中期経営計画という、僕が何年もやって来た仕事に真っ向から問題意識をぶつけているこの話とか:

組織の計画を立てる、そして遂行する

今回は『仕事に関する9つの嘘』から、計画・目標や評価についてのお話をします。

簡単にいうなら、「目標は立てた三週間後には陳腐化するので、目標にこだわらず、その時点時点における正しい情報を従業員に開示し続けよ(=そうすれば従業員が臨機応変にやってくれる)」ということでした。

普通の部署って、ずっと以前に立てた古い計画で走り続けることがありますよね。本書の言葉を借りれば、「仕事は前途にあり、目標は背後にある」。われわれはバックミラーを見ながら車を運転しているかのごとしです。

しかも多くの場合、計画立案者は現場 (情報源)から遠いところにいる。企画畑で歩んできた僕は耳が痛いです。もちろん、現場をリスペクトして、最新情報は常に仕入れるようにしてましたが……。

企画者は自分の情報収集力に磨きを掛ける必要があります。が、そこには必ず一定の限度が存在することは肝に銘じるべきです。

こういう限度があるからこそ、企画担当者や上司は、現場から情報を吸い上げるだけでなく、全体が/他部署がどうなっているのか、また管理サイドでなにが起こっているのか、包み隠さず現場に返すことが大事になってきます。

管理は仕事の本質ではありません。仕事の本当の目的は、正しく成果を上げることです。管理はその邪魔をしてはいけません。

意味を失った計画でもって評価をするという茶番

さて、このように計画とは、すぐに効力を失うものです。たとえば、僕のパーソナルライフでいえば、年初には計画に存在しなかった活動「量子物理学の再学習」が入り込んできています。

年初計画通りに僕の活動を評価するなら、現在いくら量子物理学に精を出しても無意味です。評価対象外です。でも、本当に無意味なのは年初の計画の方です。そんなものに縛られていれば、僕の生活はだめになるでしょう。

世の中の管理職の皆様は、このような状況で、「間違っているのは計画の方だ」などとは言えず、半年~一年に一回、すでに効力を失った計画に照らして部下の評価を行わなければならないのです。なんてかわいそうな。

おまけに、進捗を測るということ自体が謎です。プロジェクトの50%完了とは何か? 70%完了とは何か? 納得のいく定義は困難です。

たとえば本書の中の例を借りれば、マラソンの前半と後半とでは、しんどさが桁違いなので、単純に距離で進捗を測る愚はすぐ理解できるところです。それでも昇進やボーナスを決めなきゃならないので、なんとなくやっているのです。

評価する側もつらい。評価される側もつらい。つらい同士のフィードバックミーティングが始まります。そこで話される内容も、自然、的外れなことも多くなるでしょう。上司サイドは、なぜ部下にこんな低い評価を付けたのか、それを説明するために、部下の至らなさを並べ立てるでしょう。本当は計画設定が間違っていただけだというのに。

エンゲージメントスコアという組織の通信簿

また、企業ではありがちですが、情報の遮断が行われることがあります。手っ取り早く権力を維持しようと思えば、選ばれた人たちだけで情報を掌握してしまい、それを他の社員に教えないことが有効です。

重要決定がなされた経緯を秘匿したり、ある会議を傍聴する権限を奪い取ったり。とにかく意思決定をクローズドな場で行おうとします。このあたりの情報が手に入らなければ、部下がどれだけ頭の切れるやつでも、上司を飛び越えるのは不可能になります。

さらに、部下同士の接点をなくすなんて方法も取られることがあります。部下同士が情報のやりとりをすれば、上司よりもすぐれた解が導き出せることがあるからです。良からぬ偉い人は、こういった事態を嫌います。

これで偉い人たちは安泰になります。しかし、当然のことながら現場のパフォーマンスは落ちます

それどころか、エンゲージメントスコアも落ちます。これは、情報不足のために、社員同士で困っているときに助け合うということができなくなっているからです。決して、社員がみな悪人だからではありません。

悪いのは仕組みであり、場合によっては、そんな仕組みを維持している管理者たちです。

エンゲージメントスコアが落ちているときは、情報の不足が起こっていないかどうかを気にかけたほうがよさそうです。あなたの組織が上記のような機能不全に陥っているのでなければ、情報のオープン化への舵取りはできるのではないかと思います。

本稿を通底しているのは、情報はとにかくオープンにすること。計画も、現場の動向も、重要事項の決定プロセスも、とにかく仲間を信じて広く知らせること。そうすれば、みんな状況に合わせて適切に考えて動いてくれるということです。

信じましょう。というか、そんなことを信じられない人を採用して一緒に働いているのだとしたら、それは別の大問題なんじゃないでしょうか。

(慣性なんてぶっとばせ③に続く)

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