ちざわりん
公認心理師「ちざわりん」です。 母親がエホバの証人という教団の熱心な信者だったこともあり、幼少期から厳しい宗教教育を受けて育ちました。 20歳の時に自分の意思で信仰の世界から離れてからの「生きづらさ」と「回復」について思うところがあり、今回文章化することにしました。
先日『臨床心理学 第24巻第6号 「信じたい」という心理: 心の病から陰謀論まで』が届きました。 冒頭、石垣琢磨の「信じることの心理」(p653-p657)の「Ⅳ まとめに代えてー本特集の目的」の部分で と記されていた。 宗教2世当事者にとって、「宗教発達に関する心理学の現在地」という表現はとても興味深く響いたので、メモ程度に調べて記してみた。 多元的アプローチ: 神経科学と認知科学:近年では、脳科学や認知科学の進歩により、宗教体験や信仰が脳のどの部分に関連しているか
自律と対話:宗教2世の視点から見た、新しい社会の関係性政治と宗教の距離感 私たち宗教2世は、自己形成の過程で、政治と宗教の絡み合いがどれだけ私たちの人生に影響を与えているかを理解しています。歴史を振り返ると、国家が宗教を管理しようとした結果、多くの問題が生じてきました。現在でも、政治家が宗教団体を選挙の票田として利用する現状は、私たちに深い懸念を抱かせます。 自律的な社会を目指して 私たちが望むのは、政治や宗教の枠組みに縛られない社会です。多様な価値観を尊重し、自分の意
性加害と誹謗中傷の深刻な影響近年、性加害に関する話題が社会で広く取り上げられるようになりましたが、その一方で、被害者に対する誹謗中傷も増加しています。性加害の被害者にとって、事件の最中やその後の誹謗中傷は、二次的な苦痛を与えるだけでなく、回復への道のりを一層困難にします。 1次加害と2次加害性加害を受けた人は、直接的な身体的・精神的なダメージを負います(1次加害)。しかし、その後もSNSやメディアを通じて、被害者が加害者と同等またはそれ以上の非難を受ける場合があります。これ
はじめに SNSは私たちの生活の一部となり、情報交換や交流の中心地です。しかし、その影響は公共の福祉にも及んでいます。この記事では、SNSがもたらす可能性と課題を検討し、ネガティブケイパビリティを通じて、SNSの利用者が互いに尊重し合う社会をどのように築けるかを考えます。 公共の福祉とは何か? 公共の福祉は、社会全体が健やかに、安全に、そして各個人が持つ能力を最大限に発揮できる状態を指します。その要素には次のようなものがあります: 経済的安定 - 仕事や教育の機会があ
「人間は何故生きるのか?」 強制収容所という極限状態を生き抜いた心理学者、ヴィクトール・フランクルは、その答えを「意味の追求」に見出しました。彼の言葉は、過酷な環境でも希望を失わなかった人間の精神の強さを私たちに教えてくれます。 このフランクルの思想は、カルト宗教の二世として育った私自身の心に深く響いています。 閉鎖的なコミュニティ、心理操作、虐待…。親の信仰が絶対的な価値観として押し付けられる世界で、カルト宗教2世たちは自由な意思を奪われ、生きづらさを抱えてきました。
私たちは専門職として、日々知識を蓄え、経験を重ね、スキルを磨いています。それは大切な財産であり、プロフェッショナルとしての基盤です。 しかし、時として最も深い支援が生まれるのは、その専門性を一旦脇に置き、一人の人間として向き合えた時なのかもしれません。 これは決して専門性を否定するものではありません。むしろ、確かな専門性があるからこそ、状況に応じてそれを柔軟に扱うことができるのだと考えています。 専門知識という「地図」を持っているからこそ、時にその地図から目を離し、目の
はじめに 子供の頃にカルトな環境に触れることは、個人の人生に深い影響を及ぼします。それはしばしば見えない傷として、人生の様々な場面で現れることがあります。このnoteでは、カルトの影響が子供の心身にどのように影響を与えるのか、またそれが大人になった後にどのように表出するのかについて考察します。 カルトとは何か カルトとは、一般的には社会から孤立した思想や信仰を持ち、しばしば過激な行動や信念を推進する集団を指します。これらの集団は、個人の自由や思考を制限し、外部からの情報
逆境や困難な子供時代を乗り越えた人たちは、特別な「共通言語」を持っています。この言語は、同じ経験を共有する者同士にしか通じない、深い理解と共感の表現です。 共感の場所の必要性 私たちは、この「共通言語」で繋がる仲間と、誰にも邪魔されずに心の底から語り合い、慰め合う場所が必要だと感じています。そういった場所では、言葉にする必要すらない微細な感情や経験が、ただそこにあるだけで理解されます。 理解と共感:互いの過去や現在を理解し、共感しあえる。 安心感:誰にも判断されず、た
はじめに 私たちの生活は、さまざまなデジタルサービスによって豊かになっています。便利で楽しいこれらのサービスは、日常の一部として欠かせないものとなりました。しかし、その一方で、知らず知らずのうちに長時間利用してしまい、自分でも気づかないうちに依存的な状態になることもあります。本記事では、現代のビジネスモデルがどのように依存を生み出すのか、そのメカニズムと社会への影響について考えてみましょう。 依存症とは 依存症とは、特定の行動や物質に対して強い欲求を持ち、コントロールが
全人的医療とネガティブケイパビリティの関係 全人的医療(Holistic Medicine)は、患者の身体だけでなく精神、社会的側面も含めた全体的な健康を目指すアプローチです。この医療観点では、病気を単なる生物学的な問題と見るだけでなく、患者を取り巻く環境や個々の生活背景を考慮します。 ネガティブケイパビリティは、詩人ジョン・キーツが提唱した概念で、答えがなく、不確実性や曖昧さに直面しても、それを受け入れ、行動を起こす能力を指します。現代の医療においては、この能力が重要で
資本主義は、自由な競争と個人の努力が報われるシステムとして理想化されてきました。しかし、その裏側では、成功の物語は単純な能力主義や努力だけで語ることはできず、初期のリソース、教育、社会経済的条件、そして運といった複雑で絡み合った要因によって形成されています。この現実は、「世界は公正で、努力は必ず報われる」という公正世界信念としばしば衝突します。 公正世界信念の光と影 公正世界信念は、多くの人々が社会のルールを信頼し、努力を続けるモチベーションを保つ上で重要です。しかし、こ
近年、宗教的な信仰や慣習が児童虐待と交錯する事例が注目されています。「宗教の信仰等に関係する児童虐待への対応に関するQ&A」は、この複雑な問題に対処するためのガイドラインを提供しようとする試みです。ここでは、その内容を客観的に分析し、議論されているポイントを整理します。 ガイドラインの概要 このQ&Aは、宗教的な背景から生じる可能性のある児童虐待を、どう認識し、どのように対応すべきかを示すためのものです。以下にその主要なポイントを挙げます。 虐待の定義と特定 虐待の拡大解
こんにちは! 今日は「中動態(ちゅうどうたい)」という言葉についてお話しするね。ちょっと難しく聞こえるけど、簡単に説明するよ。 人が何かをするとき、言い方にいくつかの種類があるんだ。 だれかに何かをする(能動態(のうどうたい)) たとえば、「ぼくはボールを投げます。」 ここでは、ぼくがボールに向かって何かをしているね。 だれかに何かをされる(受動態(じゅどうたい)) たとえば、「ボールがぼくに投げられます。」 ここでは、ボールがぼくから何かをされているね。
序論 逆境的小児期体験(Adverse Childhood Experiences, ACEs)は、虐待、ネグレクト、家庭内の 機能不全など、子供時代に経験するストレスの多い出来事を指します。これらの経験が成人後の健康や行動に及ぼす影響は、数多くの研究により裏付けられています。 ACEsと依存症の関係性 生物学的影響: ACEsはストレス応答システムに変化を与え、神経生物学的発達に影響を及ぼします。これにより、依存症のリスクが増加します(Kessler, et al.
中年危機とは何か 中年危機(ミッドライフ・クライシス)は、40代から50代にかけて多くの人が経験する人生の転機を指す。この時期、人は自身のキャリア、健康、家族関係、そして人生の目的に再評価を迫られ、時に大きな心理的ストレスや不安を感じることがあります。これは、自身の老化や死の意識、キャリアのピークを過ぎた実感、子供の独立、親の介護など、複数のライフイベントが重なる時期でもあります。 老年的超越とは 対照的に、老年的超越は、エリク・H・エリクソンの理論を拡張した概念で、老
1. 否認の段階:心の無意識の防波堤否認とは何か? 否認は、私たちの心がショックや苦痛から自らを守るために無意識に行う行為です。ジークムント・フロイトによって初めて深く掘り下げられたこの防衛機制は、私たちが直視したくない現実から目を逸らす方法です(Freud, 1936)。 否認の表れ 虐待の被害者は、しばしばその辛い経験を心の奥深くに封印します。それはまるで、起こったことを忘れるか、またはそれが些細な出来事だったと自分に言い聞かせる行為です(van der