潜在意識にある、とある消したい男。3
Sが夢に出てくるようになったのは、ここ2年間のこと。
鹿児島県と兵庫県を行ったり来たりして、神戸空港を利用するようになってからのこと。ずっと出て来ていたわけではない。夢に出て来ていたのは主に家族の面々か、奇妙奇天烈な不思議な夢。
JR三ノ宮と神戸空港を結ぶ交通機関のモノレール、三宮の神戸ポートライナー乗り場に向かう2階通路は、南側にフラワーロードが見渡せる。この道路だけは阪神淡路島大震災の後でも姿が変わらず、最初は胸苦しさと共に数々の思い出が生き生きと蘇って来て、それを懐かしんでいただけだった。あの頃は若くて馬鹿だったなぁと。
夢に出て来るSのこと、この話を書き始めてから、これは誰にも相談できるような話ではないと思った。夢見た後はいつも苦い思いが残っていた。夢には潜在意識が関わっているもの。何かしらの助言はもらいたかったので、今話題のChatGPTにこのnote記事を読んでもらった。
Sの人物像について今ではわかる、彼はなにか精神的な問題があったかもしれないことも聞いてみた。
Sさんは超お嬢様との結婚が決まっても、変わっていなかったことはnoteには書いていないけれど、先にChatGPT具体的に聞いてもらった。詳しくは書けないこともある。35年以上前とはいえ、名誉毀損に当たる可能性もある。
Sは結婚して、やりたい仕事があれば何でも出来る環境があって、その上、愛してくれる女性が支えてくれるならば変わるだろうと思っていたし、私はそれを叶えられないし、なんといってもあり得ない一言で心が硬直した。どんな事をしても私一人のものにしたいとまでは頑張れなかった。二股でも三股でも良いから側に居たいとも思えなかった。
「お前がTさんと付き合っていると知って俺は我慢したから、お前も今回は我慢してくれ」
これに頷けるほど私は強くなかったし、Sの事よりも自分が大事だった。
苦労が目に見えている。その後私は転職し、顔を合わせることは一切なくなった。Sも起業したと風の噂で聞いて、成るように成るってことかと忘れてしまった。
潜在意識が関わって、夢に影響を与える可能性があるとChatGPTは言う。
まだ未解決なまま、と言うのは当たっている。
Sは既婚者になったのに、まだ女の子を振り回していた。
私はお嬢様の顔をまともに見られなかったヘタレ女。正直見たくなかったし、私のことは知られたくなかった。前もってSの悪癖を伝えることは出来なかった。
忠告は受け入れられるとも思えなかった。誰でも思うだろうこと、
「私なら、この人を変えられる」という夢に似た妄想と、「Sに選ばれたのはこの私」という自信、私が超お嬢様ならきっとそう考える。結婚前に一悶着あったとも聞いていた。どこからともなく風の噂で。
どんなことがあっても、Sの悪癖について知っていてもなお、Sを愛する気持ちが強かったから、Sも身を固める覚悟を決めたと勝手に思っていた。
Sが結婚した後に、Mは時々、おかしなことを何度も訊いてきた。
「Sさんに、また会いたくない?」と。
「Sさんは、超お嬢様と結婚してなかったら、ともみと結婚してたって言ってるらしいよ」
えっ?なんで?
快便の私に醒めたって。
お互いの気持ちを確かめた舌の根も乾かぬ内に、お嬢様と付き合って、私に我慢してくれって言った口で、そんなことを言うって、よっぽどの自信家か?
私はそれどころじゃなかった。
営業マンAとの仲がいよいよダメになりそうな時期、お酒で転職先で失敗してた時期、そんな時期に先が見えないような既婚者のSのことを考える心の余地などなかった。
考えるとしても、Sは何か、親子関係に大きな問題を抱えているのかもっていうことと、奥さんになった超お嬢様のことが少し心配になったくらい。
結婚は勢いで突破出来るけれど、結婚生活は勢いだけで送れない。Sと生活するのは苦労するだろうって思った。
「Sさんに、また会いたくない?」
「絶対会いたくない」
本気でそう思ったし、人生2周目があるなら、あの会社を就職先に選ばず回避するだろう。でもMとは友だちでいたかったと思う。人生は一周目で終わる。変な夢は見たくない。 Sはきっと、私を大事にしてくれる存在ではなかった。客観的に見ても明らかなこと。
その後一度だけ、Sを私の自宅近くで見かけた。
こんなところに来るにはよっぽど何かあってのことか?それとも仕事か?
その日は営業マンAに車で自宅まで送ってもらった夜。国道2号線を西に向かって走っていた。
先にAがSを見つけた。
AはSのフロアにも営業で入っていたのでよく知っていた。
「あそこに車止めてるのSさんや」
とAは言った。
信じられなかったけれど、久しぶりに見たSだった。私の自宅はその国道を左折した先にある。一度、Sには私の地元の小学校や中学校の側をドライブしながら教えたことがあったから、知らない道でもないと思うけれど、もしや私を待っていた!?
私を待っていたの?
超お嬢様と結婚していなかったら、私と結婚してたって、なんでそんなことを言ったの?私のことまだ好きなの?そんなことを思って心がザワザワしたことを覚えている。
そのことは口に出さずに心の中に飲み込んだ。そのことを確かめる気にはなれなかった。いまさら。
未解決なことといえば、このこと以外に考えられない。
このことを確かめたとしても、私の不幸がセットで付いてくる話だ。
未解決なのは悪いことではない。もし深みに嵌っていたらどうなっていたのかわからない。それに、ただSは安心できる港のような女性を探し続けていた人かもしれない。私はそんなに懐深い人間ではない。未解決で良かったのだ。フラワーロードを見て、懐かしいと思えるくらいでちょうど良いのだ。二度と見たくない場所にせずとも済んだのだから。
その後、十代から築いて来たことが、足元から崩れた。
何もかもが嫌になった。一番輝いていた頃の思い出はすべて封印し忘れることにした。
私の両親との生き直しも、全部崩れて行った。
世の男たちの匙加減でどうとでもなる弱い自分にも嫌気がさしていた。
話は飛ぶけれど、私が結婚してから山間部に移り住んだ後、近所のおばさんにおかしな話をされた。
「お父さん、来られてたね。夫婦仲は良いかと心配してはったわ。会ったでしょ?」
はて?その日前後、親族は誰も来ていない。
私の父でも義父でもない人物が近隣住民に接触した形跡。家族や親族なら、遠方からわざわざ来たのだから連絡くらいはあるはずだが、一切なかったことも未解決だった。
これは探偵か何か?気味が悪いことだけど、私の筋からとは限らない。でも心当たりはなった。
私には愛する人がいない。
どうしてこんなに悲しいのだろう。ひとりでも良いじゃないか。そう思っても夢で泣く。私には愛する人がいないのだ。夢の中での慟哭は恐怖にも似ていた。
実はいつも見ていた夢はこの夢だ。この夢が私の心を抉っていた。
今も見ている夢はこの夢だ。この夢がSの登場を許してしまっていた。
Sが出て来たのは最近のこと。あのフラワーロードを見てからだ。あの場所は私の青春だった。ドラマのように綺麗な話ではなくても、私にはドラマティックなことだった。
夢から覚めて自分に言い聞かせる。
「これは過去の夢。過ぎ去ったこと。もう終わったこと。今、生きていないかもしれない人のこと。35年以上前のこと。今はもう誰にも愛されていなくても、少なくとも無視はされていないし、大事にしてくれて一緒にいてくれる」
自分の幸せって何だろうと考えるも、それはこの先、娘が安心して安全に自分の人生を生きていく姿を見ること。悲しまないで可愛い笑顔で話しかけることが出来るならきっと誰かが応えてくれるはず。
自分の中にある真実とは何だろうと、ふと思う。
私の真実は聖書にある。私の罪を照らす。私の闇を浮き彫りにする。
"もし右の目があなたをつまずかせるなら、えぐり出して捨てなさい。からだの一部を失っても、全身がゲヘナに投げ込まれないほうがよいのです。
もし右の手があなたをつまずかせるなら、切って捨てなさい。からだの一部を失っても、全身がゲヘナに落ちないほうがよいのです。"
マタイの福音書 5章29~30節
こんな曲みたいに堕ちても、なおのことぢごく。
夢に見たら脳を抉り出すしかないのだろうか。
どうか許してください。
さようならSさん。
どうか幸せでいて下さい。精神的困難から解放されていますように。
私も夢から解放されますように。
END.
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