【英日対訳】セクシャルヒューマノイドとヒトが共生する社会を夢見た若き探求者が日本で実感したテクノロジーと #子どもの性対象化 の倫理の問題|英Express (2018.4.10)
あらまし
2018年4月18日に放送された日本の性産業を扱ったBBCの番組。東京都内の某工場を訪れたプレゼンターが涙を流し始める。彼が見たものは――子どもとしか思えない体格のセックスドールだった。
工場の関係者は「何歳かはお客様の想像に任せる」と。女性の案内役(通訳?)はこともなげに「まだ合法なんですよ」と。
このプレゼンターの男性、ヤング氏はじつは生体義肢の探求者で、自ら義足と義腕を持ち、BBCのドキュメンタリーのために世界中のセックスロボットのメーカーを取材して歩いていた。
番組は世界のセックスロボット産業の今を探る英『BBC Three』のドキュメンタリー「Sex Robots and Us(セックスロボットと私たち)」。今年4月に放送されたもので、ネット配信もされている。
プレゼンターのヤング氏が訪れたのは、東京にある大人の玩具の製造工場。そこで、子ども型のセックスドールの型を見た彼は困惑しながら思わず工場長に「ソレは、一体何ですか」 と尋ねる。工場長は、明解な答えを返さない。ヤング氏は不快なあまり、逃げるように外に出てしまう。
この時、通訳だか案内役の女性が、子ども型セックスドールの前で淡々と「これらを作業者がハサミで切断します」と説明する。そこでヤング氏は「私がまず目を疑ったのはそこではありません」と言う。しかし女性はなぜヤング氏がドールから目を背けるのが理解できずに「ん?」と聞き返す。
ヤング氏は、目を背ける続けながら「こ、これは一体何の人形なんですか?」と尋ねる。目は充血していて、涙を堪えているのが分かる。「日本でしか販売しないモデル」という工場長の説明は何の宥めにもなっていない。
日本編はこの動画の22:00分辺りから始まり、当初ヤング氏はAIとヒューマノイド制作の権威である石黒教授等も取材するなど、セクシャルヒューマノイドとヒトが『共生』する社会に展望を抱く。その中で、テクノロジーと倫理という問題を真剣に考える機会に遭遇した。
東京での工場視察の後、ヤング氏は思わずこう口にした。無邪気にスーパーハイテクに接した彼がその瞬間まで抱かない疑問だった。
「人間の中にあるもっともおぞましいものを引きずり出してしまうようだ」
番組の最後で、彼は静かにこう語った。
このnoteでは、このドキュメンタリーを取り上げた英Express.co.ukの報道内容の翻訳と、実際にヤング氏とコンタクトをとってその胸の内を語って貰った内容を紹介する。尚、残念ながら、彼のコメントの公開は承諾されず、あくまで私の理解した内容でかぎりなく彼の思いを代弁する形をとった。
以下は2018年10月当時にMomentやTogetterに纏めたものをそのままnote形式に再編したものである。ヤング氏と交わした約束を守り、彼のコメントの全文は今後も公開しないが、そのために彼や英国人の名誉があまりにも汚されているので、信義に応え名誉を守るためにこの形をとることにした。
当時のクリップ動画の和訳(2024年3月追記)
ヤング氏のプロフィール
Expess.co.ukの記事ではヤング氏は"biologist"と紹介されていたが、実際は"bionic"義肢の探求者だった。あのバイオニックアームも、かつて日本のコナミと提携して製作したものなんだとか。
当時27歳のヤング氏は筋金入りのゲーマーで、5年前に事故で片腕と片脚を損傷し、コナミと義肢開発で提携した時から『メタルギアマン』と呼ばれていたそうだ。そんな彼はテッキーで、自身が片腕や片脚で恩恵を受ける先進テクノロジーが人類にもたらす影響を考え続ける探求者でもある。
ヤング氏はこの純粋な探求心で映像作品も手がけており、ユーチューバーとして活躍していたところBBCの目に止まり。プレゼンターとなったようだ。公式プロフに再生リストがあるので見てみると、『BBC Three』でこれまで彼がプレゼンターを務めてきた番組の公式動画が一覧されている。
ヤング氏がこれまで関わってきた映像作品は何れも先進テクノロジーを使ったロボットに関するもので、『セックスロボットと私たち』は、前作の『ロボットは私たちを愛せるのか』という番組の流れを汲んでいる。障害者の彼は、その逃れようのない側面からロボットと共生する未来を志向している。
ヤング氏のプロフには、彼がこの二作品に込めた思いが語られていた。
「セックスロボット」というひとつの極みに到達したのは、彼がヒトとロボットとの関わりの中で感情的なリンクが見つけられるかどうか、メンタルヘルスや孤独そして恋愛という分野でAIやロボットが果たせる役割を探求することにあった。
番組全編
※閲覧注意:BBC公式動画ですが、ロボットの性器部などモザイク処理されていません。お子さま等未成年者にはとく見せないようにしてください。
問題のクリップは28:23辺りから始まります。
ソース
記事和訳
不快な子どもサイズのセックスロボットを前に涙するBBCのプレゼンターの衝撃映像
日本の東京郊外で大人の玩具工場を訪問したBBCプレゼンターのジェームズ・ヤング氏。不快な子どもサイズのセックスロボットを前に彼は思わず涙した。
衝撃的なBBCドキュメンタリーの一幕だ。
シャーロット・デイビス著
2018年4月10日掲載
ヤング氏は、BBC Threeのドキュメンタリー「セックスロボットと私たち( Sex Robots and Us)」の一環で日本に取材に訪れたときに、この”子どものような要素を備えた”(“with kid-like” aspects)小さな人形に遭遇した。
この”小さな”セックスロボットの容姿に困惑の色を隠せなかったプレゼンターは、製造者のオオカワ・ヒロ氏に、これは一体何の人形かと尋ねた。
工場長の男性は、こう答えた。
「実際の年齢設定については、お客様の想像にお任せするしかありません。勿論、仰ることもなんとなくわかります。こうした小さな、”子どもに近いサイズのもの[日本語ママ]”(原文はkid-like size)に対しては、捉え方はそれぞれあるでしょう」
”若い( “young”)”セックスドールの登場にはっきりと動揺が見て取れるヤング氏は、その遭遇を”恐ろしい経験(“horrific”)だった”と形容した。
またこうも付け加えた。
「とにかく外に出たかったんです」
工場長のオオカワ氏(※原文はOkakaだが誤謬と見られる)は、日本では子どものような(child-like)セックスドール(sex doll)の販売に法律上の問題はないとしながらも、さまざまな捉え方があるかもしれないことを認めた上で、こう語った。
「[日本では法律上] 問題はないのですが、さまざまな捉え方があるでしょうから、私どもはこのモデルは日本のみでの販売としています」
”サイボーグ”の出で立ちのプレゼンターのヤング氏は、生物学者 [原文ママ] でもあり、腕と脚に義肢をまといながら、BBCのドキュメンタリーのために世界中のセックスロボットメーカ-を渡り歩いている。
番組中、ヤング氏はこう語った。
「[セックスロボットには]人間のもっともおぞましい部分を引き出す可能性を秘めているようです」
「人の理想を物理的に現出させるプラットフォームのようなものの筈が、実際は男性(※)にとっては、相互に反応を楽しんだり、幻想を実現するためのものとなっており、そこにリスクが潜んでいるように思えます。心理的に、これがどのような影響を持つものかは、推し量れないものがあります」
※訳注:ここでヤング氏が"men"としたことが「ヒト」を指すのか「男性」を指すのかについては迷いました。しかし番組を通して彼が取材してきたなかで、スペイン、イギリス、日本、いずれもセックスドール又はセクシャルヒューマノイドの市場は圧倒的に女体型が占めていたことから、ここでは敢えて「男性」としました。
ヤング氏への質問と回答
質問と他者の考察
最後に、私の問いかけた内容だけ、彼の「答」の前段の部分までのやりとりだけ公開します。実はあの「確認」のツイートをしたほんの数分後に、ヤング氏からDMが来ていたのです。私の彼への質問はシンプルでした。
昨晩帰宅すると、ヤング氏からDM(ダイレクトメッセージ)で、エッセイのような長さの大変に丁寧な返信をいただきました。当時の心境を余すところなく吐露してくれた内容は、余りにも個人的なもので、公開・要約をしてよいのか、彼に尋ねるのも憚れる内容でした。一晩寝かせて考えましたが、彼との対話の中で決めます。
ひとつだけ確実に言えるのは、東京での体験の後、番組内でヤング氏が吐露したこの内容が、彼からの返信の根底にあったということです。その意味で、私がこれまで行ってきた考察は、間違ってはいませんでした。また東大教授?の女性の方が仰っていたことも的を射ています。
この方の考察です。
この方の考察も的を射ていました。
ヤング氏の回答
東京の性玩具工場で子どもサイズのセックスドールを目の当たりにして思わず涙してしまったBBCのプレゼンターのヤング氏。彼とDMで直接繋がり、当時の心境について尋ねたところ、とても長い、真摯な回答を返してくれました。ただ、公開の可否については、残念ながら不可となりました。
私自身、ヤング氏の回答を消化するのに時間がかかりました。彼は深い考えがあって、これまでセックスボットに関する2つの企画に参加していたのだということがわかる内容でした。さまざま彼を揶揄し誹謗する声がある中で、憶測に拠らない彼の考えを伝えようとしましたが、伝えきれなくて残念です。ただ、これだけはハッキリと言えます。
彼の言葉を借りず、自分の言葉で言い切れるのは、こういうことです