西日本豪雨:自衛隊によるコンビニ「商品」の緊急輸送問題についての補足Ⅰ(連携協定の説明、現状と推測)
ツイッター上で多くの反響をいただいた、西日本豪雨における自衛隊によるコンビニ代替輸送の問題に関する「皆さんの反応を見かねて補足」した一連のスレッド及びモーメントでの小まとめを、TL上での言葉足らずな部分を補強してあらためて書き起こしました。ツイッターでは敢えて触れなかった現政権の対応への批評を含めた推測の検証を趣旨とする「Ⅱ」に続きます。(※暫定で①のみ無償公開)
①官民の双務的「包括連携協定」について
政府の対応は是々非々で評価しましょう。ただし、本稿では個人的な批評は控えます。各々で判断して独自に評価してください。
首相官邸アカウントの2018/7/11付のツイート
この問題になったツイートで首相官邸側は「商品」と公報していますが、要はこれは「救援物資」のことです。私はこの「商品」を、
"「救援物資」として自衛隊が陸路緊急で代替輸送したものだが、通常通りに通常価格で販売する「商品」として陳列・販売されたもの。"
と理解しています。そのこと自体は問題と捉えず、矛盾だとも思いません。
理由は『Ⅱ』で詳述します。
東日本大震災(以下「311」)以後、自治体レベルでコンビニを災害地域の支援拠点とすべく、「包括連携協定」なるものが各都道府県の自治体とコンビニ各社の間で締結されて来ました。 災害時(有事)のみならず、通常営業時(平時)の協力関係も定義した包括的な協定で、これまでは災害に関する連携の在り方がおおまかに規定されてきました。参考に、2009年に広島県とセブン―イレブンの間で締結された包括協定の内容を見てみましょう。
広島県とセブンイレブン・ジャパンの間の包括連携協定全文(09年)
協定本体には「連携事項」として「地域や暮らしの安全・安心及び災害時の支援に関すること」と一文あるだけです。より詳細な具体的な連携事業についても、この2009年度の協定における「災害時の支援に関すること」の規定は、以下の程度の粒度でした。この包括協定に基づき、その一体となる個別の協定が存在する筈なのですが、残念ながら発見できていません。
この、包括協定に基づく「災害時における物資の調達に関する協定書」は、広島県が公開している「災害時応援協定一覧」のファイル(Excel)によると、セブンイレブン・ジャパンだけでなく、ファミリーマート、ポプラ、ローソンと、いずれも2006年に一斉に締結されていました。
この一連の協定に基づき、各地のコンビニは災害時に臨時の物資貯蔵庫と配給所の役割を同時に果たします。とはいっても、コンビニそれ自体がコンビニを訪れる消費者に物資を無償で配給するのではありません(ツイートでは言葉に迷いましたが、端的に災害時にコンビニが実際に果たす役割を考えると、「配給所」が適当だと思いました)。
災害時、コンビニは多面的な機能を発揮します。「商品」の販売も、自宅避難者・自宅被災者等の「避難所以外で生活し続ける様々な事情を抱える被災者」を支援する救援活動の一環です。
尚、本稿では、被災者=避難所生活者ではなくより広義に、
"発災の影響で不自由な生活を強いられている被災地域のすべての人びと"
を指すのだと考えます。
過去の法令上の『被災者』の厳密な定義は次のとおりですが、本稿で用いる独自の定義とそう意味は離れていないと思います。強いていえば、違いは「適法に在留する者」という表現でしょうか。
東日本大震災に際し災害救助法(昭和二十二年法律第百十八号)が適用された同法第二条に規定する市町村の区域(東京都の区域を除く。)に平成23年3月11日において住所、居所、営業所又は事務所を有していた国民又は我が国に住所を有し適法に在留する者(「東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律」に基づく)
西日本豪雨被害に当てはめると:
災害救助法が適用された市町村の区域に平成30年7月5日において住所、居所、営業所又は事務所を有していた国民又は我が国に住所を有し適法に在留する者
となると思われます。
さて、災害時、コンビニは①『災害情報ハブ』として、また②災害対策基本法に基づく『指定公共機関』として、③時には『帰宅支援ステーション』となって帰宅困難者の支援を行う情報・救援ハブに、また時には④『支援物資供給所』として、避難所に物資を無償で供給するいわゆる”ラストワンマイル”(最後の数キロ)を繋ぐ最終集積所(配給ポイント)となります。
流通経済大学・苦瀬博仁教授らによる国交省への調査報告「土木計画学・熊本地震調査報告 物流(緊急支援物資供給)の課題」平成28年 5月29日より
今回、連携協定を結ぶ広島県呉市のコンビ各店舗に『プッシュ型支援』として自衛隊を活用して物資が緊急輸送されましたが、通常これら「救援物資」は各自治体が締結する協定に基づき、各避難所に優先供給されます。
(例)セブンイレブンジャパンの場合
”災害時の各自治体との協力セブン‐イレブンは各自治体と協力し、大規模災害が発生した場合に必要な物資を被災地の方々に提供するための体制を整えています。また、39都道府県と11市(2017年1月末現在)の店舗を「災害時帰宅支援ステーション」として登録しているほか、災害時の支援協定を結んでいる37都道府県と28市町と物資供給の協定を締結しています。”
この、避難所への物資供給の取り組みは、救援物資を自治体が協定に定める価格で一括購入することで成り立ちます。自治体が費用を負担して買い上げた「救援物資」は、避難所等自治体が必要と認める施設に搬入されます。その際の輸送にかかる費用は、原則としてコンビニ側が負担することになっています。
「救援物資」としてコンビニに輸送された「商品」は、原則として通常購入が可能です。これは「商品」の利活用範囲を決めるのはコンビニの裁量に任されているからです。勿論、協定が別途定める『実施要領』(発見不可)あるいは都度の要請に従って求められる数量については、納入することが義務であることは大前提です。しかし、1つのコンビニ店舗で陳列することのできる商品ボリュームには限界があります。
これはコンビニの性質上、大手スーパーのような巨大な在庫を抱える容量の倉庫や貯蔵・保管施設を店内に持たないからです。したがって、店舗の納入計画として「救援物資」を通常の2倍~4倍納入することがあっても、それを超える量は抱えきれないので過剰在庫を抱えることなく、それは「救援物資」として避難所等に回されるのではないかと想定します。
より正確にいえば、仕訳→運搬→輸送→納入作業の効率上、協定あるいは個別の要請に従って納入する数量は確定している訳ですから、店舗内に陳列する物資、少量の在庫として抱える物資と、避難所に回す物資は予め区別して搬入される筈です。しかし、元の物は同じ「救援物資」なのです。通常の倍以上の数量を抱えるのですから、それは通常搬入される「商品」とは異なる性質のものであろう、という論理的に推理できます。
こうして、コンビニ側は災害時でも利益率を温存しつつ、自治体側は有効な被災者支援を実施できるというwin-winな協定が実現しているのです。これは、コンビニ側にとってはじつは死活問題でもあります。なぜなら、被災状況下では営業を継続するのに自治体側の支援が必要だからです。なので、双務協定で相互に責任を分担し合うことで、互いの活動を担保できるのです。
コンビニ側は、事業体であるからには利益を上げなければならないし、雇用も確保しなければなりません。店舗側が雇用を確保できないということは、失業者が生じることを意味します。勿論、被災状況の中で(※被災地域のコンビニの従業員も当然ながら被災者です)働き続けることは苦痛であり困難かもしれず、これは各店舗の親会社が考慮すべきことです。各社は、協定の持続可能な実施のために必要な施策に万全を期すべきでしょう。そのためか、協定には「人材派遣」の規定もあります。
(例)愛媛県が締結した「災害時における応急生活物資の供給及び帰宅困難者の支援に関する協定書」(PDF)
さらに、被災者側にとっては、とくに地方都市では都会とは異なりコンビニは周辺のモノ不足を解消する生活に不可欠なライフラインとなっています。このライフラインが機能しないということは、被災者にとっても死活問題なのです。したがって、災害時にコンビニが無償であれ有償であれ、十分に平時と同等あるいはそれ以上のレベルで営業可能であることは、直接の当事者である被災者にとって、ひじょうに助かることなのです。
(具体例1)報道:セブンイレブンジャパンと水戸市との協定 |毎日新聞(2018年6月29日)
(具体例2)プレスリリース:自然災害発生時に、物資・サービス等の支援をワンストップで提供する、日本初の民間主導による緊急災害対応アライアンス「SEMA」に参加|ファミリーマート(2017年08月31日)
②「プッシュ型支援」は官民一体の防災努力の賜物
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