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女子に「もっと足を広げろ」とは言いにくい

2年生の長身アウトサイドヒッター、ユウは、スポ少ではミニバスケを経験してきたからか、上半身の力が比較的強く、スパイクフォームは小さめなのに、打ったボールのスピードは速い。
打ち損じたような、うまくヒットしなかったボールが思いもよらない場所に飛んでいって決まることもあり、不確実性を大いにはらんでいながら、データ上攻撃によるミスが少なく、ブロックの高さもあるため、レギュラーとして定着していった。

彼女の弱点は、最初から最後まで、足幅の狭すぎるレシーブフォームによる、レシーブミスの多さだった。

私が何度「足幅が狭い」と指摘しても、どうしても直してくれなかった。

相手は女子中学生だから、男のコーチが「もっと足を広げろ」とは言いにくい。
彼女本人に理由を聞くのもはばかられ、結局後衛時にリベロを使ったりして、しのいでいた。

ここで読者に、基本的なレシーブフォームを説明しよう。

足幅は少なくとも肩幅と同程度、またはそれ以上開き、足先は平行よりやや外側に向ける。
膝は足先と同じ方向になるように曲げ、上から見たら膝が足先より前に位置するようにして、ややつま先に荷重されるようにするが、かかとは浮かさなくてもよい。
左右の足はどちらかがやや前に出るようにして、前のボールには後ろ足を蹴り足とし、後ろのボールには前足を蹴り足とするように意識する。
上半身は前傾して、腕は肘を直角程度曲げ、手のひらは上に向けておく。
肩甲骨は寄せずに左右に開き、咄嗟に手が顔の前、膝の前辺り、体の横辺りに、最短距離で出せるように意識する。
組み手レシーブの際は肘を伸ばし、前腕部、2本の橈骨がボールに均等に当たるようにする。
横から見た時に大腿部と前腕部が平行になるのが理想。
強いボールは当たった瞬間腕を下げて吸収。
弱いボールは膝の曲げ伸ばしや、後ろの蹴り足による前進、必要最小限の腕の振りなどで、狙った地点へ運ぶようにする。

ユウの足幅は、ほぼ体育座りをする直前の様に見えた。
だから膝の前に打たれたボールには、膝が邪魔して前腕部が届かない。
前にポトリと落ちるフェイントには、膝が邪魔で飛び込めない。

足を開いていさえすれば、足元に飛んでくる速いボールには、上体を両足の間に落とせば間に合うのに、簡単に言えば、組み手したまましゃがめば上げられるのに、その動きができない。
非常にもったいないのである。

バレーボールは膝パッドを着けている選手が多い。
前傾姿勢から、膝をつくこと、前方に飛び込むプレーはよく見られる。
逆に、後傾姿勢でいることはまずなく、背中で滑ることはあっても、お尻をついて転ぶなんていうことは、そもそもの基本の姿勢ができていない、みっともない姿勢だとされている。

「このくらい広げて」とやって見せてもやらないし、肩とか腕なら触るが、足や腰は触らない方がいいだろうし。
母親もバレー経験者なので、足幅の話をしてみたが、母親が言っても直さないようだ。

ただ、人間の身体というのは、その人その人のクセもあるし、どうしてもそうしないと力が入らないとか、やりにくいとか、説明のつかない不思議な部分があるというのも事実である。

なので、こういう、直そうとして直らないものは諦めて、直さない。
というのが私の流儀である。

大学バレー部時代、後輩に、逆足の選手がいた。
逆足というのは、スパイクの助走のステップのことで、右手で打つ人は跳ぶ直前のステップが、右足〜左足の順に、素早くタタンと踏み切る。
これを左足が先、右足が後になるのが逆足と呼ばれる。
はたから見ていると窮屈そうだが、本人はいたって自然に行っていて、違和感はないという。
そして何よりジャンプは高かったし、スパイクも強力だったので、結局直さないことにしたのであった。

将来Vリーグに行くとか、強豪に進学してバレーを続けるとかではないんだ。
それならば、自分の身体を好きなように扱い、それによって生じるデメリットは、最小化できるように別の工夫をすれば良い。
例えば、立ち位置を変えるとか、相手の攻撃を読んでヤマを張るとか、リベロに頼るとか。
そして自分の持ち味である攻撃面でチームに貢献すれば良い。
守備で迷惑をかけているという意識があれば、それを補おうとして、得意を伸ばそうと頑張るだろう。

その思惑どおり、彼女は最後の試合の最後のセット、その最後に上がったトスを、今まで誰も見たことがないようなジャストミートをして、これまでで一番速いスパイクを放ったのだった。

「このチームで、もう1セット戦いたいんだ!」
という気持ちがこもった、素晴らしいスパイクだった。

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