プッチーニ「トゥーランドット」
三連休の二日間は完全にお休みしていましたが、この期間にMETライブビューイングでの「トゥーランドット」を見たのでその感想を書きます。
オペラをクラシック音楽、のなかに内包して正しいのか、という点は分かっていないのですが、オーケストラ編成という点とオペラのシンフォニアから派生して交響曲が誕生しているということから、自分のなかではこのように整理させて頂きました。
鑑賞した具体的な演目は下記のものです。
https://www.shochiku.co.jp/met/program/2072/
実は、オペラを完全に最初から最後まで鑑賞したのは初めての経験でした。
「誰も寝てはならぬ!」は勿論耳にしたことはあったのですが、まさかオペラの劇中歌であったとは、というほどの初心者でしたから、「トゥーランドット」自体のあらすじも知らず、前説などであらすじも知るという塩梅です。
交響曲や協奏曲に耳が慣れていたこともあり、場面のみに合わせた劇伴オーケストラということが非常に斬新に聴こえました。
前回のチャイコフスキーの「くるみ割り人形」では、バレエの劇伴単体で聴いて物語を逆算し妄想する楽しさ、というところが新しい気づきだったのですが、今回は真逆(というか一番真っ当?)に音楽に触れた形になります。
印象としては、映像作品の効果音のような使い方も随所にみられていて、曲が単品で、というよりは全体の芝居の流れが途切れない、展開の起伏に富んだ演奏だなという印象を受けました。
そのため、明確に歌い手や場面などが変わらない限り、曲と曲の切れ目が分からないくらい滑らかな展開であったように思えます。
この点は非常に新鮮で、普段ドラマや映画やアニメのように、明確に場面が変わって、劇伴なども一旦切れるよ、という表現に当たり前のように触れていたせいで、舞台上の転換などにあわせた自然な曲の起伏の取り運びの”妙”が感じられ、素晴らしい表現だなと感じ入りました。
これは確かに、BGMであわせるよりも、舞台の演者たち、スタッフたち、そして舞台前の指揮者と演奏団が一体となって作り上げている芸術作品で、お金もかかる贅沢な嗜好芸術になるよなぁと腑に落ちた点でもあります。
一方で、ディズニー映画のことが終始頭に浮かんでいました。
今回までは全く意識してなかったのですが、ディズニー映画は非常に「ミュージカル」的であるなと。
登場人物たちの会話などがベースになって進んでいくのですが、大きな場面転換だったり見せ場の場面にあたっては、劇中歌が必ず流れて登場人物たちが歌って踊る、という構成が、90年代以降(知っている限りでも1991年公開の美女と野獣以降)定番のようになっています。
すなわち、物語中での盛り上がりどころで、印象的な強弱をつけていくという、オペラの良いところを更に拡大解釈していった形態がミュージカルになっていたのかなぁと思案します。
反面、Aメロ~Bメロ~サビといった現代音楽(大衆音楽的な意味でのポップス)的な構成ではないため、その点はオペラを初めて聴く耳からすると、どこが曲の盛り上がりどころなのか、鑑賞者としては気が抜けないところでもありました。
また別の視点ではあるのですが、登場人物にも意図的な配置を感じました。
おそらく、男性テノール・バリトン、女性ソプラノ・アルトの4種の声は、形式として必ず配役されているのではないかなぁと。
1作品しか見ていないのですが、音域や見どころというところで必要なのかなと感じました。
というのも、「トゥーランドット」にあたっては、「ティムール」という主人公カラフの父親役は、物語の展開上、実はいなくても成り立つ話だなというところを感じたからです。
ただ、歌い手のバランス配置、という点では男性の野太い声という役が抜けてしまいますから、物語の展開よりもそのオペラにおける歌い手の「形式的配置」が優先されたのかな…?と邪推しています。
同様に、オペラ歌手に関しては30代~40代であっても「注目の若手」として取り上げられている点も面白かったです。
オペラ歌手のピークは、40代~50代なのかなと思いましたが、現代の演劇のような20代の美男美女といった配役が見られないというところです。
それはおそらく、過去の時代背景から、舞台上の役者の顔までしっかり見ることができない、という点も関係していそうですね。
「トゥーランドット」を物語として切り取ると、当時の(おそらく観客の主流であった)貴族階級の人たちのインサイトも反映されているように思えます。
主人公カラフは熱意溢れ自分の夢や思いを実現する強い意志を持った強靭な男性のシンボルとして、
トゥーランドット姫は自身の迷いや嘆きを体現しつつそれを発露しきれない悩める女性として、
リューは叶わぬ恋を心に秘めその愛情のために自らの命を散らせる献身的で純粋な心情を表現する女性として、
カラフの父親ティムールは老い先短く息子を心配する年配者として(ここだけ薄い感想になってしまうのは上述の理由からです)、
観客の心を打つには、という点がとても練られていることが透けてみえます。
その点で、観客のことを考えられた、「エンターテイメントとしての芸術」としてオペラの立ち位置があったのだろうなとも同時に考えてしまいました。
良い意味で情報量が非常に多かったので、鑑賞にもなかなか体力を使ったのですが、非常に見ごたえのある作品でした。
また次のオペラ作品を見てみたいなぁ、と。そしてMETのオペラのクオリティが凄まじいことにも驚いています。
良い体験でした。
・・・
今回は草稿30分程度、文字は2400文字程度です。
鑑賞しながらいろいろと思いを馳せることがあったので、割とすんなりとキーボードが進んだ気がします。
皆さんのおすすめのオペラ作品がありましたら是非教えてください!