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なんでみんなレコードの音が好きなのか?

ずっと前からぼんやり考えているのだけれど、レコードほかアナログ媒体の音質が好まれる要因には、周波数空間で見えるスペクトル特性とは別に、「リスニング体験の複製不可能性」とでも言える性質がデジタル媒体よりも強いということがあるのではないか。

アナログ媒体の音質はよく「温かみのある音」と言われるのだけど個人的にはその表現は思考停止ワードだと感じてあまり好きではない。もっと根本的な、音質という枠の外の要素が異なっているのではないかと考えたくなる。

音声を記録していくらでも複製できる時代にあっても、それを鑑賞する体験はそのときの自分の体調とか、周囲の人とか、再生機材の構成とか、室温・湿度とか、さまざまな環境要因に影響されて変化する。レコードなら、室温・湿度によってターンテーブルの回転速度や針圧に微細な揺れが出る。理想的な複製にとってはそれらは排除されるべきものなんだけど、聴く側としてはそういった微妙な差異をむしろ期待して針を落としているところもある(デジタルでもDAコンバーターがこの部分を担ってはいるんだけど程度問題としてね)。

ここでさらに仮説として、慣れ親しんだものの中で知覚できる限界ぎりぎりの小さな変化に気づく、ということ自体が人間にとって気持ち良いことなのではないかと考える。毎日行くコーヒー屋が豆の配分を少し変えたとか、友達が前髪を少し切ったとか、音楽よりももっと一般的なこととして。だとすれば再生するたびに毎回微妙に違う音が出るというアナログ媒体の特性は、小さな変化に気づきたい人間の性質と相性が良いということなのかもしれない。

ここにさらに「モノとして所有している感覚」とかの問題が加わってくるけどそれはまた別の話。

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