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【英日対訳】22年前、英国議会で #対イラク武力行使 審議中にあるベテラン議員が行った武力行使反対討論(反戦論)|1998.02.17

映像ソース: Now This Entertainment 

テキストソース: 英国国会アーカイブ

はじめに

今から22年を遡る1998年2月、英国議会では国連安保理決議に対する違反行為を繰り返す当時のイラクのサダム・フセイン政権に対し、決議に基づく武力行使(空爆作戦)に参加すべきか否かの議論が行われていた。

米国は同年1月、単独で攻撃を実施することを表明したが、安保理でこの行動を支持するのは、当時非常任理事国だった日本と、常任理事国では英国だけだった。同3月、日英主導でイラクの国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)による査察受け入れ拒否は「最も重大な結果をもたらす」とする決議1154号が採択された。米国はこれを「武力行使容認決議」として受け止め、同年12月、米英両軍によりイラクに対する空爆(『砂漠の狐』作戦)が実施された。日本の小渕首相(当時)は、カナダ、韓国、ドイツ、スペイン等とともに、この軍事行動に対し支持を表明したが、当時のアナン国連事務総長と、残る常任理事国5カ国を含む12の安保理理事国は、この行動は国連の承認を得ておらず「遺憾である」とした。

この一連の流れの中で2月、英国議会において武力行使への参加が議論され、政府提案として議会に作戦への参加の承認を求める動議が提出された。これに対して明確に反対の立場から討論を行ったのが、当時労働党に所属したベテラン議員のトニー・ベン(Tony Benn)下院議員だった。

その後、2000年のアフガニスタン攻撃から2003年のイラク戦争にまで繋がる決定打となった対イラク武力行使に反対した議員が、国家として空爆を支持した英国議会にもいた。それから約20年後の今年、イラクの隣国である仇敵のイランと米国が一触即発の事態に陥っているいま、この時のベン議員の発言が注目を集めている。

こうして、かつての敗戦国イラクとその敵国のイランと睨み合うことになった現代の米国は、イランが報復した場合、文化施設を含むイラン側の主要施設を破壊すると宣言している。イランは当時のオバマ政権が主導して調印された核協定の廃棄を宣言し、臨戦態勢をとっている。

2020年1月、イランは米軍事施設への報復軍事行動を開始。イラク国内の主要な米軍基地へのミサイル攻撃を開始した。米国(トランプ大統領)は報復を宣言しているため、今後段階的に衝突は激しさを増すことが予想される。そのような中で、ベン議員の20年前の発言の意味がさらに重要視されている。以下は、その注目の発言の全容である。

Hon. Rt. Tonny Ben

トニー・ベン議員閣下

War is easy to talk about; there are not many people left of the generation which remembers it. The right hon. Member for Old Bexley and Sidcup served with distinction in the last war. I never killed anyone but I wore uniform. 

戦争について語るのは容易いことです。戦争を覚えている世代がほとんどいないのですから。Old Bexley出身の議員閣下もSidcup出身の議員閣下も、先の大戦で受勲されている。かくいう吾輩も、誰も殺してはいないもの、軍服を纏っていた

I was in London during the blitz in 1940, living where the Millbank tower now stands, where I was born. Some different ideas have come in there since. Every night, I went to the shelter in Thames house. Every morning, I saw docklands burning. 

1940年のブリッツ作戦の時、吾輩はロンドンにおりました。現在そびえるミルバンク・タワーの麓で吾輩は生を受けた。最も、最近は違う話が飛び交っているようですがね。毎晩、テムズハウスのシェルターに逃げ込み、毎朝、燃え盛るドックランドを目にしておりました。

Five hundred people were killed in Westminster one night by a land mine. It was terrifying. Are not Arabs and Iraqis terrified? Do not Arab and Iraqi women weep when their children die? Does not bombing strengthen their determination? What fools we are to live as if war is a computer game for our children or just an interesting little Channel 4 news item.

ウェストミンスターでは、一夜にして500人もの人びとが地雷によって殺されました。恐ろしい光景でした。アラブ人やイラク人は恐ろしくないのでしょうか?子どもらが死んだとき、アラブやイラクの女性たちは嘆き悲しまないのでしょうか?爆撃したら、彼らの [戦う] 決意をより強固にするだけではないですか?

What fools we are to live as if war is a computer game for our children or just an interesting little Channel 4 news item.

戦争が子どものコンピューターゲームの中にだけ存在するかのように振る舞う、あるいは、少し関心を呼びそうなニュースの題材のように捉える我々は、なんと愚かなのでしょうか?

Every Member of Parliament who votes for the Government motion will be consciously and deliberately accepting responsibility for the deaths of innocent people if the war begins, as I fear it will. That decision is for every hon. Member to take. 

もし開戦となってしまえば—残念ながらそうなるでしょうけれども—[空爆の承認を求める] この政府の動議に賛成票を投じるすべての議員は、理性的に、かつ、熟慮の上で、無辜の人びとの死に対する責任を受け入れたことになります。それは、各議員殿がお決めになることです。

In my parliamentary experience, this a unique debate. We are being asked to share responsibility for a decision that we will not really be taking but which will have consequences for people who have no part to play in the brutality of the regime with which we are dealing.

吾輩の議員としての歴史の中でも、これは特異な議論です。われわれは、われわれが実際に関わらない事柄について、そして残虐非道な体制と何ら関わりのない人びとがその代償を払うことについて、責任を共有することを求められているのだから。

On 24 October 1945—the right hon. Member for Old Bexley and Sidcup will remember—the United Nations charter was passed. The words of that charter are etched on my mind and move me even as I think of them. 

1945年10月24日、Old BexleyとSidcupの議員閣下らはご記憶にあるでしょうけれども、国連憲章が採択されました。その憲章 [前文] の言葉は今も吾輩の脳裏に焼き付いており、今も吾輩を感動させます。

It says: 

"We the peoples of the United Nations determined to save succeeding generations from the scourge of war, which twice in our life-time has brought untold sorrow to mankind". 

That was that generation's pledge to this generation, and it would be the greatest betrayal of all if we voted to abandon the charter, take unilateral action and pretend that we were doing so in the name of the international community. I shall vote against the motion for the reasons that I have given.

こう書かれておりました。

《われら連合国の人民は、われらの一生のうち二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い》と。

これは、かつての[われわれの] 世代が現世代に行った誓約でした。この憲章を放棄し、一方的な行動をとり、かつ、それを《国際社会の為》という名目で行うとするのは、大いなる背信行為であると言わざるを得ません。かような理由から、本動議について、吾輩は反対票を投じるものであります。

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戦いのノート
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