【ATEEZ 世界観③】 ZERO : FEVER Part.3 DIARY ver. ストーリー和訳
ATEEZの7thミニアルバム『ZERO : FEVER Part.3(DIARY ver.) 』に収録されているストーリーを日本語訳しました。
全4編となるFEVERシリーズの3作目であり、クロマーを取り戻す旅を続けるATEEZの冒険が佳境に入ります。
ZERO : FEVER Part.3 ◀いまここ
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あらすじと概要
今作『ZERO : FEVER Part.3』のストーリーでは、新たな仲間を迎え、物語の舞台は旅の目標であるアンドロイドガーディアンの拠点・アンドロイドバンカーへと移ります。そこでホンジュンが見た黒いフェドラの男たちの真実や、冒頭に挿入された世界観の説明など、手に汗握る冒険とともに世界の謎も少しずつ明かされています。
タイトル曲のひとつ、『DejaVu』MVのラストにはクロマーを抱くヨサンが描かれており、今作のストーリーとリンクしています。また、ガラスに閉じ込められた黒いフェドラの男(ハラティズ)も登場します。このガラスの棺は『Say My Name』に登場したガラスの棺と同じもので、『Say My Name』のMVが今作のストーリーに繋がることが伺えます。
本編
INTRO
第四次産業革命以後。科学技術が急速に発展し、平均寿命は200歳まで延びた。寿命が延びるにつれ、正規学習課程は40年に延長された。単純に世界を理解するためには、基本の知識を習得するのにそれほどの時間がかかった。
中央政府は、AIシステムを通じてすべてのことを効率的かつ予測可能にする、理想的な社会を建設するのだ、と言った。すべての変数を除去する〝一括統制政策〟を進行するということだ。AIシステムはすべての変数を計算し、政府はこれにより社会統制が可能になった。しかし、ただ一つ、人間の感情は計算が不可能だった。
新しい変数をバグと判断したAIは、ディープラーニングを用い、測定不可能だと考えられていた個々人のエネルギーを計算して、取引まで可能な新しいマーケットプラットフォームを作り出した。芸術分野の全面禁止、さらに新エネルギー取引システムまでもすべて統制することで、人間の感性、感情、自由意志はだんだん薄れていき、全人類がシステム維持のための部品程度に転落してしまった。
JONG HO
審判が試合再開を告げた。チームメイトが相手チームに渡ったボールを奪って僕にパスする。僕は鮮やかなドリブルとともにコートを突っ切った。
ブロックを避け、レイアップシュートを試みた。ボールがリングを通過した! 逆転だ!
高ぶる思いで着地すると、突然コートの床が目の前に迫ってきた。
足をくじいたのか? 頭が真っ白になった。床に触れる直前、誰かが僕の腕をつかんだ。
「ジョンホ!」
聞き慣れた声だ。聞き覚えのある声。誰だろう? 光に目が慣れるなり、僕の腕をつかんでいるその人の姿があらわれた。医者だった。医者は神妙に話を切り出した。
僕の足首について。日常生活に問題はないが、バスケはできないという。チームメイトたちは、哀れみの視線だけを残して遠のいていった。僕をつかんでいる医者の腕を振り切って、遠のくチームメイトたちに向かって声を張り上げた。お願い、僕も連れて行って! どうか僕を捨てないで! 僕は必死にもがいた。
そのとき、また。
「ジョンホ、チェジョンホ!!」
医者の顔の向こうに、ヨサン兄さんの顔がぼんやりと見えた。兄さんは残った腕を伸ばして、僕の腕をしっかりとつかんだ。僕は混乱に動きを止めた。
ヨサン兄さんは僕を引っ張り上げ、自分のガスマスクを外して僕に被せてくれた。何度かの呼吸の末に、周辺が鮮明にあらわれた。僕たちは崖の近くにへたり込んでいた。僕は何とも言えない表情でヨサン兄さんを見つめた。兄さんは「グライムズ少女の声を見つけたよ」と僕の手を握った。そして、あたたかく笑って、言った。
「ここから出よう」
YUN HO
レフトアイが振り回したバットはすんでのところで俺を外し、捨てられた窓ガラスに当たった。割れたガラスの破片があちこちに飛び散り刺さった。俺は身じろぎ一つせず彼を見つめていた。
そうすればするほど、彼はさらに頑としてバットを振り回した。バットに当たった物たちは無残に砕けて割れた。そうして俺は、彼に向かってゆっくりと近づいた。もう一度、メンバーたちが俺を引き止める声が聞こえる。しかし、妙な憐憫が、憐憫を超えたある感情が、恐れをなさずに俺を彼の前に立たせた。
レフトアイはなおもバットを握りしめていたが、その瞳は揺れていた。幻覚症状がいくぶん消えたような目の色が感じられた。
「あなたのせいじゃありません」
どさり、と。床に落ちたバットとともに、糸が切れた人形のようにレフトアイもくずおれた。
「はじめから、誰かを傷つけるつもりなんてなかったじゃないですか」
彼は顔を上げ、悲しい目で涙を流した。これまで押さえつけて、目を背けていた感情とともに。彼は娘を失ってから、幾日ものあいだを自責して過ごしたことだろう。
もしもあの日あの場所に送り出していなかったら。もしも自分が一緒だったら。もしも、もしも、もしも……。
俺は彼を見ながら、まるで鏡の前に裸のまま立っている気分だった。
MIN GI
「あの少年たちが黒い海賊団を救ってくれるよ」
アンドロイドガーディアンのバンカーに向かう海の上。メンバーたちは眠りにつき、俺はしばし甲板に出た。グライムズ少年の確信に満ちた声が聞こえる。荷が重い会話に割り込みたくはない。俺は静かに身を隠した。
彼らはレフトアイの娘が踊っている映像を一緒に見て、思いのままに笑って、歌って、踊っていた時代を懐かしんでいた。黒い海賊団を助けだしたなら、いつかそんな日が来るだろう、と、お互いを慰めていた。
「海を見て」
声を取り戻したグライムズ少女が、小さく叫んだ。夕暮れの空に似たオレンジ色を目いっぱい含んだ海水が、うねりを起こして波打っていた。美しかった。
「これを見逃して生きてきた」
レフトアイが言った。過ぎゆく過去に目を塞いだままもがいていた、と。
彼らはしばらく黙って海を眺めていた。全ての恐れや不安が消えたように、グライムズ姉弟は歌を口ずさみはじめた。口ずさんでいた歌は少しずつ大きくなり、レフトアイはおどけてダンスを踊った。滑稽だが愛らしいダンスだった。俺も思わず小さく笑った。
風は穏やかに吹き、俺の頭をくすぐった。海は宝石を抱いたようにきらめいていた。いつのまにか、レフトアイとグライムズ姉弟は歌を歌いながら一緒にダンスを踊っていた。誰かが言っていた。踊りを踊るということは、生への意志がほんの少しでもあるということだと。だから絶望を前にしても踊るのだ、と。
そうだ。俺もいつも見逃して生きていたかもしれない。不幸にとらわれて、現在を、今を、見ることができなかった。
絶望の太陽は地平線の向こうに姿を隠して、希望の星が空に浮かんだ。
波打つオレンジの光はたち消え、海は次第に星を宿しはじめた。
WOO YOUNG
翌日午後遅くになって、ようやく俺たちは島に到着した。だらりとした昼下がりの日差しのあいだに、ペンションやサンベッドが散らばっていた。海辺の砂の上に足を踏み入れると、むせ返るような熱気がのぼってきた。かつては「休養の島」という別名を持つ島だったが、息抜きや旅行が時間の無駄になってしまった今は、誰も住んでいない無人島になったのだという。
迅速な脱出のため、グライムズ姉弟とレフトアイは船に残り、俺たちは島に入ってアンドロイドガーディアンのバンカーがありそうな場所を探した。
意外にも、バンカーを見つけるのは難しくなかった。生の痕跡が消えたこの島で、見慣れた黄色い煙が絶えず噴き出している場所は、ひとえに一か所だけだった。
到着してみると、そこは島の真っただ中に位置する美術館だった。美術館だなんて。あらゆる芸術活動を禁止させた彼らが、美術館を自分たちのバンカーにするなんて。
俺たちはがらんとした美術館のロビーを抜けて、展示場の方へ歩いていった。展示の動線を案内する矢印が指し示す方向から、黄色い煙が流れ出てきていた。
煙の幻覚症状を愉しんでいるアンドロイドガーディアン何人かが、べろべろに酔っぱらって床に伸びていた。そしてその先には、黒いフェドラの男たちが、ガラスの牢獄の中に閉じ込められていた。
HONG JOONG
煙の中を突っ切って到着した場所には、彼がいた。いや、もっと正確に言えば、彼らがいた。僕たちが夢の中で出会った、黒いフェドラの男たち。
一人だけ、壁に寄りかかってやっと持ち堪えていた。直感的に、彼らを助けなければいけない、と思った。
ドン! ガラスの壁に体を躍らせた。びくともしなかった。もう一度、身を投げる。ドン!
その音に、壁に寄りかかっていた男が顔を上げた。
「やっと来たんだな」
彼はどうにか手を伸ばして、つけているマスクを下ろした。彼の顔をみるやいなや、僕はそのまま固まった。彼は僕だった。だから、僕と同じ顔をしていた。
「よく聞け、僕たちがお前たちをここに呼んだんだ」
すでに信じられないことの連続ではあったが、僕と同じ顔をしている者と向き合うこのありえない状況に、僕はかぶりを振った。
「僕たちはここに捕まっている。誰かに僕たちのやるべきことを引き継いでもらわねばならない。
ここまで来て感じただろうが、この世界は変化が必要だ」
「なんで僕たちなんですか?!」「なんで顔が同じなんですか?!」
僕は彼の言葉に質問しながら、ガラスの壁に身を投げ続けた。ぶつかって、ぶつかって、ぶつかってみても、ガラスの壁は割れる気配すらなかった。
「今全部を話すにはもう遅い。煙がもっと薄くなったらガーディアンに見つかるだろう。ひとまずこうしてみろ」
そして彼は僕たちみんなに、ガラスの壁に手のひらを当てるように言った。僕たちは彼が言うとおりにガラスの壁に手をかざした。彼も手を伸ばして反対側のガラスに手のひらをかざした。
「誰もが壁にぶつかる。そもそも壁なんてなかったら、すべてが幸福になると思うだろう。だが、簡単に手に入れたものは簡単に失う」
禅問答のような彼の言葉に、僕たちはお互いを見つめ合った。同じ顔の男たち、今まで経験した数々の信じられないこと。この世界に対する終わりのない疑問と、理解できない頭の中とは関係なく、何やら熱く黒い光のエネルギーが僕たちを包み込んだ。黒い光が次第に消えていくと、彼らのブラックスーツが僕たちに着せられていた。
SAN
呆気にとられたまま着せられた(?)黒い海賊団のブラックスーツをしげしげと見ていると、ガラスの壁の向こうのホンジュン兄さんと同じ顔をした男が、今すぐ火を消して、煙が全部抜けきる前に逃げろ、と叫んだ。
アンドロイドガーディアンが展示場の真ん中で燃やしていたものは、新エネルギーで凝縮させた人々の記憶だった。床に落ちている燃え尽きた記憶を調べた。
愛する人に告白した記憶。
子犬と海辺を散歩した記憶。
はじめて友達と一緒に行った旅行の記憶。
小さいけれど大切な記憶たちだった。こうした記憶は、今日の挫折にたやすく崩れない支えであり、明日への希望だった。アンドロイドガーディアンは希望を燃やしていた。他人の希望を燃やし、その記憶に酔いしれていた。
怒りが込み上げてきた。そのとき、ソンファ兄さんが叫んだ。
「ヨサンがいない!」
SEONG HWA
ヨサンが消えたという事実にパニックになった僕たちは、一目散にロビーへと駆け出した。幸いにも向かい側の展示場から、ヨサンが僕たちと同じタイミングで走ってきた。安堵感に向かい側の展示場へ行ったが、自分の後ろを確認していたヨサンが、僕たちに向かってきらりと輝く何かを投げた。クロマーだった。
もう家に帰れる、という喜びもつかの間。ヨサンの後ろからアンドロイドガーディアンがどっとあふれ出てきた。一番巨大なやつがヨサンの首をつかむ。クロマーを渡さなければヨサンの首をへし折る、と、ヨサンの首をつかんで持ち上げた。
方法はなかった。クロマーを持ったホンジュンがヨサンに近づこうとすると、アンドロイドガーディアンは来るな、クロマーを投げろ、と命令した。
「絶対にあげないで! クロマーも奪われて僕たちも捕まる!」
ヨサンが叫んだ。最悪の状況だった。クロマーを渡さなければヨサンが危ない。クロマーを渡せば僕たち全員が捕まる。僕たち七人のためにヨサンを犠牲にすることはできない。何を選択すべきなのか。
ホンジュンも同じ考えだったようで、僕たちとヨサンを交互に見た。心の決定を下したかのように、ホンジュンは言った。ヨサンを彼らと僕たちのあいだまで送り出してくれたら、クロマーを投げてやる、と。
YEO SANG
この美術館の中で、アンドロイドガーディアンはまたたやすく僕たちを捕まえるだろう。それならば、僕を救ってクロマーも手に入れる方法は? ……ない。四方に彼らがいるからだ。全部僕のせいだ。僕がもう少し用心していたら、いや、そもそも最初からみんなが僕と会わなかったら。倉庫から追い出されて、みんなが散り散りになることもなかったはずだ。そしたらこうしておかしな場所で、今のように危険にさらされてもいないだろう。
そんな考えごとをしているうちに、いつの間にかメンバーたちとガーディアンのあいだ、ど真ん中に立ち止まっていた。アンドロイドガーディアンがホンジュン兄さんにクロマーを投げろと叫んだ。僕は口がからからに渇いた。ホンジュン兄さんが手に持っているクロマーを見やる。
クロマー。僕たちがあの砂時計について知っていることは何があったかな。ふとそんな考えが思い浮かんだ。そうするうちに、ある考えに行き当たった。賭けではあるが、他に方法はなかった。
ホンジュン兄さんが、アンドロイドガーディアンに向かってクロマーを投げた。クロマーは大きな放物線を描いて飛んでいった。僕は素早く前に走ってクロマーをひったくり、驚いているメンバーたちのあいだでクロマーを回した。あわてたアンドロイドガーディアンは僕を捕まえようと追いかけてきた。その瞬間僕は、クロマーを床に叩きつけた。砂時計のガラスが砕け、砂粒が四方に飛び散った。ホンジュン兄さんが連れて行かれる僕の手を握ろうとした瞬間、光が瞬いた。
OUTRO
「いち、に、さん、し、ご、ろく………………なな……」
明け方の重たい空気の上に、震えるサンの声が響いた。気がついたとき、僕たちはすべてがそのままの倉庫の中にいた。僕たちが最初にあの場所へ発ったときのように。
サンは七という数字を信じられなかった。正気を保とうと努めて、流れる涙を袖でぬぐっていた。僕たちはどんな言葉もうかつに切り出すことができなかった。ただただお互いの顔をひとつずつ確認するのみだった。
「僕、ジョンホ、ウヨン、ミンギ、ユノ、ソンファ兄さん、ホンジュン兄さん…………」
サンは激しく首を振ったあと、また確認して、自分の頬をはたいてまたもう一度数えてみて、そうして何度も繰り返した。彼の声に涙声が強まったかと思えば、いつの間にか言葉は押し潰され、すすり泣きだけが残った。みんなの顔に冷ややかな絶望の光が差した。
「ヨサン、どうなったんだろう? まさかあの黒い海賊団みたいに……」
ウヨンはどうしても続く言葉を言えなかった。わびしい風だけが泣き声の代わりになるばかりで、誰も彼の質問に答えなかった。
ソファにもたれたまま倒れていたホンジュンが立ち上がった。ホンジュンはずっと強く握っていた拳を、みんなが見えるように開いた。するどいガラスの破片と、いくらも残っていない砂粒が、赤い血と入り混じって絡み合っていた。ホンジュンは開いた手のひらを床に向かってゆっくりと翻した。砕けたかけらが下へ、下へと落ちた。
「離れなければよかった。最初に離れなければ、何事もなかっただろうに……」
重たい空気が倉庫の中に停滞して、流れることができずにいたとき。
コン! コン! 古ぼけた鉄扉を叩く音がした。こわばる顔でホンジュンが扉を開けた。誰もいなかった。そのとき、何かが扉にぶつかって下に落ちた。
「これ、ヨサンのドローンじゃないか」
「誰が操縦したんだ?」
ホンジュンはドローンについた土を払って、倉庫にあるタンスの上にそっと置いた。そして、開いた扉から見える街の明かりを眺めた。
僕たちははっきりと感じていた。ヨサンは生きている。
意訳部分+コメント
関連動画
今作のタイトル曲のひとつ。ホンジュンとフェドラの男の再会や、クロマーを抱くヨサンなど、今作のストーリーとリンクしたカットがあります。
同じ顔をして向き合うATEEZ、美術館、ガラスの棺など、今作のストーリーと関わりがあります。また、続くEPILOGUEの内容に繋がっています。
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