ジョージ秋山伝説 その1 ~『告白』『ばらの坂道』『ザ・ムーン』など~
6月1日、漫画家のジョージ秋山先生の訃報が伝えられました。
それで、6月1日からずーっと、ジョージ秋山先生のことを考えていました。
魂の巨匠について、私などがいまさら言えることもないのですけど、少しだけ、ジョージ先生の思い出話をさせていただきます。
『銭ゲバ』
ジョージ秋山先生は、最初、『パットマンX』『ほらふきドンドン』などのギャグ漫画を描いておられました。
しかし、1970年~1971年、『少年サンデー』に『銭ゲバ』、『少年マガジン』に『アシュラ』というストーリー漫画を連載します。
『銭ゲバ』の主人公は、医療費を払えなくて母親を失った男。
その経験から「金は人の命よりも重い」「銭のない正義は無意味」と考え、金のために公害をばらまき、殺人を繰り返す主人公。
「それでも人間か!?」と問われて、迷いなく「そう人間ズラ」と答えるのが、彼の人間観でした。「人間はみんなきたなくいやしいもんズラ」
それから、純粋な女子高生と知り合って、彼女だけは清く美しいことを期待しますが、結局、彼女も服を脱いで「お金がほしいの」と言います。
即座に彼女を撲殺して、絶望する主人公。「どいつもこいつもブタズラ! まともな奴はひとりもいないズラ!」
そうして、金も地位も美女も手に入れた主人公は、拳銃で自殺。
この最終ページが大好きです。
『アシュラ』
『アシュラ』は、飢饉が続く村に生まれて、狂った母親に食べられそうになった孤児が主人公です。
泥水をすすり、人を殺した肉を食べることで生き、「きさまが生んだおかげギャ」と両親をうらみます。
それから、優しい女性と出会って、理想の母親像を見ますが、彼女もまた、餓死寸前に追い詰められると、人肉だと言われた肉を食べてしまいます。
その後、主人公は、母親の死体を埋めて、
これが最終ページでした。
『告白』
『少年サンデー』では、1971年6号で『銭ゲバ』が終了したあと、11号から『告白』という連載が始まります。
それは、ジョージ先生の「自叙伝」としてスタート。
幼いころに両親に捨てられたジョージ先生が、「あんたは自分のつごうでわたしをうみ、自分のつごうでわたしをすてた」と母親へのうらみを叫ぶシーンは、『アシュラ』のルーツ的なものを感じさせます。
また、相思相愛の女性と貧乏な暮らしをしていたら、あっさりと金持ちの男に鞍替えされて、「女はみんな淫売だ」と失望するのは『銭ゲバ』感があります。
こういったシチュエーションは、のちのジョージ作品でも、呪いのように何度も何度も繰り返されます。
なので、先生ご自身がそういう体験をしているという話なら、理解しやすいです。
ただ、この『告白』という漫画は、そう単純なものでもありませんでした。
というのも、この作品、第1話の冒頭から「私は友人を殺した」という衝撃の告白でスタート。
幼少期に友人を崖から突き落としたという経緯が語られるのですが、そのあとの回を読むと……。
「がけからつきおとして殺したといったのはうそだったのです。ほんとうのことをかくのが、こわかったのです」
と、真実は、罠にハメて感電死させたのだそうです。
しかし、次の号では、実は殺したのは友人ではなく、近所の爺さんだったという話になります。
そして……。
「いままでウソの告白をしてきた」
「わたしは読者をどこまでだませるか試したのだ」
「読者をだますことが、許されるはずがない」
「わたしは、まんが界から引退せねばなりません」
「わたしはもうまんがをかきません」
「週刊誌を五本連載していますが これも全部やめることにしました」
と、唐突に引退宣言。
そして、自室で酒を飲んで寝ていたジョージ先生が、「いらっしゃい」と呼ぶ声に導かれて外に出ると、そこは一面の花畑。
パットマンXやデロリンマンなど、ジョージ先生の作品のキャラクターたちが現れます。
楽しい音楽が流れて、甘いお菓子を食べながら、自分の漫画のキャラと笑い合うジョージ秋山先生。
そして……。
この最終ページが強すぎます。
両手を広げて「ありがとう青空。ありがとう太陽。ありがとう花。」と叫ぶジョージ先生のヤバさに、意味不明な衝撃を受けました。
とにかく、読まされた側としては、ある意味で『アシュラ』すら凌駕する衝撃を受けました。
それから、先生は宣言した通り、連載を終わらせて本当に旅に出ます。
『ばらの坂道』
それから、ジョージ先生は、2か月半の放浪の旅を終えて、無事に帰還。
ジャンプで『ばらの坂道』という連載を始めます。(短い引退でした)
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