田尻のケツ割れ日記 2022年10月1日~31日
10月1日「いらっしゃいませ」
長くやってたせいか、たまにコンビニバイトのことを思い出してしまう。
アレは本当に苦手だった(主に夜勤)。商品陳列に清掃やら、作業がやたらと多いため、レジを訪れるお客は、罰走を与えてくるコーチだと認識してしまい、嫌過ぎて「いらっしゃいませ」と上手く言えない、身体の拒否反応まで出てしまった(適当に「せぇ~…」と語尾だけ発音していた)。
ある日、酔っ払ったおじさんが店内の床で寝てしまい、私は面倒だったので放置。確実に三時間以上は寝ていたと思う。
朝、出勤してきた社員が警察に通報。三時間寝太郎を起こすと、機嫌を損ねたのか、急に店の中をダッシュでグルグルと周回し始め、商品をバタバタに地面へ落としながら、「おまえら全員、うんこだーッ!!」と伸びやかなボイスで周囲に悪態を吐き続けた。
お巡りさんが追いかけ続け、しまいには、
「うんこでいいから止まれーッ…!!」
と大便扱いを許容し始めていた。
寝起きにも関わらず、元気に走り回ってたその人は、店をやっていたのか、黒いエプロンをしており、胸の部分には、
「いらっしゃいませ」
入店の挨拶が益々、苦手になった。
確か堂々と店の名前もプリントされてたのだが、いくら検索しても見つからない店名だった。大塚に巣食う悪霊だった可能性もアリ。
10月2日「私はロボットではありません」
愚問…!!
10月3日「ウソ野球少年」
子供のころはよく東京ドームに野球を見にいっていた。
今思えば野球が好きだったというより、ユニフォームの色が好きだったのだ。特に鮮やかな色で染上げられた、帽子の色が素敵だった。
どのチームにもそれぞれの特色があり、そしていってみれば帽子さえ被ってれば、選手はもう誰でも良かった。
小学校の作文で、将来の夢=プロ野球選手と書いてたのは、考えるのが面倒なための完全な大嘘であり、イニング間に外野手とキャッチボールする控え選手くらいならどうにかやりがいを見い出せそうだな、くらいのモチベーションであった。
ある日、私は気がついた。グッズ売り場ならば帽子が至近距離でいくらでも見放題。遠くで小さく動いてる選手を追うより全然、良い。
それ以降、私は特に好きだった中日の青と大洋の藍色を球場のグッズ売り場に行っては、小一時間は眺めていた。すると私の様子を見た老紳士が、
「君は毎日、ココで帽子だけ見ているね。私が大洋ホエールズのキャップを買ってあげよう」
なんとルイ・アームストロングのトランペットエピソードのごとく、私は老紳士の援助で大洋の帽子をゲットしてしまった。
野球ファンでも大洋ファンでもなく、ただの帽子のファンだったので、その後、美談にできなくて本当に残念ッ…!!
10月4日「三島由紀夫vs東大全共闘~50年目の真実~」
50年前のひろゆきみたいな人を迎え撃つ三島。
「私は暴力を否定したことは一度もないが、ルール上で認められた暴力は嫌いなんであります」等、独自性の強いルールの集合体、三島に論破はまるで無意味。相手の攻撃札はすべて無効化されてしまうぞ!! イデオロギーの対立する者同士でも、煙草を分け合うシーンが美しい。
10月5日「町内会の必要性」
マンションの持ち回りで今年度は、ウチが管理人になってるらしい。
管理費と一緒に町会費を管理人が各家庭から徴収するルールなのだが、201の住人が町会費の支払いを拒否している。
町会に入る意思がないことを堂々と告げられたのだが、町会がどういうモノなのか私自身が今イチ理解していない。
●町会との断絶を選ぶことのデメリット●
1.会報が届かなくなる
2.イベントに参加できない
むしろ良いことずくめのように思えてしまう。
会報の~~町会便りは読んだことがなく、もしかしたら愉快なコラムが掲載されてたりするのかもしれないが、現状では資源回収日に紐で縛るときのちょっとしたおじゃまプヨのような存在であり、イベントに参加できない…いや元々、してないし、する予定もない。
神輿とか担がされた日には、ドラクエに出てくる毒の沼と白骨しかない村になることを脳内で望んでしまいそうだ。
しかし、最も重要なのは3つ目だった。
3.ゴミ収集所は町内会で管理されており、町会費未払い者の使用権を巡って、裁判になった事例がある
ゴミが捨てられない。詰んでる…それはすなわち死である。
家庭用の水プラズマ装置が開発され、自宅でゴミを無と化すことが可能ならば、もしかしたら町内会を無視したライフが送れるかもしれないが、今現在は困難だと言わざるを得ない。
そこまで考えが至ってるかは不明だが、201の住人はそれでも町会費の納付を拒み続け、物を置いてはいけないルールのエントランスに自転車を駐輪したことで、「あいつにはもう挨拶しないッ!!」と親父が超キレてた。
10月6日「近代野球じゃない2番打者」
半農半芸芸人、松尾アトム前派出所さんが主催の『2番セカンド寄席』
(2番セカンドっぽい芸人を集めたライブ)に出させていただいた。
四半世紀振りくらいで思い出したが、私自身が小4で初めてリトルリーグの試合に出たとき、そして以降、レギュラー落ちするまでずっと本当に2番セカンドだった。
1番を売っていた三苫君が小学生レベルではイチロー並に出塁率が高く、そのころの私はほぼバントのサインしか出されず、リトルリーグ生活で送りバント成功率が10割だった。
人生の序盤にいぶし銀の称号を与えられた人間は、その後の人生がほとんど決定付けられたようなモノだろう。
唯一放ったヒットは、良いバントを決め過ぎて、ファールになるかならないかギリギリのところで、一塁ライン上にピタリとボールを止めてしまい、グラブを引っ込めて見送った相手のファーストが、
「うわぁ…球状物の推進力と慣性の法則、それから地球の重力なんか大嫌いだーッ…死ね死ねーッ…!!」
と絶望の淵に沈んだ、あの一打だけである。
バントしかしちゃいけないルールの新野球があれば、またやりたい。
10月7日「絶滅」
超久々に大川興業ほぼフルメンバーでどこかのお祭りの営業が予定されているらしい。“ほぼ”とつく理由は私どもが一切、声がけすらされてないからだ。世間一般から見ればどこでどういう活動をしてるのか謎であり、芸能界からハブられている(ように見える)大川興業からハブられているウチのコンビは、かなり希少な絶滅危惧種と呼べるだろう。
そして昨日はバイト先の会社で外注スタッフまでを含めた慰労会が開かれたそうだが、正規在籍者なハズの私には一切、声がかからなかった。
コチラは本当に忘れられていた可能性が高い。
前者に関してはある一件で「そういうことをすると嫌われますよ」という旨を、相手の面子を傷つけぬ形で懇切丁寧に説明を重ねながら、コチラにとっていかにメリットの無い提案がなされているかを説いたところ、逆にコッチが完全に嫌われてしまったらしい。
でも本を読んだり、ひとりで自分と向き合う時間が増えて、最近は素直に楽しい。「時間無ぇぞ!!」と凄む人に限って時間泥棒なのは、本当に困る。
10月8日「お笑いの日」
以前から気になっていた、渋谷のマッサージ店とか入ってそうな雑居ビルの一室にある『古代エジプト美術館』を見に行った。
暗室をペンライト片手に巡りながら、ミイラとか遺跡とか鑑賞できて楽しい。受付で「今日はお笑い芸人さんが占いをやってますので、よかったら…」と言われ、誰か知り合いかなーと思いながら入口のカーテンを潜ると、真正面に馬鹿よ貴方はの平井“ファラオ”光さんがいた。
「何やってるんですか…?」
とお互いの疑問をぶつけ合った後(仕事の無い土日【開館日が土日のみ】はいつもいらっしゃるそう)、
「良かったら、全体運でも仕事運でも恋愛運でも何でも…」
と言ってくださり、同業者に仕事運を尋ねるのも気を遣わせるかと思い、恋愛運についてお願いしたところ、あの鉄仮面の平井ファラオさんが一瞬だけちょっと笑っていた。普段、ほぼ口を聞いたことのない同業者の恋愛運を占うという状況がやや、ツボに入ったらしい。
占い以外にもエジプトについて軽く説明してくださり、
「今世で良い行いをした人は、シャブティー(小さい木彫りのツタンカーメンみたいの)を墓へ一緒に埋葬され、シャブティーはあの世での奴隷として働いてくれます」
―エジプトの幸せ観―
天国に渡ってまで奴隷を持ってるかそうでないかがベース。
10月9日「保護猫カフェ」
保護猫カフェに行った。
様々な事情で飼い主の手を離れたり、大都会の劣悪な環境下で暮らしていた猫等が保護された施設で、普通の猫カフェのようにニャンニャン寄ってきたりはしませんよーと訊いてたのだが、この保護猫たちが妙に私に懐いてきた。施設の人も初めは「いや~、珍しい。猫ちゃんに好かれるんですねー」という程度の感想だったが、主に路上生活していた保護猫があまりにも擦り寄ってくるので、
「こんな人は今まで初めてです」
と妙なところで記録を塗り替えた。別に猫は飼わないけど。
10月10日「ゴミの棲み分け」
窓枠取付け式の冷房が壊れた。正確には冷たい風は出てるのだが、地響きのような凄まじい異音が止まず、うっかりスイッチを切り忘れて外出したときには、家の十メートルほど先でも地響き音が聞こえ、二十四時間工事中の家みたいになってたので、捨てることにした。
リサイクルセンターに電話すると大変、混み合っているそうで回収は一ヵ月先になるとのこと。本体はコンパクトなので部屋の隅に小さく置いておけたが、固定用のスチール枠が大きくベランダの柵に立てかけておいた。
すると狭いベランダで洗濯機を使用する度、スチール枠の下部を踏んでしまい、起き上がりこぼしのように先端部分が私の顔面を強打するようになった。私が持ち前の適応能力でスチール枠の下部を踏んだ瞬間、顔面をガード出来るようになった一ヵ月後の今日、ついにリサイクル回収がやってきた。
「私たちは本体だけの回収なので、スチール枠は粗大ごみとして出してください」
スチール枠はもう一ヵ月、わが家に残されることになった。
キン肉マンのプリンスカメハメの特訓(夕陽をバックに木枠みたいのをハワイアンからひたすらぶつけられ、必死にガードする練習)みたいのが継続され、私の防御力がもう少しアップしそうである。そして同居中の父が、
「バラバラにして透明にすれば不燃ごみにして出せるんじゃないか」
と冷たい熱帯魚(ベースが確か愛犬家殺人)のでんでんみたいなセリフを言い出して、少し怖かった。
10月11日「イギリス発祥」
おはじきサッカーのインストラクターとしてネット番組に出演するという話があった。おはじきサッカー歴はかれこれ六~七年。とはいっても近ごろは大会にも練習会にもほとんど参加せず、日本ランキングが七十位にまで後退し(全日本競技人口が七十人)、しかも前日まで台本や段取りはおろか、収録先のスタジオの住所すら送られず、正直、不安でしかなかった。
すると収録前日の今日、とっくに出演の話自体が流れ、連絡ミスで何も伝わっていなかったことが判明。間を取り持ってくれていたおはじきサッカー協会会長・鴻井建三さんがとても申し訳なさそうにする隙を突くように、演劇のチケットを売りつけてしまったが、別に鴻井さんはひとつも悪くない。
取り合えずイギリス発祥スポーツのおはじきサッカーにちなみ、購入していたエリザベス女王のTシャツだけは着る機会がなくなった。
10月12日「ニュータイプ」
マックのモバイルオーダー利用時の万能感が半端ない。列で何人もの順番を待ち、こまごまとした文字のメニューを眺めて注文する人々を尻目に、ごぼう抜きで商品を手にする爽快感は、ある種、麻薬的ですらある。
まだ試していないがもうひとつ気になっているのは、東京ドーム入場口でのフェイススルーというシステム。
一般の入場者が列に並び、チケット確認の後に手荷物検査等を受ける真横からまるで貴族待遇のごとく、サイトで顔認証を済ませた会員は文字通り、スルー出来るそうだ。今シーズンの日程はほぼ終了してしまったが、来期は試そうとジャイアンツのサイトに登録し、特にファンでもないチームのお得な情報を毎日、受取っている。来季が待ち遠しい。野球観戦するよりも早くスルーを経験したい欲望を抑え切れない。
長々と列を作る人たちの一歩先を行き、特権的な順路を確保する様はまるで、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』でニュータイプのみのユートピアを構築しようと地球に隕石をぶつけようとするシャア・アズナブルの思想を思わせ(またはオウム)、ちょっぴり危険な匂いもする。
何事も己を一ランク上に置こうとする行動は、そうしたデンジャラスな側面も併せ持つが、私はただ単に行列が苦手なだけなので、今のところは平気そうである。
10月13日「ラママ・オーディション」
昨日はラママ新人コント大会のオーディションだった。
私たちが参加したブロックは、ネタをする前に「〇〇プロモーションから来ました、〇年目の~~です。コントです。暗転板付きでお願いします!!」と、若手特有の馬鹿丁寧なあいさつから始まる組ばかりだったので、ウチのコンビが最も芸歴が長いようだった。が…しかし、ノーミスでそつなくネタをこなす若手陣の中、芸歴十三~四年の私だけがネタをぶっ飛ばし、二~三十秒はフリーズしていた。
相方のジョニーさんがバットを素振りするところに、私が突っ込みながら途中で止める役どころだったのだが、凍った死体のように行動停止してしまったので延々と素振りが継続され、一万回という回数をサバ読んで誤魔化すネタだったのに、本当に一万回くらいバットを振らせそうで恐ろしかった。
眼精疲労が一因な気もしたので、当面の間、ソシャゲはやめようと思った。
10月14日「総武線車中の欲深さ」
夕方ごろ、電車に乗ったら十割ではないが、それなりに社内が混み合っていた。乗ってくる人たちは大半がスマホから一点も目を離さず、その様子は“私は十七時までやりたくもない仕事を全うしてきたのだから、帰り道は自身の求めるコンテンツを享受する権利がある”とばかり、己の半径ニ十センチ付近をセーフティーゾーンとする強い意志が感じられ、乗り降りするほかの客のために道を開ける気持ちは毛頭、なさそうである。
その様はまるで聖闘士星矢のアンドロメダセイントがチェーンをグルグルと振り回し、「君は僕のチェーンの中には入れないよ」と威嚇するディフェンス行為のようですらある(鎖をぶん回すのは本来、ヤンキーかブルーザー・ブロディの特権だったが、フェミニンな美少年キャラにさせたのは、車田正美の勝利)。
一方、私は十六時まで寝ていたので休養充分で、移動する以外に社内で何かの権利を主張する欲望がほぼ生まれず、ほかの人にとって迷惑をかけないポジショニングが出来ていたように思う。やはり人生には余裕が必要だ。
10月15日「存在感ゼロの弊害」
遠足シーズン。
小学校時代、今はもうなさそうなシステムだが、クラスで電話連絡網のわら半紙が配られ、担任教師の「先生、何回も確認したから大丈夫だと思うけど念のため、自分の名前が入っているか確認するように」という呼びかけを私は、先生ほどの方が何度も確認したのだからマジで大丈夫だろうとスルー。
すると当時から霞のように気配を消せる生徒だった私は、リストから完全に洩れ、連絡網のどこにも名前が載っていなかった。
ある日の遠足の日曜、小雨がパラついていたが、何も連絡がないので早朝にリュックを背負い、やる気バリバリの遠足ルックでおやつは五百円以内のルールを順守しながら学校に向かった。
「うわぁ…キミ、連絡網回らなかったの!? 今日の遠足は中止で学校も休みだよ!!」
私の家にだけ連絡が来ず、学校には用務員しかいなくてお互いにビックリした。おやつは六百万円でも別に良かったのだ。
今でも覚えているのは、学校が無人だったので恐る恐る用務員室の戸を開けると、おじさんが明らかにAVを見ていたことだ。
最近、小学校の同級生、T君が深夜の小学校で警備の仕事をしているそうだが、この前、ヒマ過ぎてAVを見ながら勤務中に五回ヌいたらしい。
今も昔もそういうモノなのだろうか。
10月16日「職質のプロ」
歌舞伎町を相方のジョニーさんと歩いていると驚愕するくらいの頻度で職質に遭う(理由は恐らく金髪、人相、痩せぎす)。ジョニーさんも心得たもので、「道の真ん中だと歩行者の迷惑になりますんで、どちらか端に寄りましょう」と逆にお巡りさんを率先的に誘導している。プロだ。
元プロボクサー芸人の悟志さんは何回も…何百回も職質されているので、遭遇した警官によっては「あぁ…君か。じゃあイイや」と顔パスでスルーされる。こちらももうプロ…というか逆プロを名乗って良い。
私もライブに向かう途中の歌舞伎町で一度、デカイ手荷物を提げているときには職質された。カバンの上から猟銃(おもちゃ)の先端が飛出していて、「本物じゃないよね?」と念のため確認され、カバンの中を開けさせられると、コントで使う衣装の血まみれシャツが出て来た。さらに中を弄ると奥からうんこ(小道具)が出現した。
「えーと…芸人をやってまして、猟奇的な設定のコントでオチにうんこが出てくるネタなんですけど」
納得はしてくれたが、百パーセントは腑に落ちていない様子だった。
最近、読んだ本『結果を出すための攻める検問・職務質問』。警視庁で職質の神と称された警部から薫陶を受け、職務質問技能指導官としてご活躍されたという宇野博幸さんの著書。プロフィールに「警察24時に二回出演した」と書かれていて少しリスペクトが増してしまう。
数々の事案を職務質問で未然に防いできた宇野さんが警察官を志したきっかけは、サンダーバードへの憧れだったらしい。
カクカクしたイギリスの人形劇をこれからは決して馬鹿にしません。
10月17日「区の施設」
ラジオ番組の録音等で区の施設、集会所みたいのを利用している。
防音が利いてるほうが良いと思い、歌の練習という名目で音楽室を借りつつ、ユーチューブのネタ動画を撮ってたら、職員が監視カメラで見てたらしく「歌…唄ってませんでしたよね?」と厳しい眼光で詰められ(音楽室の本分から逸れると怒られる)、仕方なく合唱の時間を取り入れたり、苦労が絶えない。
最近、今まで家から近所だったのに利用したことのなかった、古びた交流館の和室を予約し、初めて受付を訪れたところ、おばあさん職員が私に訝し気な様子で疑問をぶつけてきた。
今度は何を問題視されるのかと一瞬、身構えたが、
「牛越さん、区の在住者は半額でご利用いただけるのに、今までずっと正規の金額を支払われてますよね? 何か理由でもおありなんですか?」
そんなモノあるはずがない。ほかの施設職員は私を問い詰めることに必死で、そんなこちらの利益になる情報は一切、教えてくれなかったのだ。
区内の在住者である証明書に一筆、サインを入れてさえいれば、ここ数年利用していた代金はすべて半額で済んでいたらしい。
それでもスタジオとか借りるより格段に安いのだが。
「おかしいと思ったんですよね…半額で済むのにこの方はどうしてわざわざ倍額を払ってるんだろうって。何か理由がおありで大きなお世話かもしれないと思ったんですが、訊いてみて良かったです」
他人に干渉しないギリギリのラインを保ちつつ、親切にしてくれたこの感じが凄くイイ。利用中も放っておいてくれて、良い意味で無関心な対応をしてくれるのがとても心地良い。
帰り際、終了を伝えるとクロスワードパズルを中断し、出口まで見送りに来てくれるのも素晴らしい。
10月18日「ビッグスマイル」
ひょんなことから芝居に出演することとなり、稽古に参加してるのだが、いろいろと新鮮だ。出演者が「演出家、このときの○○の感情は…?」など、リハーサルの流れを止めてでも思った疑問を口にする。
台本の意図を理解しようがしまいが、皆がまるで呪文のようにセリフを記憶し、淡々と遂行する大川興業本公演とは雲泥の差だ。
そして一ヵ所質問タイムが加わると、主催者兼演出家兼舞台監督がひとりなのですべての流れがストップし、三時に集合していた私とキックボクサーの方とダンサーの方は、七時くらいまでからあげを食べる以外、何もしなかった。
逐一、疑問を差し挟む人に対し(確かに台本もざっくりなので必然性はアリ)、この人よく止めるなぁと思ってたのだが、
「牛越さん、さっきの芝居、良かったですね」
と超素敵な笑顔でお褒めの言葉を頂くと、
「なんて…素晴らしい人なんだ」
私は一発で心を持っていかれてしまうのだった。プロの役者スゲーな。
10月19日「診察の待ち時間・持ち時間」
五~六年通院している病院がある。
予約時間通り受付を済ませ、待合室から診察に呼ばれるまで、長いときには二時間半程度を要することがあるのだが、
「牛越さん、何かありましたか?」「ないです」
「ハイ、では、いつも通りお薬お出ししますね」「ありがとうございます」
以上。
でも薬は貰わないとヤバイので、診察いらないので薬だけ頂けませんか?と一度、頼んだが、それは駄目だと言われた。
待機している人数と時間配分から察するに、恐らくひとり当たりの持ち時間を十五分ほどで計算してると思われる。だが時間が過ぎたからといって、アイドル握手会のごとく、鈴を鳴らして終了を告げるというわけにはいかないので、問題を抱えてる患者の診察時間は伸び伸びとなり、逆に私のような軽度の患者は急激に巻かれる傾向にある。
よく薬出してハイ終わりの医者は悪徳医師として蔑まれるが、互いに望まない挨拶儀式も不毛なので、適度なバランスが求められる。
10月20日「コンビニの付け忘れ 箸編」
今はもうやってないのにツラ過ぎたためか、今でもたまに深夜のコンビニバイトのことを思い出してしまう。
ある日、ワンオペの夜勤に入って即、電話が鳴った。
「弁当に箸が付いてなかったぞぉぉ~ッ…!!!!」
どうやら前の夕勤帯でお弁当をお買い上げくださったお客様(声を聞いただけで強面)に、クルーが箸を付け忘れたらしい。
電話口でペコペコしながらひとり勤務なので、たまにレジ打ちに戻るとさらに激怒され、強面客は私に箸を持ってくるように主張。
「お…お客様、今、どちらにおられますか?」「家だーッ!!」
家に箸が無い人の弁当に箸を付け忘れたのは、痛恨の極みである。
ワンオペなので不可能な旨を伝え、誠に恐縮ですが付近のコンビニで事情を話せばくれるはずですと促すと数分後、
「オイッ…家の前のコンビニに行ったけどくれなかったぞーッ!!」
なんで箸一本あげられないんだよ…。どんな頼み方をしたか知らないが。
「今からおまえの店に行くぞーッ…!!」
数十分後、ガラス戸が蹴られ、エンセン井上風の男がやってきた。
ほかは忘れてもコイツにだけは忘れないでッ…!!
つづく
10月21日「コンビニの付け忘れ ソース編」
「おぉぉ~いッ…お好み焼きにソースが付いていなかったぞぉぉ~ッ…!!」
数日前のコンビニバイト中、箸を付け忘れたお客にカチコミを食らった際、
「次やったらさらっちゃうヨ…」
と「殺すぞ」より具体性を帯びた恫喝をされ、また同じ人から怒りのお電話が届いた。温めの際にソース等の付属品は一度、取り外すのだが、レンジの扉に貼り付いたまま。どうやらまた夕勤帯のクルーが付け忘れてしまったらしい。
「お…お客様、今、どちらにおられますか?」「家だーッ!!」
この人は家に箸が無いのでソースだって無いだろう。
逆に何がある家なのか気になってしまった。
「お客様、お好み焼き自体にも味が付いておりますので、ソースは無くとも充分に美味しく頂くことが可能かと…」
私が余計な提案をすると数分後、
「全然、美味くねぇじゃねぇかぁぁッ…お前の店、行くからなぁぁ~ッ!!」
数十分後、またガラス戸が蹴られ、エンセン井上風の男の髪が、ピンクのモヒカンになっており、二十パーセントくらいパワーアップしていた。
私が土下座する勢いでソースの子袋が無数に入ったトレイごと差し出すと、エンセンは力士にとっての塩のごとく、豪快に引っ掴み、
「次やったら埋めちゃうヨ…」
やっぱり「殺すぞ」以上の具体味が恐ろしいのであった。
10月22日「がんばれドカベン」
YouTubeの配信作業をしていたら東映のチャンネルが『実写版ドカベン』生配信中との通知が入り、手を止めて見入ってしまった。
本編八十五分程度なのに柔道編において、岩鬼が影丸戦で親同士のパワーバランスに苦悩したり、山田が怪我をした相手に合わせた手抜き疑惑をかけられ、生徒会権限で柔道部をクビ&全部活から追放されたり(生徒会に権限持たせ過ぎ)、回想かもしくは全カットでも構わないエピソードをじっくり描写した結果、案の定、山田が野球部に入るまでで七十分以上を浪費。
ここでようやく、酔いどれ監督役の作者、水島新司が草野球仕込みの見事なノックを披露したり、三十八歳くらいに見える殿馬役の川谷拓三が登場。主要メンバーたちが集結し、期待を持たせたところで…“完”!!
恐らく続編で里中とかが登場する予定だったんだろうが、大コケした結果、地味なアンコ型少年の柔道作品として終ってしまうという、人は出し惜しみをせず、常に全力を発揮すべきという教訓のような映画であった。
10月23日「卓球部OB」
母校の卓球部が全国大会に出場したらしい。
当時、私も在籍していた卓球部のメンバーは負けるとラケットを投げたり、そして買ってもラケットを投げるのでテニスのマッケンロー選手よりタチが悪く、ほかにも北朝鮮から亡命してきた女子がいたり(修学旅行の朝食で出たサクランボにカルチャーショックを受けていて、そのときは奇異に映ったが今思うと、だろうなと納得)、かなり楽しかった。
ちなみに私は練習もせず、なぜか廊下でバーベルを上げてた美術の先生をずっと応援していた。とても感慨深いな。
10月24日「手持ちカードの枚数」
財布のカードを入れるスペースがパンパンで中には、潰れたレンタルビデオ屋の会員証、一回だけ行ったマッサージ店のポイントカード、院長が引退して閉院した病院の診察券等、ほぼ使用不可の雑魚カードばかりなことが判明し、大半を引っこ抜いた。お財布の中の小さなコンマリが良い仕事をしたとおもったが、コレが裏目に。
近所のまいばすで買い物中、会計時に財布を開くとスカスカのカードポケットから免許証とクレジットカードが床にこぼれ落ち、そのままエアホッケーのような滑り込み方でスーッと、商品棚の下の微小な隙間に消えていった。
すぐに身体を伏せ、狭い空洞に指を突っ込んで救出し、流れを止めずに会計を済ませられたのは、我ながらなかなかの対処能力を発揮したと思った。
家に帰り、何枚か要らないカードを手札に戻した。
10月25日「灼熱&少林おはじきサッカー」
来月、出演する舞台の準備が佳境を迎えてきた。
製作総指揮の佐藤さんにおはじきサッカー協会の会長さんがチケット予約してくださった旨を伝えると、ぜひ挨拶したいと言って喜んでいただけた。
「おはじきサッカーって面白い映像が撮れると思うんですよ。十分くらいの短編映画とか…灼熱カバディ+少林サッカーみたいなモノでゆうばりに…」
以上はラインのメッセージ。その数分後、
「完全に現実逃避ですね…目の前の舞台からの(笑)」
知ってた。
10月26日「孤独じゃないグルメ」
ふと入った定食屋でとんかつ定食を注文。ものすごくソースが入ってそうに見える容器があったので使ったら、店主から声をかけられ、
「お兄さん、それ醤油でソースは隣。そういう通な食べ方する人?」
「いえ、間違えました」
「でも、その肉は醤油をかけても美味しいと思うよ」
「はい、何もかけなくても美味しかったです。安くてありがたいし」
「この値段はね安い仕入れ値を見つけて、まとめて仕入れないとできないんだよ。遠いときには…そう、新座まで仕入れに出て、帰りはバイクでユラユラしながらね…」
と、知らないおじさんと自分史上稀に見るほどの会話ラリーが続き、かなり楽しかった。
そして帰り道、近くにあった『たかちゃんラーメン』が潰れてイタリアンレストランに様変わりし、かなり繁盛していた。恐らくこの人がたかちゃんなんだろうなと思しかった店主の顔を想起するといたたまれないが、たかちゃんがイタリアンシェフに転身して包丁を振るってたら、それはそれで嫌だと思う。
10月27日「お笑いライブの入り時間」
お笑いライブはハードで体力を消耗する。といっても出番自体の話ではなく、待ち時間が異常なくらいに長いのだ。音楽だったら開場前にPAなどの打ち合わせがあり、恐らくその辺を基準に決めてるのだろうが、開演の二時間も前に会場へ入り、せいぜいやることはコントか漫才なので「明転飛び出し(もしくは暗転板付き)、あいさつ(もしくはセリフ)終わりでお願いいたします」。あとは椅子やマイクの使用有無をひと言伝え、その後は出番までほぼやることはない。
昨日のライブは入りが17時で出番が21時だったのだが、着替えや準備の時間を抜いても約三時間半、そんなに楽屋で雑談するタイプでもなく、大御所でないので数が限られた椅子も取れない私は、渋谷の円山町界隈をただひたすら、ずっとウロウロしていた。
お笑いを始めて十五年あまり、思えばネタをやってる時間より会場の周辺をウロウロしてる時間のが長い気がする。別に仕事がないのに入時間を遅らせる、ウソ売れっ子作戦を実行しようかと真面目に考えている今日この頃。
10月28日「S」
出演する芝居の稽古に連日、参加している。
私はナマの尻に顔をマジックで書いた状態で出演する奇人変人役なのだが、主演の女優さんがしきりに
「牛越さん的にはコレは大丈夫なんですか?」
と、役柄の同意を確認してくれる。
私にとっては普段の持ちネタなので、
「はい」
とこともなげに答え、薄っすら空気感の差による笑いが生まれていたので、私はなんか変だなー…と内心で首を傾げていた。
あとで新聞の取材記事によって知ったのだが、その女優さんは映画監督の榊英雄を告発してるメンバーのうちのひとりだった。
事件の内情はよく知らないが、すごく信頼の持てる人間性だと思った。
10月29日「楽屋の有効な待ち時間」
二日前に書いたお笑いライブの入り時間早過ぎ&楽屋で何もすることがない問題についてだが、原稿執筆作業に当てたら効率的では?と思ったのだが、今、作業が必要なのは九州スポーツの熟女アダルトビデオコラム。
上の句の私と熟女の体験について今月分はすでに書けたのだが、下の句はビデオを鑑賞して紹介するセクション。
さすがに楽屋でノートPCを広げてAVを見てる、しかも日ごろほとんど誰とも雑談を交さない無口芸人…ちょっとヤバさが深まってしまう。
そこで思い立ったのは…VRゴーグルを装着すれば周りからはどんな作品を見てる最中なのかわからないのではないか?
しかし、陰キャ芸人が楽屋でキャプテンアメリカみたいな恰好で、万が一、股間が反応を示してるのがバレたら…やっぱり益々ヤバイのでコレは廃案にせざるを得ないのであった。
10月30日「餅は餅屋、ではなく餅屋は餅だけ作れ」
アントニオ猪木のモノマネを専門にやってる人はその道のプロフェッショナルなのだから、森進一のモノマネをしてる人に猪木関連でマウントを取られたり、ダメ出しされたら、川内康範以上にブチ切れても構わないだろう。
だからその逆もしないで、自分の道を迷わず行ってほしい。