迷いの塔(ドラクエ6)ドラムアレンジ解析
ドラクエ6の「迷いの塔」は、歴代ドラゴンクエストの楽曲の中で最もドラムが躍動する異色曲である。一方オーケストラ編曲は冒頭のカウベル以外は木管四重奏のシンプルな構成となっており、ゲーム音源との乖離が甚だしい。
それもそのはず、ドラムアレンジはドラゴンクエストVIのサウンドチームの崎山仁さんが追加したものである。すぎやまこういち先生を心底尊敬する私としては他の人のアレンジが混ざってることを知り複雑な思いをしたが、それでもSFCアレンジは、すぎやまこういち先生の現代音楽エッセンスと崎山仁さんのマニピュレータ・パーカッショニストの才能が融合した無二の出来となっている。
このたびドラムの勉強がてらSFCアレンジの耳コピに挑戦した。この記事ではここで得たドラムアレンジの知見を紹介したいと思う。
※ハーモニー解析はこちら
序奏
序奏はすぎやまこういち先生の原アレンジのカウベル(木魚)に裏拍ハイハットを追加しただけのシンプルな序奏。7/8拍子の後の4/4も実質5/8+3/8なので、序盤からかなり変則リズムである。7/8でカウベルとハイハットの拍の裏表が入れ替わるのも面白い。
スネアのフィルインによりAパートに入る。
Aパート前半
Aパート前半は4/4拍子でバスドラが奇数拍、スネアが偶数拍を叩くロックの典型リズム。2度でぶつかるパーカッシブなピアノショットも相まって縦ノリ感を最大限に演出する。フルートが悪のモチーフを歌い上げ、本曲のいわば「顔」となる部分である。
スネア+タムタムのフィルインで後半に進む。
Aパート後半
最初の2小節は、ピアノバスの躍動に合わせて16分ビートを刻む。5/8の余りの1拍を経て8ビートに落ち、さらに3/4拍子小節の1拍目でタメを作って(赤い四角)からピアノの和音を鳴らす(赤い丸)。この高度なアレンジはメリハリが絶妙で、ぜひ参考にしたい。
その後はスネアとバスドラが交互にロック・ ビートを刻み変拍子とポリリズムを形成する。ハイハットがベースに合わせて強拍を強調しているため混沌とした感じはない。
スネアの軽いフィルインを経て後続パートに進む。
Bパート前半
ピアノは5+6+6の17拍で8/8+9/8を構成してるため、変拍子感がかなり強い。対象的にドラムはハイハットを刻むだけで、パーカッションは敢えて小休止して、ピアノを引き立てている。
Bパート後半
バスドラが冒頭に1発、スネアがピアノショットに合わせて2発打たれる以外はタムタムが踊り狂う。タムタムの乱舞と不協和ピアノショット(増4度+完全4度)が不思議とマッチしており、個人的に本パートが一番のお気に入り♪
シンバルの強打がピアノバスと同期し、変拍子のgroove(5/8(2拍+3拍)+7/8(2拍+3拍+3拍)+5/8(2拍+3拍))を確定させているのも注目で、タムタムが好き放題躍動できるのはこのお陰である。
Cパート前半
ここは悪のモチーフのAパート再現といった部分で、ロックの定形リズムに戻る。しかしハイハットで16分音符を刻むことでAパートとの微妙な違いを演出し、飽きさせないようにしている。
後続へ繋ぐフィルインで初めて32分音符が登場しリズム的な頂点に向かっていく。
Cパート後半
リズムは再び躍動する。一聴したところ混沌としているが、最初の4/4から変拍子に至るまでバスドラ奇数拍スネア偶数拍のロックリズムを維持するのがポイント。タムタムで変化をつけつつもシンバルが変拍子の強拍を補強している。変拍子を強調するシンバル、ロックリズムを押し通すバスドラ&スネア、隙間を埋めるタムタムが絶妙にマッチして、Bパート後半よりも複雑度が増している。
タムタムの32分フィルインを経て、最後の5/8拍子の小節はピアノとシンクロして「ズチャ・ズチャチャ」というリズムを刻んで本パートを締めくくる。
Dパート前半
悪のモチーフの登場も3回目、ここまで来ると定型8ビートリズムにも遊び心が出てくる。4拍目のスネアが半拍前倒しになるのが最も特徴的だろう。1拍目のバスドラが16分連打で入るのも心地よい。
32分の技巧的なフィルインを経て次パートに進む。
Dパート後半
時にピアノバス、時にピアノメロとシンクロしてシンプルかつモノリシックなリズムを刻んでいる。前パートとのシンクロ率の対比が見事。シンバルがアクセントとなっている。
コーダ
最後はシンバルの4ビートで落ちかせてループを終わる。
まとめ
パーカッションはリズムしか表現できないが、それでも疎⇔蜜、複雑⇔単純、シンクロ⇔乖離といった対比ができ、楽曲のストーリーの演出が可能である。
本曲では序奏→A前(8ビート)→A後(変拍子)→B前(8ビート)→B後(変拍子)→C前(8ビート)→C後(変拍子)→D(8ビート)→コーダ、と変拍子の有無でリズム的な対比が強調されている。それだけでなく、8ビートや変拍子の再登場ごとに多彩な変化をつけた素晴らしいドラムアレンジとなっている。特に変拍子パートは、Aパート後半は裏拍ビート、Bパート後半はタムの舞、Cパート後半は表拍ビート、という騙し絵のような構成となっているのが飽きさせない巧妙な仕掛けだと感じた。
すぎやまこういち先生の現代音楽エッセンスと極めて高い次元で融合し、現代音楽のエキセントリックさを強調つつ、ロックのノリも併せ持った強烈な独自性を放っている。
今回スルーした すぎやまこういち先生作曲パートの解析は別の機会に行いたいと思う。