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【コラム】最高裁判断から1年。元TBS記者山口被告による #伊藤詩織さん への #不同意性交 に対する賠償命令の確定が持つ意味

伊藤詩織さんの性被害、元TBS記者への賠償命令が確定 最高裁決定 | 朝日新聞デジタル(2022.07.08)

“伊藤氏は2015年、就職先の紹介を山口氏に求めて都内のすし店などで飲食した後、ホテルの部屋で、酒に酔って意識がない状態で性行為をされた。山口氏は「(伊藤氏が)誘ってきた」と反論したが、伊藤氏が直後に知人や警察、病院に被害を伝えていたことなどから、判決は「信用できない」と退けた。(中略)東京地検は16年、準強姦(ごうかん)容疑で書類送検された山口氏を嫌疑不十分で不起訴処分としている。“

朝日新聞(2022.07.08)

山口氏は刑事責任を問われなかった。これは既定の事実だが、この最高裁判決は同時に、"「デートレイプドラッグを使った」と表現した点は真実と認められないとして、伊藤氏に55万円の賠償を命じた。"とある。

つまり、否定されたのは「準強姦」の《容疑》と、これに纏わる《手段》としてのデートレイプドラッグの使用。ところが、そういった特定の手段は用いなくても「同意のない性交」を行い、それが賠償責任に値することも最高裁で確定した。

最高裁で確定した高裁控訴審判決「主文」の内容(こたに🌺ギタリスト氏より)

2017当時の法律では「同意のない性交」であるだけでは刑事責任を問えなかった。「準強姦」であるか「強姦」であるかに関わらず「抗拒要件」という壁が被害者の側に立ちはだかった。被害者の側に、この抗拒要件を満たしたかどうかの立証責任が求められたからだ。

しかし性暴力の被害者は、性暴力に接したときに、抗拒できなくなることがある。これは脳が正常に活動している故の健常な反応で、「凍り付き」や「すくみ反応」と言われている

脳がこの反応を示したときの記憶は、海馬の機能不全により曖昧、断片的になりがちで、記憶の前後が正しく繋がらない(=整合しない)こともある。これでは被害者側には現実的に立証など不可能に近い。しかも、これは恐怖体験に接する中で起きる脳と体の健常な反応なのだから。

こうした科学的事実がある中で、今月から抗拒要件を必要としない「不同意性交」が犯罪として裁かれることになった。

「不同意性交等罪」を創設、性交同意年齢は引き上げ。改正刑法が成立、どう変わる? | ハフポスト NEWS (huffingtonpost.jp)

刑法の原則により遡及的に過去の罪を現代の法で裁くことはできないが、少なくとも、現代の法に照らして、民事でも山口氏の行為は不同意性交に相当し、賠償責任を負うべきものであることが確定した。

刑事においては、現代の法で裁くことはできなくても、山口氏の行為が、「現代の法に照らせば犯罪に相当する」ということはハッキリ主張できるようになった。

朝日の記事にはこうある。

"伊藤氏は17年に記者会見して被害を公表。実名や顔を出して発言を続け、性被害を告発する「#MeToo 」運動の高まりに影響を与えた。性交に同意がないだけでは処罰されない現状の刑法の問題点も訴えた。"

朝日新聞(2022.07.08)

伊藤詩織さんの「訴え」は、多くの当事者を動かし、刑法を変える大きな力となった。そして今、不同意性交は法律上の犯罪となった。

これをまさに法の前進・進化というのだろう。

まさに身を切る思いをしながら、いわれのないバッシングに耐え、長い年月をかけて法廷の場で争い続けてきた。その間も、多くの誹謗中傷に晒されながらも、訴訟を抱えながらも、怯むことなく、社会正義の実現に向けて邁進し続けた伊藤詩織さん。

この法の前進と進化は、そうした彼女の取り組みににより実現した。

最高裁判決がデートレイプドラックの使用を「真実と認めない」としたことは、伊藤さん個人にとっても、またすべての性暴力被害者にとって、大きな禍根として残るだろう。だがそうした禍根を残しながらも、最高裁により、山口氏が不同意性交を行ったという事実が認められ賠償責任が確定したことは素直に喜びたいし、伊藤さんの8年に及んだ闘いにようやく本当の区切りがつくことを心から労いたい。

伊藤詩織さん、8年間お疲れさまでした。
よくここまで、投げ出さずに、頑張り続けました。

そして、ひとりのサバイバーとして一言感謝を述べたい。
ありがとうございました。


伊藤詩織さんの8年間の軌跡


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戦いのノート
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