コーチは、やって見せることができれば最良
大学のバレーボール部で、毎日フライングレシーブをさせられたおかげで、50代の私はそれなりに美しいフライングレシーブを実演することができたらしい。
コーチも混じってのミニゲームを行った後に、副キャプテンのリンが、「どうやったらフライングレシーブができるようになりますか?」と質問してきた。
もともと、強かった3年生のフライングレシーブに憧れていたのだろう。
床面ギリギリのボールを飛び込んで取りたい!と思ったなら、君はもうだいぶ上達したということだね。
教えてあげたいとは思ったけど、やっぱりちょっと考えて、こう答えた。
「顎から血を流しても良いのなら、思い切って低く飛び込めと教えるけど、まあ、今やっている膝立ちからの滑り込みをまずはおススメするよ。」
リンの普段の動きから、あまり器用な方ではないと見抜いていたから、危ないことはさせられないと判断した。
リンはレシーブというより、高いジャンプを生かして、スパイクとブロックを頑張ってほしいミドルブロッカーだった。そんな彼女をケガで欠場させたくない。
もちろんレシーブも頑張ってほしいが、最終的には後衛時リベロと入れ替えようと、心づもりしていた。
やはり、コーチはやって見せることができれば最良だと思う。
あんなプレー、私もやってみたい!と思わせることができれば、モチベーションは上がる。
特に、3年生が引退した後、お手本となるプレーヤーがいない、ウチのような少人数チームには絶対必要だと感じた。
手本が必要なプレーの最たるものは、スパイクとブロックだろう。
どちらも動きが速く、ステップとジャンプの組み合わせは、言葉での説明は難しい。
足にも手にも気を配る必要があるし、言葉にすれば注意点がたくさんあり過ぎる。
だからつまり、一朝一夕には完成しない。長い時間をかけて、事細かく無数の修正コメントを与える手間ひまと根気が求められる。
それにプラス実演があれば、理解は早く、より深まる。
23年度チームではやらなかったが、今年24年度チームでは、私もスパイク練習で打って見せることを始めた。
助走の仕方や打つ方向の変え方、フェイントの手のカタチと落とし所、全てやって見せて、すぐ、後ろに並んだ順に全員にマネさせる。
すると、みんなけっこう上達してきた。
昨年のチームでも打って見せたら良かったのかな?とちょっと後悔するくらい、効果はあった。
やっぱり、目からの情報とイメージ力は人の考えや動きを変える力がある。
インスタとかショート動画が一番彼女達に訴える力があるというのも頷ける。
本当は、春高バレーに行く強豪校のように、練習風景を全部録画しておいて、要所で巻き戻してプレーヤー自身の姿を客観的に見ることができれば、もっと良いと思うけど、それは予算と、やっぱり映像スタッフがいないと、自分1人で技術指導と録画再生の両立は不可能だ。
だから私は、録画再生の代わりに、今失敗した選手のマネを実演して見せて、その後に理想的にはどうすれば良かったかを実演して見せる。
さらに、頭で理解したことを確かめるため、同じようなボールを投げたり打ったりして、実際にやらせてみる。
そうして記憶が定着するように、体験までさせる。
バレーボールは立体空間での物理実験だ。
実験はやっぱり、自分でやってみるまでが実験。理科の授業と同じ。
NHKのピタゴラスイッチみたいなもので、身体をこうしたら必然的にボールはこうなる。
けれどそれには、時間の経過も考慮に入れなければならない。
今より少し時間が経ったらボールはここに来るはずで、ボールが来る前にどうするか、どこに運ぶか、どこにコントロールするかを決定して実行するの繰り返しだ。
頭で予想して、判断して、やってみて、できなかったら修正して、もう一度やってみる。
その一つの解法を、コーチがやって見せる。
世の中にはいろんな方法があるだろうけど、コーチならこうする。
なぜならこういう理由で。
そんなふうに説明しながら、実際にやって見せる。
コーチができるなら、私にもできるかもしれない。
そう思ってほしい。
そう思えるような、お手本でありたい。
だから当然だけど、大人の男の筋力でできる解法ではなく、女子中学生のポテンシャルでできる範囲の解法を考えて、実行する。
そういうふうに、「君ならこういうことができるはずだ!」と、期待を込めて導くことが、目的地に連れて行く、COACHの役目なんだと思っている。