見出し画像

弘前れんが倉庫美術館

「弘前れんが倉庫美術館」は、明治・大正期に建設されたシードル工場(シードルはリンゴ酒のこと) だった「吉野町煉瓦倉庫」をリノベーションしてできた現代美術館で、コロナ禍のために開館が遅れたものの7月11日にやっとオープンした。ここは、オペラシティ・アートギャラリーでも個展をしてその活動が広く知られるようになったパリ拠点の建築家・田根剛が国内では初めて手がけた美術館だ。

ここの改修工事は、できるかぎりもともとの煉瓦倉庫の躯体やオリジナルの素材を活かし、館内のディテールにこだわったことで、この建物が内包するか過去の残照が濃厚に感じられるように生まれ変わらせている。その一方で、ニューヨーク北部にあるディア・ビーコンのようなミニマルなクールさがあってとても潔くカッコいい。

最も高いところで15メートルもある展示室は5つあるが、白い壁面は少なくほとんどがレンガかコールタールを塗った壁だ。また天井も木製の梁がスケルトン状態で残されていてそれがまたこの美術館の特徴ともなっている。

れんがに覆われた建物だが、ここの屋根がかなり老朽化していたため、田根はそのすべて取り外し、その代わりにチタン製の「シードル・ゴールド」が使っているが、こんな斬新な発想はなかなかできるものではない。新国立競技場のコンペに古墳スタジアムを提案した建築家ならではの素晴らしい手腕に唸ってしまった。 

そして、肝心の柿落としの展示も、この建物の記憶に焦点を当て、それぞれのアーティストたちの視点でその記憶をテーマにしたものや改修工事に基づく作品などが展示されている。参加作家は、藤井光、畠山直哉、ジャン=ミシェル・オトニエル、ナウィン・ラワンチャイクン、笹本晃、イン・シウジェン、そしてこの美術館が誕生するきっかけを作った弘前生まれの奈良美智などだ。