見出し画像

mimicの利用規約が危うい

 絵師・イラストレーターが自身の作品をアップロードし、特徴を学習したAIから生成結果を受け取ることのできるサービス、『mimic (β)』が話題だ。

 新しい技術であり、様々な不安が生じるのは仕方がないだろう。
 筆者としてはその中で知財権関連に興味があるのだが、8/30の17時までに探してみた限りでは、『悪意あるユーザによる悪用』『無知な子供による悪意のない侵害』といった懸念しか見あたらない。

 こうした懸念もある。対策も必要だろう。

 ただしユーザの悪意を想定するなら、『悪意ある運営会社による悪用』というシナリオも考えるべきだ(そういうケースを想定して備えるという意味であって、RADIUS5が何かやらかすという具体的な疑義があるわけではない。念のため)。
 そんなことを疑い出したらどんなサービスも利用できない、と思うのは分かる。どこかで運営会社を信じるしかない。
 が、今のmimicの利用規約はダメだ。運営会社による濫用を認めている。これに同意してアップロードして何かあっても、『だって同意しただろ』になりかねない。

具体的な条文

 現時点の利用規約は全24条。うち、知的財産権についての条文が第12条だ。

第12条(知的財産権等)

 以下、太字は引用者による。

(12条-1.)
本サービスにおいて、当社提供コンテンツ等(AI出力物を除く。)に関する⼀切の知的財産権は当社、又は当社にライセンスを許諾している者に帰属し、本規約に基づく本サービスの使用許諾は、本サービスの使用に必要な範囲を越えて、当社又は当社にライセンスを許諾している者の知的財産権について、使用許諾をすることを意味するものではありません。

mimic利用規約(2022年8月23日制定)

 用語の意味はすぐ後で確認する。
 『AI出力物』以外の『当社提供コンテンツ』は運営会社のもの。

(12条-2.)
前項の規定にかかわらず、AI出力物については、本条第8項に基づき当該送信データに関する権利を有する者がその知的財産権を有するものとします。ただし、第6条第5項に違反する行為を行うことはできません。

同上

 『AI出力物』はユーザのもの。

(12条-8.)
送信データに関する知的財産権は登録ユーザー又は登録ユーザーに権利を許諾する第三者に帰属するものとし、本サービスを利用することにより、当社に権利が移転することはありません。

同上

 そして『送信データ』もユーザのもの。

 この他にも、他人の著作物を送信してはいけない(7項)とか送信データを運営側で消すことがある(9項)といった取り決めがあるが、本稿で焦点になるのは上記3項である。
 ……なんの問題もないじゃないか、と思うだろうか? 判断を下す前に言葉の定義を確認して欲しい。

第2条(定義)

 上の3項で、3つのキーワードが出てきた。
 ユーザがアップロードする『送信データ』、システムから返ってくる『当社提供コンテンツ』と『AI出力物』。それぞれ、以下の通りである。

6. 送信データ
登録ユーザーが、本サービスを通じて入力し又は送信する情報(画像データ、画像AI生成用入力データその他のデータを含みますがこれに限られません。)をいいます。
7. 当社提供コンテンツ
登録ユーザーが本サービスを通じて取得した情報の一切(画像データその他のデータを含みますがこれに限られません。)をいいます。
8. AI出力物
当社提供コンテンツのうち、AIが自動的に出力した画像データその他当社が別途定める情報をいいます。

同上

なにがマズいのか

 A氏がmimicに、自身のイラストをアップロードしたとする。

  • 他人のイラストではないので誰かの著作権を侵害することはない。

  • 送信したデータの著作権が運営会社に奪われることもない(12条8項)。

  • 『AI出力物』の知的財産権もA氏に帰属する(12条2項)。

 一見すると問題ないように見える。しかしそれは、画像下側の出力物の話。問題は右上である

アップロードする→AIが学習する→AIが出力する……?

 A氏がアップロードした画像によって、mimicのシステム(AI)が特徴を学習する。それを基に、運営会社が勝手にA氏のイラストを模した画像を出力したとして、それはA氏のもの――ではないのだ。利用規約を逐条的に読めば。
 つまり、その学習データを基にしてA氏風のイラストを作り、A氏に断りなく利用することが、運営会社にはできる(やるかどうかではない。できる上に、規約でも認められていることが問題)。

なんでよ?

 肝になるのは2条7項と8項。再掲する。

7. 当社提供コンテンツ
登録ユーザーが本サービスを通じて取得した情報の一切(画像データその他のデータを含みますがこれに限られません。)をいいます。
8. AI出力物
当社提供コンテンツのうち、AIが自動的に出力した画像データその他当社が別途定める情報をいいます。

同上

 『当社提供コンテンツ』に含まれるのは、ユーザが取得した情報だけである。ユーザが受け取っていない、つまり学習データなどは含まれない。
 そして『AI出力物』の範囲は『当社提供コンテンツのうち』――つまりユーザが取得したものだけを指す。運営会社がユーザの知らないところで学習データを使ってイラストを生成しても、それは『AI出力物』では、ない
 12条2項が定めているのは『AI出力物の知的財産権はユーザに帰属する』なので、『AI出力物ではないもの』まで定めてはいない。

 仮に(あくまで仮に)RADIUS5は悪意をもってこのような罠を仕掛けたのだと、悪用する気マンマンだと仮定しよう。
 個人的な常識観でいえば吐き気を催す邪悪であって、いくらユーザが同意したからとて、司法は許さない……と思いたいが。実際のところは分からない。学習データの権利帰属、そこから出力されるものの権利、法制はされておらず判例も乏しい(無い?)。
 楽観はできないと考える。

どうしよ?

 筆者であればこんな規約には同意しない。
 既に同意してしまったなら消せる限りのデータを消して退会する。そして次からはもっとちゃんと規約を読むだろう。

 ……本件に関しては、どうしようもない可能性もあるが。

(17条-5.)
当社は、送信データをはじめとする登録ユーザーから送信される情報等について、管理、保存する義務を負いません。

同上

 管理する義務がないということは、削除要請に応じる義務もないということだ。
 というか、学習元のデータ群があって、そこから深層学習により抽出された学習データが既にできている状態で、特定の元データから得た学習結果だけを引き算するなんてことは……技術的にできないのでは……? できる……?

 等々、あまりに穴だらけであるので、何がどうなっても構わないという人以外には利用をお勧めしない
 また運営会社は、悪意が無いのなら直ちに規約を糺すことをお勧めする。

以上


いいなと思ったら応援しよう!

小奥(こーく)
Twitterだと書ききれないことを書く