第19話 爺ちゃん婆ちゃんの話
15歳で初めて就いた仕事は板前見習いだった。
週6日朝4時から深夜2時まで働き、大嫌いな魚介類と臭いに囲まれながら過ごした日々。
たった15歳で30万越えの固定給と月に5回の休日は、今思えば涎が出そうなほど恵まれた待遇だと思える。
初めて自分の金で買ったデニムは1着5万円以上もしたし、大好きな浜崎あゆみのCDもたくさん買い揃える事ができた。
しかし当時の私は、いや当時に限らず私は、そもそも好きなもの以外に集中できなかった。
例外として虐待とかイジメとか少年院などは、逃げたくても逃げられなかったから何とかやり過ごせたのである。
しかし、だから、自分の意思で離れる事のできる仕事を踏ん張って長く続けるという習慣や習性はなく、私には難題だったのかもしれない。
「実は魚介類が大の苦手で、板前は目指していません!」
そう言って超高級鮨割烹料理店を辞めた私は、住み込みだったので住所を失った。
普通はここで実家に帰るのが定石なんだろうが、その選択肢はなかった。
散々私を追い詰めた母の下で暮らすことは、自分の人生を暗く転落させる事に等しかったのだ。
新しい父親は他人だし、母の下で暮らすくらいなら、家なき子になる方がまだマシだと思えた。
とは言え甘ったれな私は、どうにか転がり込める居場所を模索した。
かつて家出少年だった頃に世話になった友人の家にでもと考えはしたが、何だか少し気が引けた。
思い浮かんだのは、爺ちゃん婆ちゃんだった。
いつだって私の味方でいてくれた二人なら、受け入れてくれるはずだと思った。
好きなものをたくさん買い揃えた私の荷物は多かったが、何一つ断捨離できず、全てを持って爺ちゃん婆ちゃん家へ向かった。
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