【英日対訳】米サンダース大統領候補が下院議員時代に行った伝説の #対イラク武力行使 反対演説(完全版)|1991.01.17
米民主党大統領候補のバーニー・サンダース上院議員が、独立系の下院議員だった1991年1月17日、湾岸戦争の勃発後に米下院で行った、いわゆる『空席の国会演説』が話題を呼んでいます。独立系議員として唯一対イラク武力行使の事後承認に反対票を投じたサンダース議員が空席の議会で一人何を熱弁したのか、その一語一句を追いました。
史実 - HISTORICAL FACT
Source: 米連邦議会図書館資料
1991年1月12日に両院合同会議で行われた、対イラク武力行使の事後承認を認める決議の投票結果。独立系で唯一反対票を投じたのがサンダース候補であることがわかる。また民主党は、実は179人もの議員が反対票を投じていた。86人もの造反(?)がなければ、武力行使は容認されていなかった可能性があった。実際、決議は250対183の賛成多数により可決されていた。
背景 - BACKGROUND
Source: 米国防総省
・『湾岸戦争』それ自体は、1990年の8月2日にイラクがクェートに侵攻した時点ですでに勃発しており、米軍はその後8月7日には"防戦目的に特化した"『砂漠の盾』作戦を展開。ところが、8月8日にイラクがクウェートの併合を宣言したことから、軍事偵察行動を本格化していた。9月11日、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は上下両院合同議会に対して"防戦目的に特化した"12万人級の兵力派遣を表明。同11月29日、対イラク武力行使を容認する国連安保理決議678号が賛成多数で可決され、イラクには1991年1月15日までに撤退する猶予が与えられた。
・1991年1月12日、米上下両院議会は安保理決議678号に基づく武力行使を事後承認。1月17日、イラクが期日までの撤退を拒否したことから、米軍率いる多国籍軍は攻撃に転じる『砂漠の嵐』作戦の展開を始める。防戦のための軍事行動から攻撃のための軍事行動へと転換した。2月22日、ブッシュ大統領はイラクに24時間以内にクウェートから撤退する最後通牒を行い、これを拒否されたことから2月24日、イラク及びクウェートへの地上侵攻作戦の展開を開始した。
したがって、1991年1月12日の米議会両院合同議会決議は、既に『砂漠の盾』作戦で展開していた米軍部隊による大統領権限に基づく武力行使を事後承認、即ち追認するかについての承認決議だった。サンダース議員が行った「空席の議会演説」は、その採決後5日が経過したあとに行われたもので、湾岸戦争はその前の年から継続中であったことをここに正しておく。
演説本文 - FULL TEXT OF THE SPEECH
議長
われわれは、肝に銘じなければなりません。
人類にとって、イラクの人びとにとって、米国民にとって、そして国連という機関にとって、きょうは悲劇の日であります。
Mr. Speaker,
We should make no mistake about it. Today is a tragic day for humanity, for the people of Iraq, for the people of the United States, and for the United Nations as an institution.
また、きょうは、この惑星の将来と子どもたちにとっても、悲劇の日となりました。われわれが何十億ドルもの戦費を費やす一方で、途上国で今日も餓死している三万人の子どもたち、そして最低限の生活を保障する財源すらないために、貧困に喘ぐ25%もの子どもたちにとっての悲劇の日であります。
It is also a tragic day for the future of our planet and for the children, 30,000 of whom in the Third World will starve to death today as we spend billions to wage this war - and 25 percent of whom in our own country live in poverty in our country because we apparently lack the funds to provide them with a minimal standard of living.
議長
不法に、かつ野蛮にもクウェートに侵攻したサダム・フセインという小心で残忍な独裁者に対抗して、「ほぼ」全世界が結束しているという事実がありながら、大統領は本格的な戦争を仕掛けることでしか、この紛争を解決しわれわれの目的を達成できないとし、わずか一日の空爆の結果としては歴史に類を見ない規模の死と破壊をもたらしました。これに私は賛成できません。
Mr. Speaker,
Despite the fact that virtually the entire world has been united against Saddam Hussein—a two-bit vicious dictator who illegally and brutally invaded Kuwait—the President [Bush] concluded that there was no way of resolving this conflict and achieving our goals other than waging a major war—perhaps unprecedented in the history of the world in terms of death and destruction wrought in its first day as a result of our aerial attacks. I disagree with that assessment.
議長
現在起きている悲劇を見て、私には直ちに三つの懸念を持ちました。
Mr. Speaker,
There are three immediate concerns that I have regarding the current tragedy.
第一に、テロ支援国家シリアや、専制君主が率いる独裁国家サウジアラビアとクウェート、そしてこの戦争への参加と引き換えに70億ドルもの債務帳消しを認められた一党独裁国家エジプトなど、主に中東の独裁国らとわれわれは連合を組んだわけですが、昨晩われわれが起こした行動は、長期的には、中東におけるわれわれの国益を大きく損ねるものとなるでしょう。
First, despite the fact that we are now aligned with such Middle Eastern governments, such as Syria, a terrorist dictatorship, Saudi Arabia and Kuwait, feudalistic dictatorships, and Egypt, a one-party state that receives seven billion dollars in debt forgiveness to wage this war with us, I believe that in the long run, the action unleashed last night will go strongly against our interests in the Middle East.
合衆国とその同盟国は確実にこの戦争に勝つことでしょう。しかし、そのことによってもたらされた死と破壊は、第三世界の人びと、とくに中東の貧しい人びとにとって、忘れがたい記憶として残るであろうと私は思います。
Clearly the United States and allies will win this war, but the death and destruction caused, will not, in my opinion, soon be forgotten by the Third World in general, and the poor people of the Middle East in particular.
私がたいへん恐ろしいと思うのは、中東のたいへん複雑で悲惨な危機に対応するために、われわれは先般、「戦争」そしてわが軍の強大な武力を選択すると言い切ってしまったことです。
I fear very much that what we said yesterday is that war—and the enormous destructive power of our armed forces—is our preferred manner for dealing with the very complicated and terrible crises in the middle east.
私が恐ろしいのは、いつの日か、この判断を悔やむときがくるのではないかということ。そして、幾年にも及ぶより多くの戦争を呼び込む土壌を作り上げてしまっているのではないかということです。
I fear that someday we will regret that decision, and that we are in fact laying the groundwork for more and more wars for years to come.
議長
第二に、わが国の政府と連合軍は間違いなくこの戦争に勝つことでしょう。しかし、それはこの国の人びと、とくに労働階級の人びとや貧しい人びと、年老いた人びとが、この戦争に勝つということでしょうか。路上や橋の下で暮らしているこの国の200万ものホームレスの人びとは、この戦争には勝ちません。彼らの住む場所を確保する財源が失われるのですから。
Secondly, Mr. Speaker,
While there is no question in my mind that the United States government and its allies will win this war, I am not at all sure that the people of this country - especially the working class people, the poor people, and the elderly will win. The two million homeless people in our country sleeping out on the sidewalks and under the bridges are not going to win this war. There will be no money available to house them.
医療費を払えない何千万ものアメリカ国民も、この戦争には勝ちません。彼らのニーズを満たすための財源が失われるからです。
The tens of millions of Americans who cannot afford healthcare today are not going to win this war. There will be no money available for their needs.
いま、バーモントで土地を追われようとしている農家の人びとも、この戦争に勝つことはなく、子どもや高齢者も、この戦争には勝ちません。戦費を捻出するために、十中八九、社会保障やメディケア(医療費補助)の支給を切り崩されてしまうだろうからです。
The family farmers in Vermont - who are today being driven off their land - are not going to win this war, nor will the children or the elderly, who in all probability, will see cutbacks in their social security and medicare checks in order to fund it.
議長
戦争が始まってしまった今、われわれは、無用の流血を防ぎ、もっとも根本的なやり方でわが国の兵士たちを支援することに全力を挙げる必要があります。それは、彼らを生きた健康な状態で、母国に連れ戻すことです。
Mr. Speaker,
It is incumbent upon us to do everything in our power - now that the war has started - to prevent unnecessary bloodshed and to support our troops in the most basic way. By bringing them home alive and well.
我が同僚議員の皆さん。
大統領に爆撃を直ちに止めるよう要請しましょう。そして、国連事務総長にはイラクに赴くよう要請し、イラクのクウェートからの撤退と戦争終結に向けた交渉を直ちに開始するよう求めましょう。われわれの持てるすべての力を尽くして、無用の流血を防ごうではありませんか。
I urge my fellow members to ask the President to stop the bombing immediately, and request that the secretary general of the United Nations to go to Iraq and begin immediate negotiations for the withdrawal of Iraq from Kuwait, and the cessation of the war. Let us do everything in our power to stop unnecessary bloodshed.
以上であります。
Thank you.
Special Thanks to @reservologicさん for 日本語監修
訳者あとがきにかえて
以上は、2016年度米民主党大統領候補のバーニー・サンダース上院議員が、独立系の下院議員だった1991年1月17日、湾岸戦争の勃発後に米下院で行った、いわゆる『空席の議会演説』の全文をあらためて書き起こしたものです。
独立系議員として唯一対イラク武力行使の事後承認に反対票を投じたサンダース議員が空席の議会で一人何を熱弁したのか、その一語一句を現代に蘇らせるべく、あらためて全文を聴き取り、忠実に和訳し、それをさらに監修にかけました。
1991年1月12日に両院合同会議で行われた、対イラク武力行使の事後承認を認める決議で、独立系で唯一反対票を投じたサンダース大統領候補。民主党は179人が反対票を投じていて、86人もの造反がなければ、武力行使は容認されていなかった可能性があったという、まさに歴史的な決議でした。
その後の中東、ひいては世界の安全保障の歴史を塗り替えたといっても過言ではない、1991年の対イラク武力行使容認決議。その25年後の世界は、ほぼサンダース議員の恐れた通りの世界になっていました。私たち日本人は、このことから何を学びとれるのでしょうか。考え続けたいと思います。