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「雀鬼」という呼称について

※このページは、1月に更新した「20年間無敗の雀鬼」桜井章一さんについてという記事の無料部分の一部を、独立させたものです。

先月の記事と同じ内容です。すでにお読みの方は、スルーしてください。長文を整理したかったのですが、まぎらわしい更新になってしまって申し訳ありません。

※この記事は「月10回以上更新」のカウントに含めません。13~14日に、もうひとつ新規の記事を更新予定です。


昔の感覚

昔から、「仕事の鬼」「野球の鬼」といった言い回しがありました。

「あの少年は褐色の雌馬の上できれいさっぱりと私の事は忘れて、ただもうスピードの鬼になって仕舞ふのです」(井上靖『猟銃』1949年)
「少しでも無駄な出費をなくして、貯蓄のオニとなろう」(庄野潤三『道』1962年)

そんな感じで、麻雀に精魂を傾ける人を「麻雀の鬼」として、「雀鬼」と呼ぶことがありました。

『麻雀放浪記』の阿佐田哲也先生も、そういうニュアンスで「雀鬼」という言葉を使っていたと思います。

あさだ

『雀鬼五十番勝負』 が1971年、『雀鬼くずれ』が1974年

阿佐田哲也先生は、色々な「雀鬼」たちについて書いておられます。
(「土俵の外の雀鬼」として大鵬親方。「コメディアンの代表的雀鬼」として萩本欽一さん。「熱血雀鬼」として福地泡介先生……)

※『麻雀放浪記』の中で「雀鬼」という言葉が使われているのは、「銀座の雀鬼」鎌ちゃんだけ。(設定年代は1950年代前半。『ああ勝負師』でも、それと同じくらいの時期に雀鬼兄ィと呼ばれる人物がいたとあります)

そんな感じで、昔は、特定の誰かひとりが「雀鬼」と呼ばれたわけではありませんでした。

このような「雀鬼」の用例は、『雀鬼四天王』とか『雀鬼飛龍伝』とか数多いです。

みなごろじゃんき

『皆殺しの雀鬼』が1977年、『雀鬼2025』が1984年。
1987年~1990年には、中島徹先生の『少年雀鬼 -東-』が『週刊少年サンデー増刊号』に連載しています。

『名探偵コナン』の世界には「名探偵」がたくさんいて、服部平次が「西の名探偵」と呼ばれています。
「雀鬼」も、それに少し近い言葉だったかも知れません。

せんだいのじゃんき

『近代麻雀』1985年1月号

『近代麻雀』の占いコーナーも、「1月生れの雀鬼の運勢は?」みたいなノリでした。

きんま占い


桜井章一さんの登場

1984年ごろから、桜井章一さんが「伝説の雀鬼」としてテレビや雑誌に露出するようになりました。

でんせつのじゃんき

その時点では、桜井章一さんを表すフレーズは「伝説の雀鬼」だったのですが……。

1984年、桜井さんをモデルにした小説『伝説の雀鬼』が連載開始
1988年、牌の音が「雀鬼流」の道場として開設
1991年、「雀鬼会」が誕生
1993年、桜井さんをモデルにしたVシネマ『雀鬼』シリーズが開始

といったことがあるうちに、気がつくと、ただの「雀鬼」が桜井章一さんのブランド名みたいな感じになっていたというか……。

いつからか、桜井章一さん以外に「雀鬼」という言葉が使われる頻度は、激減していました。

その辺りの時期や詳細については、調査不足で申し訳ありません。
パッと思い出せるところでは、Leafのエロゲ『DR2ナイト雀鬼』が1995年の発売。

ナイト雀鬼

志名坂高次先生の『麻雀倶楽部』でも、1995年に「麻雀に精魂を傾ける人」という意味で「雀鬼」を使っています。

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なので、とりあえず1990年代半ばには、現在ほど「雀鬼」が桜井さんの専売特許ではなかった気がします。


最近の話題

最近の漫画だと、吉住渉先生の『キャラメル シナモン ポップコーン』で、外資系映画会社の宣伝プロデューサーである主人公が、『雀鬼』という映画を担当しています。

きゃらk

『ココハナ』2021年3月号

これに関しては、桜井章一さんの影響があるのかないのか、作者がどういうイメージをお持ちなのか分かりません。
トレンディな世界観で雀鬼の話をしている違和感がなかなかです)


雑メモ

・「雀鬼」の商標を登録しているのは、『近代麻雀』の竹書房(雑誌)、『CR雀鬼~桜井章一伝説~』の大一商会(遊戯用器)のようです。

商標


・桜井章一さんご本人は、「雀鬼」と呼ばれるようになったのは顔が鬼のようだったからと述べています。

「奥歯をグッとかみしめ、額に青筋を立てて勝負していたんです。そのすさまじい形相から、いつからか雀鬼と呼ばれるようになったんです」(『到知』2002年2月号)


・ネット上には、「もともとは阿佐田哲也のニックネームが『雀鬼』だった」といった記述が多いのですが、あまり適切ではない気がします。

(桜井章一さんに定着する前の「雀鬼」は「麻雀に精魂を傾ける人」を指す一般的な言葉で、「雀鬼」が阿佐田哲也さん個人の称号だった時期はなかったように思います)

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