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「雨の日」

 雨は私を薄暗い不自由な世界に閉じ込める。
 頭が痛い。体が重い。瞼も重い。とはいえ仕事にはいかなければならない。せめてこの暗い気持ちを晴らそうと、青空模様の傘を買った。どんよりとした日もこの傘を開けば私の頭上は晴天になる。落ち込んだ心が少し、上を向いた。薬を飲んで頭痛を散らし、出勤する。道中靴下にしみこむ雨水は私の足先だけでなく心も冷やす。長くつを履けば一日濡れた靴下で過ごすこともない。それに水たまりを気にせずざぶざぶと歩くのは小学生以来で心地よい。
 こうやって、少しずつ雨と仲良くなったつもりだけれど、彼と出かけようという日に降ればやはり気持ちは落ち込むものだ。新しく買ったロングスカート、着ようと思っていたのに。革靴は染みになるから履けないし。髪の毛も湿気で広がらないようにまとめなくちゃ。週末のために準備しておいたコーディネートが白紙になる。
 「本当にお散歩行くの?」
ジーンズに足を通す彼を横目に私は出かける服が決まらない。行くのやめようよの気持ちをにじませ甘えた声で問いかける。
 「パン屋さん、雨だから空いてると思うよ」
近所の人気なパン屋。デニッシュには季節の果物が乗っている。クロワッサンもおいしいし、あんバターサンドは格別だ。
 「あなたの好きなあんバターサンド、残ってるかも。デニッシュは苺かな。あれおいしいよね。」
そう言われると、食べたくなってしまうじゃないか。急いで着替えて長くつを履いて、傘を開く。差し出された手を握り、いざ出発。
 「いつもと違う道通ってみる?」
 「それ、今言おうとしてた」
目が合って、くすくすと笑いあう。手をつないでゆらゆらと振りながら歩く。傘はいつも私のほうに傾いていて、それを押し返そうと上を向けば優しさに満ちた瞳にぶつかる。
 彼は私の手を引いて明るい世界へ連れ出してくれる。

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TR: 雨の日 / 紙魚著||アメ ノ ヒ
PTBL: 紙魚的日常||シミ テキ ニチジョウ <> 2//a
AL: 紙魚||シミ <@tinystories2202>

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