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11月5日13時39分(JST)の詩

この日時を見てピンときた人もいるかもしれません。
そう、これは第47代米大統領が決まった時間。
この詩はその時の心境を詠んだものです。

MY FRIEND HAS BROUGHT ME THE MORNING’S PAPER

My friend has brought me the morning’s paper,
Redacted, completely blacked out,
Mercifully. It sits there on the table,
Unread. I look outside to see which way
The wind blows . . . no swaying in the trees.

I am sorting the screws from the bolts,
Something I’ve been meaning to do,
For some time. The screws in this jar,
The bolts in that one. Some bolts go
In the wrong jar, so I must start again.

I revel in the rhythms of “The Waste Land”
Again and again, but not “The Hollow Men,”
Of whom I am not. Wednesday 13:39,
In my head weird shapes of red and blue spin
But the passersby pay it no mind.

Lady Liberty wades up to her knees
Tempest-tost, I guess she just had to leave that scene.
Tears in her eyes, that flowing robe
Rolling, swirling in the waves, that lamp shines
Its light and the sun sets so slowly behind her.

H.L.B(米国人詩人、劇作家)

【拙訳】
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友だちが朝刊を持ってきた

友だちが朝刊を持ってきた、
修正済み、黒で塗りつぶしてあった、
ありがたい。それはテーブルの上にあり、
けっして読まれることはない。窓の外に目をやり
風向きを見る……木々は揺れていなかった。

ひたすらボルトとネジを分別する、
それはずっと先延ばしにしていたことで、
このビンにネジを入れ、 別のビンにボルトを入れる。
まちがえたら、はじめからやり直す。

「荒れ地」(1)をリズミカルに口ずさむ
何度も何度も繰り返す。でも「虚ろな人々」(2)はやめておく、
ぼくは虚ろじゃないからだ。水曜日 13時39分、
頭の中で赤と青、異様な形がくるくる回る、
そんなこと道行く人は気にしない。

自由の女神 ひざまで潮につかり歩いていく
嵐に翻弄され、その地を去るしかないからだ。
目に涙を浮かべ、ローブが波間に浮かび、
うねり、渦巻き、トーチが輝く。
その灯と太陽は、ゆっくり女神の背後に沈みゆく。

1“The Waste Land” by T.S. Eliot
(『荒地』T.S.エリオット著、岩崎宗治訳、岩波書店、2010年8月刊他)
2“The Hollow Men” by T.S. Eliot
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ぼくなりに解説をしてみますね。

詩人は日本に暮らす米国人。今回の米大統領選の結果に大きな衝撃を受け、
今後4年間ニュースも新聞も見ない、と言い切りました。
そんな彼の気持ちをくんで、黒塗りの新聞を手渡した友だち。
読まずにテーブルに置かれた新聞。
世の中の情勢はどのように振れるのか、
窓の外を見ても答えは見つかりません。

何も手につかず、ひたすらシンプルな作業を繰り返す彼。
おもわず口に出たのが英詩人エリオットの「荒地」。
ご存じの通り、それは荒廃する世を詠んだ歌。
「虚ろな人々」はもっと絶望的だ、と詩人は思う。

赤と青の形――日本でも今回の米大統領選は、メディアがごぞって取り上げてきたので、イメージが湧いたと思います――赤は共和党、青は民主党のシンボルカラー。
TVの選挙番組では、各州を制した政党の色でアメリカの地図が塗りつぶされていきます。
選挙当日までほぼ毎日、選挙予想がなされ、赤色、青色の形が大きくなったり、小さくなったりしていたほど、接戦が予想されていました。
選挙当日13時39分に勝敗があっけなく明らかになりました。
その結果を受け、当惑した詩人は「なぜ、どうして?」と自問します。
なのに街の通りを歩く人は空吹く風。

そして見つけたのが一枚の画像。
そこには、アメリカに絶望し、フランスに帰っていく、自由のシンボル「自由の女神像」の後ろ姿でした。

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これを機に、T.S.エリオットの詩を読み返してみたいと思います。
Ciao!






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