Peter Turchin「国家興亡の方程式」Historical Dynamics: Why States Rise and Fallを読んだメモ
ピーター・ターチン(Peter Valentinovich Turchin)の『国家興亡の方程式』(Historical Dynamics: Why States Rise and Fall)は、歴史を数学的にモデル化しようとする野心的な試みを展開した著作です。以下にこの本の主要な特徴と内容をまとめます。
本書の概要
『国家興亡の方程式』は、歴史を自然科学のように研究することを目指し、数学的アプローチを用いて国家の興亡を分析しています。ターチンは、歴史動態を数学的にモデル化するCliodynamics(歴史動力学)という学際領域で活動しており、この本でその手法を展開しています。
主要な理論とアプローチ
地政学的アプローチ: 国境線や地形が国家の興亡に与える影響を分析しています。
メタエトニー辺境理論: 記号的に区分された集団(エトニー)の連帯力に注目し、国家の拡大と衰退を説明しようとしています。
民族運動学: エトニーの形成過程を分析し、帝国への取り込みや宗教改宗などの現象を説明しています。
人口構造理論: 人口をエリートと農民の2階級に分け、特にエリートの行動が国家の衰退に与える影響を分析しています。
永年サイクル: 長期的な人口の増減パターンを歴史的データと照らし合わせて検証しています。
本書の構成
本書は10章から構成されており、理論の提示から実証的検証、ケーススタディまでを網羅しています。特にフランスとロシアの歴史を用いたケーススタディでは、提案された理論の説明力と改善点が示されています。
第1章 取り組むべき課題・問題を明らかにする
第2章 地政学
第3章 集合的連帯
第4章 メタエトニー辺境理論
第5章 メタエトニー辺境理論の実証検証
第6章 民族運動学
第7章 人口構造理論
第8章 永年サイクル
第9章 ケーススタディ
第10章 結論
評価と批評
本書は、数学的モデルを用いて歴史を分析するという新しいアプローチを提示しており、学際的な研究の一例として注目されています。
また、ターチンの理論は、アサビーヤ(集団の連帯力)やエトニー(民族性)といった概念を重視しており、イブン・ハルドゥーンの思想に影響を受けています。
結論
『国家興亡の方程式』は、歴史研究に数学的アプローチを導入することで、国家の興亡を客観的に分析しようとする意欲的な著作です。この新しい研究分野は「動的経済史」と呼ばれ、歴史学と自然科学の融合を目指しています。
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