清光の子守歌
「何? 俺撫でて楽しいの?」
加州清光が背負った子が襟足を触っては笑っているのに気づいたのは、いつの頃だったか。
何しろ赤子の世話をするのは初めてのことだ。
蜻蛉切の『頼んだ』の一言でこ の子を渡されたのだ。その慌ただしい様子から、急ぎ理由があり、話す暇もないのは想像がついた。それでも子育てのための現代の道具一式を置いていったのは、主の差配だと思われた。
それに清光ひとりというわけではない。本丸にはたくさんの仲間がいて、手分けしてということであったが、いつの間にか清光が担当になった。
ほかのものにいくと、機嫌が悪くなるのだ。
最初はみんな慣れていないせいかと思われ、赤子に対して一言あるといったものがきたがどうにもならず。
最後は年の功だと三日月宗近まで出張ってきたが、ダメだった。
赤子を差し出された。
「ええっ、俺が子守?」
「はっはっはっは…これはしょうがない。相性というものだろう」
それが決め手となって担当になった。
基本はずっと機嫌のいいよく笑う子だが、赤子は赤子。同じくらいよく泣く。
最初は理由すらわからなかった。それが不快感であるのがわかるとすっきりした。
それをどうにかしようと、おむつや、食事の世話をしているうちに時が過ぎていた。
赤子というのは脆いものというのはわかっていたが、大人に比べて体温が高いことや、どこか懐かしくなる匂いがするのがわかったのは今日になってからだ。
「お、よしよし」
自分は眠らなくてもどうにかなるが、普通の人間というものは、こうして好きな時に自分の感情を示してくるものとどう付き合うのだろう。
今のようになる前、刀であったときになんとなく眺めていた生活を思い出すが、湿っぽかったなとか河原のことを思い出すばかりだった。
世話し続けるのは大変と思われたが、楽しそうにしているのを見ると自然笑顔になる。こういうことの積み重ねがきっと情になり、愛というものになるように思われた。
そんな清光の考えなど知らないように無心に赤子は襟足を撫でている。
数日が過ぎた。
蜻蛉切が戻った。
「よくなついている。しっかり面倒を見てくれたのだな」
赤子は今日もよく清光の襟足を撫でている。
「つーかーれーたー」
「では、こちらへ」
蜻蛉切が背中の赤子を背負いひもを外して抱き上げた。
自由だという喜びはなく、寂しいと思ってしまったのが以外ではあった。
蜻蛉切が赤子を連れて離れていく。
泣き声が聞こえた。その泣き声もいずれ遠く聞こえなくなっていく。
ことはなく大きくなっていく泣き声。
清光は駆け出した。
子守歌が本丸に流れ始めた。
※るかさんのつぶやきから発送した発想した話です