情熱と達観と、別れと生活と。赤い公園「THE PARK」雑感
赤い公園というバンドがいる(そういえば以前にも、少し書いたことがあった)。
2010年結成のロックバンドである。
2012年にデビューし、精力的に活動していたが、2017年には旧ボーカルの脱退を経験している。歌い手がいなくなった優れた楽器隊(津野さん、藤本さん、歌川さん)と出会った新ボーカルは、「アイドルネッサンス」というアイドルグループの中心的存在として活動していた石野理子さん。奇跡的な出会いを経たあと、その4人で2018年から活動し、このたび新しいアルバムをリリースしたのである。
同バンド名義では5枚目、メンバーチェンジを経てからは初めてのフルアルバムだ。
もともと、メンバーチェンジ前から、赤い公園の音楽が示しているところの一つは「子ども性」だった、と思う。
大人になっても、子ども的な「わけもわからないままとにかくエネルギーを放出する」ということを活動のモチベーションとしていたような気がする。
メンバーチェンジ直前、前ボーカルが抜ける前最後のオリジナルアルバム「熱唱サマー」の最終曲のタイトルは「勇敢なこども」。
「自分の無邪気さが人を傷つけてしまう」という孤独を感じても進んでいく、怯えながらも自分を鼓舞する主人公の歌だった。
それからしばらく、バンドからリスナーへのメッセージは途絶えていた。
その後、バンドはメンバーチェンジを果たした。ボーカルが抜けるというのは、歌モノバンドにとっては致命的な出来事である。バンドそのものの方向性が変わってもおかしくはない。
それでも、彼女らは、「赤い公園」と名乗り続けた。
その決意を象徴する出来事を、私は去年の冬に目撃した。メンバーチェンジ後2度目のツアー「FUYU Tour“YO-HO”」公演である。現体制初の音源「消えない-ep」をリリースしてから初めてのツアーの1曲目で歌ったのは「勇敢なこども」であった。
名義を変えないということは、過去を捨てないということだ。過去を捨てないということは、過去と比較される可能性だってあるということ。その怖さを持ったまま、活動を続けているのである。きっと楽ではない道のはずだ。さらに、多くのリスナーにとって「最後の曲」であったはずのナンバーをライブのはじめに歌う、その決意である。
全ての過去を背負って、歌い継いだ、ということを感じた瞬間だった。あの時、華々しく終われば楽だったはずだし、人生に区切りをつければそれなりに良い思い出として形になるはずのところを、痛みと決意をもって、はっきりと「生活の続き」を鳴らしている。
過去も今も未来も地続きで、全部受け止めていくという思いが、今回の「THE PARK」には全編を通して響いている。
期間限定の夢の結末を
騒ぎ立てたって何もならないね
映画じゃないし終わらない
続きを生きているんだ
「yumeutsutsu」
今から行くよ 迷いながら行くよ
振り絞って顔を出す太陽のように
曙が行くよ 夜を引き連れたまま
リセットボタンが壊れたぼくらをのせて
「曙」
今までもっていた「子ども性」と、そして、バンドとしてほとんど終わりを経験したからこそ表現できる「物語が終わった後も続く物語」とが、ここでは同時に鳴っている。
私たちの生活も、何かにつけて区切りをつけたくなる(「コロナ前」と「コロナ後」とか)が、実際のところは、苛立つほどに、全部地続きなのだ。それを受け止めて前に進んでいくということ。それが高らかに歌われている。
この子ども性と達観性は、新ボーカルの石野理子さんの歌声が大きく影響しているように思う。
十人十色、十人十色、一人ずつー、
十人いたら、十通りの色があるとー、
なるほどね、「個性」って、ことですね
「Mutant」
(歌詞カードにはない台詞の部分なので、内容や表記に間違いがあるかもしれません)
「個性を発揮しろ」と求める社会全体への冷静な視線が、この台詞の話し方によくあらわれていると思う。
「冷静さと優しさ」が同居する歌声の表現力が、もともと赤い公園が持っていた「怯えと子ども性」に非常に良くマッチしているのだと思う。それが、音楽的技術や心地よさに相まって、強く強く、伝わってくる。
最後に。
この「THE PARK」の11曲は、リスナーだけではなく、赤い公園というバンド自身にも向けられているということが分かる歌詞を紹介して終わろうと思う。
さあ折り目を開いて また折り直して
ほころびた色紙の赤
もう綺麗な鶴にはなれないとしても
それが生きていく事なのかもしれない
「曙」
行こうぜ
うつくしい圧巻の近未来
絶景の新世界
「yumeutsutsu」
MVも公開されているこの「yumeutsutsu」の最後の歌詞、私には「うつくしい『赤』の近未来/絶景の新世界」にも聞こえる。
「バンド」という言葉には「結びつけるもの」という意味もある。
この、特異にして普遍的な繋がりの音楽が、もっと広がっていくことを願う。
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