幸せの弁当配達
現在僕はバイクで弁当を配達するの仕事をメインにしている。
弁当配達と言っても「高齢者向けの弁当」で、弁当を配るだけではなくお客さんであるおじいちゃんやおばあちゃんの顔を見て、ちゃんと元気でいるかを確かめるのも大事な仕事だ。
何か変わった事があればケアマネジャーに連絡し情報を共有する。
いわゆる「安否確認」というやつですね。
弁当をとっているお年寄りの多くは、一人暮らし。
一日中誰とも話をしないなんてことも日常的だ。
「おお、今日は遅かったね〜」
いつものようにクロさん(僕は勝手にそう呼んでいる)は笑顔で僕を迎えてくれる。
「ごめん、ごめん・・・今日は件数が多くてね」
耳がかなり遠くなっているクロさんに、僕は声のボリュームをいっぱいまで上げてなかば怒鳴るように答える。
きっと知らない人が見たら、年寄り相手に怒っているけしからんヤツだと思うんだろうな。
クロさんは一人暮らし。家族も子供もいない。
小さな川沿いの一軒家でつつましい生活をしている。
僕がクロさんについて知っている事はそれだけだ。
「きっとクロさんは毎日一人で寂しいんだろうな」なんていうのは僕の勝手な想像かもしれない。
結構一人暮らしを楽しんでるかもしれない。
だけどクロさんは毎日僕が来るのを待っていてくれる。
薄暗い廊下の奥から「やあ」と手を上げながら姿を見せるクロさんは、細い目にシワを寄せて笑っている。
「今日は風が強いからバイク気をつけてね。まだこの先遠くまで配達するんでしょ?」
「ありがとう。カツラが飛ばされないように気をつけるよ」
僕はいつものように軽口をたたき、バイクのエンジンをかけてから軽く手を上げて次の配達先へ走り出す。
同じような会話をいったい何度交わしただろう。
だけど僕はクロさんが笑っていてくれる限り何度でも答える。
僕の仕事は弁当配達。
弁当と一緒に笑顔を届ける。
クロさん、待っててね。今日ももうすぐ届けるからね。
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