【MODE CHANGE 2024】Make the change - Invisible, Unknown
CalTa株式会社 代表取締役 CEO 高津 徹氏からは「Make the change - Invisible, Unknown」として、三次元データとリアルタイムデータの融合が実現する未来について語っていただきました。
起業の背景と会社紹介
私はCalTa株式会社の代表を務める高津と申します。当社では、3Dデジタルツイン技術を活用し、さまざまな映像デバイスと連携する事業を展開しています。
本日は自己紹介をはじめ、事業概要やMODE社との連携について、さらに目指す未来のビジョンと多くの企業と協力して実現したいことをお話しさせていただきます。講演のタイトルには「見えないものや、わからないものを変化させる」という思いを込めました。
私が起業を決意した背景には、人口減少が進む中で従来の仕事の進め方に疑問を感じたことがありました。私はキャリアのスタートとしてJR東日本に入社し、東京工事事務所で建設プロジェクトの設計や施工管理、設備投資、メンテナンス、老朽化対策、電気工事など多岐にわたる業務を経験しました。
その中でも、特にBIM/CIM(建築情報モデリング/土木情報モデリング)への取り組みが私のキャリアの出発点となり、インフラ維持管理への関心を深めていきました。
起業の契機となったのは、鉄道開業150周年を迎えた時期です。この頃、インフラのメンテナンスが持つ社会的重要性が広く認識され、私自身もその重要性を強く意識するようになりました。
日常生活で、例えば東京駅を利用し、電車に乗って隣町や遠方の駅へ移動することで人と会い、ビジネスを行うことができます。インフラがあるからこそ、こうした人々の交流や経済活動が可能になるのです。
しかし、日本には高度経済成長期に建設されたインフラが多数存在しています。もちろん鉄道もその一つです。JR東日本での管理業務を通じて、これらの老朽化の問題は避けて通れない現実であることを痛感しました。
さらに、近年では台風や地震といった自然災害が頻発し、インフラが常に危機にさらされています。また、労働者不足の問題も深刻です。展示会やイベントに参加するたびに、多くのお客様から「人手が足りない」という声を耳にします。インフラ維持のための労働力確保が大きな課題となっています。
私が最も疑問を感じたのは、現場での業務の進め方でした。多くの現場では、未だに人の手で測定したデータを紙に記録し、それをエクセルに転記するという作業が一般的に行われています。
建設やメンテナンス、維持管理においてこのような手作業が多く残っている現状に対して、「このままで良いのか?」という疑問が生まれました。既存の手法に依存するだけでは、将来的なインフラ維持は難しいと感じたことが、起業の原動力となったのです。
ものづくりに携わる者として、新たな技術を活用してインフラ維持に貢献する道を模索した結果、3Dデジタルツイン技術を用いて遠隔で現場の状況を把握できる仕組みを提供することを目指して起業しました。
JR東日本をはじめ、多くの企業や関係者から資金や協力をいただき、プロジェクトを進めています。私は土木分野の専門家ですが、鉄道業界は総合技術産業であり、土木や建設だけでなく、エネルギーや列車制御、乗務員など、さまざまな分野の技術者や専門家が集まっています。
私たちの会社の強みは、現場の事業者の視点を持つことで、現場の悩みやニーズを深く理解し、応えられる点にあります。そのために各分野の技術者たちを集めて、幅広い視点で取り組む他、インフラの維持管理に新しい技術を導入し、効率化や労働力不足の解消を目指し、社会に貢献することを目標としています。
CalTaの具体的な取り組み
私たちCalTaでは、デジタル技術を中心にした二つの主要事業を展開しています。
一つ目は3次元デジタルツインソフトウェア(プラットフォーム)「TRANCITY」の開発と提供をするデジタル化事業です。 TRANCITYの最大の特徴は、動画をもとに自動的に3Dモデルを生成し、それを管理・閲覧できる点です。海外の企業では似たような技術が広がっていますが、日本国内ではこの技術に特化したものは少なく、市場のニーズに応える形で開発を進めています。
TRANCITYの利点は、特別な機材を必要としないことです。スマートフォンなどの身近なデバイスで撮影したデータを活用可能です。取り込んだデータはWebブラウザを通じて閲覧できるため、従来のインフラ管理プロセスを、より手軽かつ効率的に行うことができます。 TRANCITYを通じて、現場のリアルな情報を手軽に取得し、よりスマートな管理を実現できると期待しています。
もう一つは様々なデバイスを活用した現地映像取得事業です。例えば、小型ドローンを使ったアクセス困難な箇所での設備確認がその一例です。さらにロボットを使うことで、幅広い環境でのデータ収集も可能となっています。
この取り組みでは、多くの関係者と連携し、各種センサーを使ってデータのキャリブレーションを行い、ユーザーが撮影したデータを一括で集約できる仕組みも構築しています。これにより、収集した情報を効率よく管理し、分析することができます。
MODE社の「どんなセンサーでもOK」という理念は、私たちの取り組みとも親和性が高く、対象は異なるものの、多くの共通点があります。そのため、私たちはMODE社との連携を強化しています。
外部からの評価
昨年度、私たちはグッドデザイン賞を受賞しました。
この受賞に際して評価されたポイントは、設備点検の映像取得を支援し、取得したデータを3Dで生成・管理するプラットフォームをワンストップで提供している点です。
中心となるTRANCITYプラットフォームは、「何でもOK」という柔軟な仕組みを採用し、ドローン、ワイヤーカメラ、定置式レーザースキャナー、持ち運び可能なレーザースキャナー、さらにはスマートフォンでの撮影など、あらゆるデバイスからのデータ収集を実現しています。
この多様性は、MODE社の「どんなデバイスでもOK」というコンセプトとも深く結びつき、私たちのサービスを支える基盤となっています。
新規事業家の守屋実さんには、私たちの取り組みについて「CalTa経済圏を構築しようとしているのではないか」という興味深い評価をいただきました。
人々は「自分の持つものを活かして何かを成し遂げたい」という基本的な欲求があります。
私たちのプラットフォームは、ユーザーが自分アイデアやデバイスを持ち寄り、一箇所で効率的に管理・活用できる仕組みです。その結果、多様なアイデアや技術が集結し、新たな価値を生み出すエコシステムが自然に形成されることが「CalTa経済圏」という言葉に表現されています。
デジタルツインソフトウェア「TRANCITY」について
これまでの内容を踏まえ、デジタルツインソフトウェア「TRANCITY」の具体的な機能や活用例についてご紹介します。 TRANCITYには、以下の三つの特徴的な機能があります。
一つ目は、動画データを基に、自動で3Dモデルを生成できる機能です。この技術により、さまざまな対象物の測定が簡単に行えます。
二つ目は三次元デジタル地図基盤への自動配置と位置合わせです。生成したデータを地図上に自動的に配置し、位置を把握することができます。これにより「データがどこのものか」ということがわかりやすくなります。
三つ目は時系列情報の管理です。データの取得日時を管理できる仕組みを備えており、例えば「1年前はどうだったか?」といった過去のデータを迅速に確認できます。この機能は、特にインフラメンテナンスの分野で活用されており、被害発生時に過去データと照らし合わせて状況を判断する際に非常に役立っています。
これらの機能は、現場に常駐することが難しい業務環境でも迅速で正確な対応を可能にし、多くのユーザーから支持を得ています。
また、TRANCITYは国産の独自開発ソフトウェアであり、用途に応じてカスタマイズが可能です。ユーザーは、自社の業務に最適化した機能を追加でき、より効率的な管理を実現できます。
さらに、データはオープン形式を採用しており、ユーザーが撮影したデータのアップロードや、TRANCITYで生成したデータのダウンロードを自由に行えます。他のソフトウェアでの解析も行えるため、柔軟な運用ができます。
機能については時間の制約もあるため、特徴的な機能だけをご紹介します。例えばピンマークにより図面や写真など好きな情報を追加管理もできます。Web上にあるデータや自社システムにアクセスして、設備データを一元管理することも可能です。
さらに、物体の体積計算機能を活用することで、線路脇の落石の体積を瞬時に計算し、必要な機材の判断もできます。
さらに、作成した3Dモデル内を自由に動き回って視点を変えることができるため、上司や役員への説明に役立つなど、高いニーズを得ています。
また、Google 3D基盤上にBIM/CIM点群を表示させる取り組みも進めており、未来の構造物を実際の位置に重ね合わせたリアルなシミュレーションが可能です。例えば、JR東日本の高輪ゲートウェイ周辺の街開きに向けた映像データ活用がその一例です。
現在、TRANCITYは60社以上、5000人を超えるユーザーに利用されています。私たちはユーザーの声を反映しながら進化を続け、多くの方々に活用していただけるツールを目指しています。
MODEとの出会い
MODEと出会ったのは、前職のJR東日本でセンサー技術を探していた時のことです。当時、現場の情報をリアルタイムで把握するための技術を模索しており、その過程でMODEと出会い、実証実験を行うことになりました。実証実験では、作業員や重機にセンサーを装着し、作業現場の位置情報をリアルタイムで管理する仕組みを試みました。
起業後も、MODEとの連携は続いており、サンマテオのMODE本社を訪問し、新たな挑戦について、上田さんと熱心に話し合いました。
日本に戻ってからも、MODEと楽しく連携を続けています。真剣にビジネスを展開する中でもリラックスした雰囲気を大切にし、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。
MODEは「世の中のUnknownを明らかにして、データとテクノロジーで世界をMODE Changeしよう」という理念を掲げ、数々の取り組みをしています。
私たちも「今までにない新しい価値を持つデジタル基盤を創造して、見えないを見えるに変える」という目標のもと、共通の目標を掲げています。 対象こそ異なりますが、CalTaとMODEは、Invisible(見えない)やUnknown(わからない)を変えるべくビジネスを展開しています。
3Dデジタルツインとリアルタイムデータの連携
今年4月、私たちCalTaはMODEと共同でプレスリリースを発表しました。CalTaは3Dデジタルツインを活用し、過去のデータを時系列で管理することに強みを持っていますが、現状の課題として、リアルタイムでの現場の状況を把握することが挙げられます。
そこで「今この瞬間に必要な情報をどう捉えるか」を見据え、MODEのセンサー技術を活用して現在のデータを3D空間に反映する取り組みを進めています。
このアイデアに基づき、すでに一部の企業とも取り組みを開始しています。 3次元データから得られる撮影日時や場所などの情報に加えて、リアルタイムデータやMODEが提供するAIアシスタント(BizStack Assistant)と連携することで、現場の情報を一元管理できる仕組みを構築しています。
これにより、どこにどのデータがあるのかを明確に把握でき、 現場管理の効率と精度が飛躍的に向上します。これらの取り組みによって、日本の技術が世界に羽ばたく可能性を大いに感じており、今後の展開に期待しています。
具体的なイメージとして、架空のトンネル工事管理者「ヤマさん」を例に挙げてみましょう。
ヤマさんは、最近の天候変化で雨量が増え、湧水量も増加する状況を、感覚的に察知します。しかし、これが実際のデータと結びつくことで、より効果的な管理が可能になります。
彼が3D空間で現場を管理していると、目の前に現場全体が視覚化されます。そこで、ヤマさんがBizStack Assistantに「排水ポンプのデータを見せて」と依頼すると、必要な情報がすぐに表示されます。また「国土交通省の監視カメラの状況はどう?」と尋ねると、ネットワークに接続されたカメラの映像が瞬時に現れます。
これにより、ヤマさんは自分の直感だけでなく、リアルタイムの現場情報を手に入れ、迅速な判断が可能となります。例えば、排水量が増加していることを確認し、「追加ポンプをここに設置しよう」など、どこにいても指示を出すことができるのです。
私たちが目指しているのは、リアルタイムデータの確認・分析から対策の立案、情報の共有までを、デジタルツイン内でワンストップで実現することです。そのため、センサーから得られる情報と現場で撮影した映像や写真を統合し、データを瞬時に見える化できる環境を整備しています。
この仕組みにより、現場の状況をリアルタイムで正確に把握し、迅速かつ適切な対応が可能になります。私たちはこのプロジェクトに非常に強い思いを持って取り組んでいます。
本来の技術力が最大限発揮できる世界
「Make the change - Invisible, Unknown」をテーマに、私たちが目指すのは、情報が一つに集まり、どの現場でもデータが見える世界です。これにより、人間がチャットを通じて判断を下せるようになり、BizStack Assistantの活用により、言葉や時間、場所の成約を超えたコミュニケーションが実現します。
この仕組みが整うことで、技術者は雑用的なデータ収集に時間を取られず、本来の技術力を発揮できるようになります。さらに、日本の優れた技術を世界で活かすチャンスも広がります。現状、多くの技術が活用の壁に阻まれていますが、海外の人々と連携することで、より迅速かつ効果的な判断ができるようになります。
また、人口減少の中で、質の高いインフラメンテナンスの実現も大きな目標です。同時に、ダイバーシティを促進し、多様な背景を持つ人々が技術を活かせるようにすることも私たちのビジョンです。このような未来を真剣に考え、MODEさんと協力しながらデジタル化の世界を創造していきたいと思っています。
すでに取り組んでいる企業もありますので、ぜひ皆さんとも一緒に歩みを進めていきたいと考えています。リアルタイムデータが共有可能なデジタルツイン空間を、TRANCITYとBizStackを組み合わせて構築し、ブレークスルーを目指していくことが、日本の技術者の使命だと信じています。私たちは、MODEさんと共にこのビジョンを実現するために取り組んでいます。
私たちは、技術者同士の連携を強化し、日本の幸せのためにビジネスを展開していくことを目指していますので、皆さんとの協業を心から楽しみにしています。