彦十郎猫
彦十郎猫 被差別部落の伝承と生活
白岩彦十郎というのは代々継がれていく名前である。ここでいう彦十郎は、江戸時代の終わりごろ、最後にこの名を名乗った方で、戒名を彦十郎久清剣術居士という。その名のごとく剣術に長けており、旅をして回っていた。信心深く、御嶽教の行者で、易も見た。
その彦十郎はおばという猫を可愛がっていた。彦十郎の具合が悪いと、そこを撫でるなどした。こうしたことがあり、賢すぎるのではないかと思われていた。
ある時、彦十郎はおばがこっそりと出ていくのを見た。あとをつけると近くの神社で猫が集まり、おばに向かい『彦十郎』と声をかけてくる。そして上座に座り、猫の親玉なのが分かった。
翌日、彦十郎はおばに昨日のことを話し、「お前はもう出世したのだかららここにいてはいけない」と言い聞かせた。おばは悲しそうに何度も鳴いて寂しがったが、諦めて出ていった。
数年後、彦十郎が山の中を歩いていると、おばが現れ、なつかしそうに寄ってきた。達者でいてくれたと頭をなででやると、嬉しそうに鳴き、一時離れると大きな雉をとってきてお土産にくれたそうである。