感想文、A3! / 舞台編
前回の続きです。
そんなこんなで、A3!を始めてから、2.5次元舞台のMANKAI STAGE 『A3!』、通称エーステを見るまでそこまで時間はかからなかった。
まずは映像作品を友人に借りて鑑賞した。
ちょうど秋単独公演の最中だったので、そこまでの作品を一気に見た。
立ち絵でしか見たことのないキャラクターが動いていることだけでも感慨深いものがあったが、それより、とにかく、すんごい面白エモ構造の作品だった。個人の意見として受け取ってもらえるとありがたいです。読みづらかったので見出しをつけました。
監督という視点
まず、ゲーム開始前から一番気になっていた主人公(監督/立花いづみ/ヒロイン)の視点だ。
ゲーム内では時たま台詞を選択することでプレイヤーが主体性を持つこともあるが、主にはシナリオに書かれたセリフを話す。時に劇団員を変える重要な一言や、劇団全体を揺るがす決断をしたりもする。
一方、舞台では「監督=観客(≠私)」という構造になっていて、役者たちが話に聞いていた通り、観客に向かって話しかけてくる。監督の台詞は流れないが、音響と照明で何か発言をしたことがわかる仕組みだ。
これを見た時、相当感動してしまった。なんだこれすごい。いわゆる「第四の壁を破る」的なものかと思ったけど、どちらかというと、観客が舞台に取り込まれている構造。そしてちゃんとその瞬間に、我々は観客ではなく監督なんだ!と自認する。
台詞がない分、前後の台詞と想像で補完することになるけど、またその脳を使う試みは新しいし、各々が心の中で自分の台詞を唱えることができるのもオリジナリティあって面白い。
さらに、登場人物が直接観客に問いかけ、反応を求めるアドリブシーンもある。他にもカーテンコールや客降り(役者が客席に降りてくる)は、より一層複雑になる。
互いに第四の壁に近づいていくことで、虚構と現実の境目が曖昧になっていく。その瞬間だけキャラクターなのかキャストなのかわからない感覚に陥る。
そこに登場する我々観客も、単なる観客ではなく役としての監督でもある二面持っている。演劇でしかできない体験。最高だ。
劇中劇という入れ子構造
他にも面白いと感じたのは劇中劇。これはゲームの中にもあるのだけど、キャラクターがさらに役名を持って演じる1本の演劇が組み込まれる。舞台でも見どころの一つになっている。
キャラクターが演じるキャラクターを演じなければならないのは演技する側からしたらややこしいことなのかもしれないが、観ている方は素直に楽しめる。
これも劇中劇のキャラクターの表現なのかキャラクターの表現なのかはたまたキャストの表現なのか、時々わからなくなるが、そのわからなさが楽しい。
限りなくフィクションに近づけてくれるキャスト
物語だけでなく、キャラクターの構造も複雑に層を重ねて作られていることは前述したのだけど、そのもっとも外堀を埋めるのはキャストそのものだ。
彼らもまたフィクション的な美麗な外見と、プライベートをほとんど見せない虚構性の高さがある。
キャスト自体が直接的な現実味を持たずに、物語の外側にもう1階層あるように思わせるのも、虚構性を高めている一つの要素だと思う。
舞台という儚さ
演劇は、キャラクターは舞台の上にしかいない、というのが面白くて、永遠に手に入らない良さがある。
彼らの関係性どころか存在自体が、全てその舞台上にしか存在せず、現れる回数も決まっていて、千秋楽を迎えたらもう2度と見ることができない。
録画されたものが映像化・円盤化されることもあるが、演劇の観客席と舞台の関係は消えてしまう。
また、これは特定の劇団に所属しない演劇全てに言えることかもしれないが、キャラクターを演じるキャストたちの強い絆もその期間だけのものだ。もちろんその後も続く関係性を見せてくれる場合もあるが、舞台に存在する関係が地続きで現実とリンクするということはない。
特にA3!は劇団の話なので、作品と現実の近さを感じながらも、実際は興行が終わればそれぞれのまた別の道を歩むことになってしまう。
その儚さ、刹那が凄まじく、愛おしくなる。
一回でも多く劇場で観たいという気持ちにさせられる理由も、そのうちの一つなんだろうなとしみじみ思った。
虚構のなかに生まれるリアリティ
そんな入り組んだ構造になっているのだけれど、決して前衛的な作品ではないところ、これがエーステの最大の魅力で愛されるポイントだと思う。
キャストの方がよく「エーステはエモい」と仰っているのだが、まさにその言葉がしっくりくる。
こんなに複雑体系化しているにも関わらず、この作品のテーマは劇団員たちの成長や優しさや愛を描いている。というかこの構造から生まれる虚構性の高さの対比で、内包されるストーリーのリアルさが活きてくる。
継承する季節
また「引き継がれる物語」としても、とても良くできていると思う。
ゲームには、初代カンパニーから新世代に受け継がれてきている背景が公開されて、世代間での継承を強く感じた。
カンパニーは春組、夏組、秋組、冬組と四季で組み分けされていて、各組ごとに公演を行うシナリオになっている。
特に舞台では、各組の横のつながりと継承をより大切に描いていて、実際に単独公演として春組から夏組、夏組から秋組…と順々に公演されている。
つまり「次の季節へバトンをつなぐ」という形式ができあがっているのだ。
さまざまな想いを継承して、今の公演がある。それを意識するのはキャストや制作陣だけでなく、我々観客もだ。
それに立ち会えること、季節が巡ることがどれだけ幸せなことなのか。これも感情が入りやすいポイントの一つかもしれない。
Spring 2022を観て
現在、MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~SPRING 2022~、いわゆる春組公演、春単と呼ばれる公演が上演している最中で、私も劇場に足を運ぶことができた。
こんなご時世の中、舞台を観に行けるありがたさを噛み締めた。
せっかくなので、少しだけ感想を書いておきたいと思う。観てない方は避けたほうが良い内容かもしれません。
まず、これをどうしても言いたかった。舞台装置に興奮した。これまでになかった物理的な高さと、回転する機能を兼ね備えている。演劇のレベルを底上げしてくれているし、大きな劇場でも映えるし、表現も広がってめちゃくちゃ良かった。
特に劇中劇で強く活かされていて、回転することそのものを使って演出されているのを観てわくわくが止まらなかった。
それだけこういう部分にも手間も予算もかけてくれたことが嬉しすぎる。本当にありがとうございました。
演出面では、これまで以上に観客が物語に介入しないといけなくなっていたのも良かった。
監督とキャラクターが会話し、とあるキャラクターが監督へアクションを起こす。観客全員が「わたしは監督」と思わざるを得ないシーンもあり、ゲームからは想像しなかった演劇的表現もあって楽しめた。
感情的な部分やストーリーなどは多くの人がたくさん感想をSNSで発信していると思うのでここでは詳しくは語らないけれど、2.5次元を最前線で牽引する方たちの底力をとにかく感じれた。それが自分と同年代の方達なのも、とんでもなく嬉しく、励まされた。
構造的なことを多く書きながらも、結局このあたたかい人たちの話がやっぱりエーステ、A3!の魅力だよなぁと改めて思う作品でした。
どうか、このまま千秋楽まで無事に走り抜けてほしい。
終わりに
この作品と出会って、ずっとなんとなく遠巻きに見てた日本の演劇とか2.5次元に対する偏見は取っ払われたし、同時に偏った見方をしていた自分があまりにださかったな、と反省した。
なにより!
演劇が、めちゃくちゃ面白い!と思えた。
大人になっても、演劇を見て楽しめる機会を与えてくれた本作品に、本当に感謝です。
これからも季節が巡ることを楽しみに、監督として見守っていきたい。